txt:土持幸三 構成:編集部
地域全体で着実に映像制作の文化が育まれている街
先日、川崎大師大山門前で開催された「かわさき楽大師 ゆめシネマ上映会」というイベントに参加してきた。このイベントは今年で13回目で、川崎大師地区の映像文化を象徴するようなイベントでもある。僕もアメリカ留学から帰って来て最初に撮影した長編作品では、この川崎大師の参道や近所の幼稚園などで撮影させていただいたし、本堂近くでは弁士を呼んで無声映画を上映するなど、当時から映像文化への造詣が深い地区だったのだ。
「かわさき楽大師 ゆめシネマ」は春にある「かわさき楽大師まつり」から始まりその後、時期を秋に移して開催されるようになったそうだが、なにせ川崎大師大山門のすぐ目の前の餅屋全体に、手作りの大型スクリーンを張って映画を上映するというのだから、本当にクレイジーなイベントだ。
数日前のスクリーンテスト
毎年、大型スクリーン張りのクオリティが上がっているのが明らかで、今年はピンと張っているのを見て思わず笑みがこぼれた。写真を見ていただければわかるとおり、非常に大きなスクリーンで運営スタッフの試行錯誤とがんばりを称賛しようと思う。プロジェクターをチネチッタから借りているとのことで本格的だが、上映作品はプロジェクターにつないだノートPCから手動で上映を開始するという、手作り感たっぷりなイベントだ。
上映作品は地域の小学生が創ったもの、昔の特撮テレビ番組やKAWASAKIしんゆり映画祭に出展されたものなど様々だが、今回の目玉は「映像のまち・かわさき」の取り組みで一番最初に制作された、約10年前の作品「未来を守れ不思議なメガネ」だった。
小学生が創った作品を堂々上映
20歳になった当時の小学生
小学5年生がクラス全員でつくった作品だが、ストーリーとメッセージがシッカリしていて見ごたえがあった。そして驚くのは20歳になった当時の小学5年生が来場、イベント自体も手伝っていたことだった。僕がこの地域で映像制作を教え始めたのは彼等の次の年からだったので、直接には面識がなかったが、彼等がスクリーンの前で語った当時の様子が、今の小学5年生と同じで面白く、何より映像の楽しさを感じて地元の映像イベントを手伝ってくれたことに喜びを感じた。
また、小学生や校長先生、先生方も見にきていて、犬の散歩の途中で立ち寄る人もいたり、この地区の映像に関する興味の高さを感じた。小学生の創った作品が、観客の前で大きな野外スクリーンで上映されるなんて世界中でもココだけかもしれない。
大勢の観客
僕が講師として参加し、昨年制作された小学生の作品は、地域に昔からある薬局、パン屋、蕎麦屋などにインタビューして、昔と今の売れ筋商品を聞いたり、お客さんに買ってもらうための工夫や街の様子の移り変わりを聞いていたもので、これには地元民である観客からも笑いがこぼれて、特にご年配の方々は、小学生のインタビューに答える店主の言葉に懐かしむように頷いていたのが印象的だった。
上映前はパフォーマンスなどもあった
物語を制作する小学校の作品はいじめに関することと授業に集中せずに他の児童に迷惑をかける男の子の話で2作品ともかなりリアルなテーマだが、中身は天使や妖精が登場して問題を解決するという、ある意味小学生の定番ストーリーになっていると思いきや、1つの作品はケンカしてお互いにモヤモヤしたなかで一人の子が転校してしまい、ハッピーエンドではない手法をとっていて、作品を見たものは「この後どうなったんだろう?」とモヤモヤとした気持ちになるように創られている。
実際に子供達がそうしたいとのことでこのような結末の作品になったわけだが、教えた当時はハッキリさせた方が良いのではないかと思っていた。しかし、こうして一年近くたって見てみると良い終わりかただった。
この川崎大師地区では二つの小学校で映像授業を行っている。講師として長くこの地域に関わっているが、地域全体で着実に映像制作の文化が育まれている街だと感じた。