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txt:土持幸三 構成:編集部

相手のセリフを聞いているか?

舞台での演技を多く経験している俳優でも映像、カメラを前にした演技は全然別物と感じるようだ。先日、演技ワークショップ講師の急な仕事の都合でピンチヒッターとして、代わりに授業することになり、カメラを持って行ってきた。他にも様々な映画監督から授業を受けているらしく、授業に対する彼等のモチベーションは高い。

相手のセリフを聞こう

演技ワークショップの内容は様々だが、基本的には講師が用意した台本を演じたり、課題やシチュエーションを与えられ、自由に演じる即興劇、エチュードが多い。今回は既に俳優に渡された短い2人芝居の台本があったので、まずはカメラなしで俳優をランダムに組み合わせて演じてもらった。気になったのは相手との掛け合い。自分のセリフを言ったあと相手のセリフを聞いているか?相手が言ったことを聞いて自分の言葉(セリフ)を言っているか。

やはり俳優に演技経験が少ないとセリフを覚えること(自分の演技)に夢中になり過ぎ、相手のセリフを聞く事がおろそかになってしまう。これは小学校の映像制作でも全く同じで、俳優はストーリーを知っているので、機械のように自分のセリフを言ったら相手もセリフを言って、その後、また自分がセリフを言う。これはカメラがある無いは関係なしに演技としてよろしくない。

先日、若い女性だけの学園モノの舞台を観に行ったのだが、全員のセリフが長く、さらに演出の問題だと思うが全員早口で、相手のセリフが終わると直ぐ自分のセリフを言う芝居だっだのだが、ここまで来ると話もよくわからない上に感情移入もできないので観ていて、拷問のように感じてしまった。ただ、経験のない俳優はしばしばこの「相手のセリフ聞かない病」にかかってしまうので、今回のワークショップ参加者には注意を促した。

アップを意識してプランをして

舞台経験が長い俳優は演技はある程度できるし、自らの工夫もあり、「相手のセリフ聞かない病」もあまり無い。ただカメラが入ると話が変わってくる。筆者の場合、俳優にもよるがまずは決められた部分を自由に演じてもらう。演技に問題なければ、その演技がより活きるカメラ位置を決め、同じように演じてもらい引き画と寄り画(アップ)を2回から5回程度撮っていく。

ここで俳優に気を付けて欲しいポイントとして、最後に撮る寄り画をキチンと想像しながら引き画の演技をして欲しいということ。歌舞伎のように見栄を切るほどではないが、物語を伝えるため、より重要なセリフはアップで撮りたいので、寄れる間というか編集でカットが割れる間が欲しい。だから、「相手のセリフ聞かない病」だと間が少なすぎてカット割りしづらく筆者の好みではない。

アップのための間を大切に

筆者はプロの俳優として生活していくには、映画なりドラマなどで「あの俳優知ってる」という単純に世間一般や映像制作者から「認知」されることが重要で、その認知されるには、あいまいではあるが「良い演技」をすること、簡単には「目立つ」ことだと思っている。その「目立つ」に一番効くのはカメラに寄ってもらう、つまりアップを撮ってもらえるようになること。しかし、アップを準備している俳優はあまりにも少ない。プロの俳優はそれができている。「このセリフはアップでいくだろうな」という感じで引き画から準備して演技プランに組み込んでいる。

瞬きが多いのも要注意

舞台の演技ではこのようにカメラを使ってアップで寄る事がないので間を意識する必要がないし、引き画などもなく何度も繰り返し決まった位置で同じ演技をすることもない。舞台経験が多い俳優はここで難しく窮屈に感じてしまう。また、特にアップで撮った時は瞬きも注意しなければならない。緊張から異常なほどに瞬きが多くなる俳優がほとんでで、これもプロの俳優との違いで注意が必要だ。

この夏に今回の俳優たちと短編を制作することが決まっているので、彼等には演技論だけではなく、今回書いたような実際の撮影で必要なテクニックも是非学んで欲しい。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。