txt:岡英史 構成:編集部

未来の技術者達

映像業界はどの分野においてもいつも人材不足で、若い人材が本当にいない。パワーのある若年層が少なく、現場の第一線は年配者が多いという事だ。技術的な事や、何かトラブルがあった時の対応の多さ=引き出しの多さという意味では悪い事ではない。逆に現場の空気を覚えるのに10~20年かかるのが当たり前で、その域になるまでは軽い口など叩けない。

ここ10年間海外の展示会を行くことでそのガラパゴス具合を非常に感じる事が多かった。特に中国北京で開催されているBIRTVの来場者はほとんど20代後半~30代前半の方が多くそのパワーも凄い。

ではなぜ若い世代が定着しないのか?3Kと言われているが筆者的にはスタートラインに並ぶ以前に問題があるのでは?と思っている。自分の娘が某芸大で映像学科卒ではあるが、授業内容があまりにも机上の空論に近く、今の現場にマッチしてない授業に思えたぐらい(これは私感ではあるが)で、さすがにこれは無しなんじゃないかと疑問を思っていた。

その他にも、放送系の専門学校は都内にも数多くあり、筆者の仲間も卒業生として業界の第一線を頑張ってる仲間もたくさんいる。その方々に母校の話を聞くと首を捻るばかり。やはり時代にマッチしてない事柄を教えている気がする。つまり最新の機材や技術を教えなければならない学校(講師)が現役を引退して古い情報を教えてるからなのでは?それでは何も知らない業界の入り口にも立ってない若い層にはその先の面白さや達成感はわかるはずもない。結果映像業界はつまらないという図式になっているのかもしれない。

何をどうすればどういう結果が返って来るから今は何をしなければいけないのか、今行ってる作業(映像)はどうして必要なのか?つまり目的意識をハッキリさせていない授業や講師が多いのでは?という疑問が実際の現役学生がアシスタントに来た時にまさにその仮説は確信となった。

関西の放送業界が創った学校「放送芸術学院専門学校」

関西の重鎮とでもいうべき山本可文氏(Brains)

そんな中、実際に教育現場を見たくて、学校に取材しようと思い立った。3年位前から中継等のお仕事でお手伝いをさせて貰ってるBrains(株)ブレーンズのテクニカルプロデューサーである山本可文氏が自ら講師をやっている専門学校がある。関西の重鎮の一人である山本氏がカリキュラムを組み、自ら教鞭を切るとなれば話は別だ。

山本可文氏の授業風景

現役で最前線を走ってる方の授業はどのようなものなのか?興味が沸く。早速取材を申し込んだところ、快諾いただき、しかも授業の丸1日参加(見学)も許可をしていただいた。改めて放送芸術学院専門学校にはお礼を申し上げたい。

校内にはMAルーム、CGルーム、ラジオブースまで完備されている

現場で多忙を極める山本氏が時間を割いて学校講師をやっているのか、というのが一番の疑問でもあったが、その質問の回答はやはり業界の活性化という部分が大きい。

放送芸術学院専門学校は、放送技術だけでなく放送に関わる全ての部門がある。なので音声やコンポジッター(CG系)、メイクや衣装部門まであり、しかもデビューしているダンスボーカルユニットまであり、まるで小さい放送局のようだ。それもそのはず、放送芸術学院専門学校は関西の放送業界が創ったと聞くと納得できる。

学部を跨ぐ事により実践的な事まで学ぶことができ、1年生と2年生の交流やスタジオ音声・照明・PA・LIVE照明などとの合同授業やイベントが毎週行われており、さらにアニメーションスクールと同校舎なのでアクター・ボーカル・ダンサー・芸人・声優を目指す学生とイベントや授業が合同でできる。学生寮も完備しており、大阪だけでなく関西近郊や中国・四国・九州地方からも学生が集まってくる。

そんな中、放送系の授業だが、それは順風満帆ではなかったようで、山本氏が最初に授業準講師的にお手伝いをした時は学生数も少なく活気もあまりなかったそうだが、完全に山本氏が引き継いでからはこの数年で入学希望が上限70名(山本氏の限界2クラス)に達し、いまや9月には入学ストップかかっているほど。そのほとんどは8月にあるオープンキャンパスに参加する事により進路を決める入学希望者が多いそうだ。そのオープンキャンパスも2年生の学生が主体となり、各種のプログラムを実践的に進め、変に講師の介入がない分面白さが伝わるのかもしれない。

授業は定時にスタートするが、それまでに機材セット等は自主的に終わらせるスタイル。今回見学したスタジオは入り口入ってすぐの場所でちょっとした小屋と同じくらいの大きさ。そこに7カメをセットアップする。この日の授業は同じ学校内にいるダンスボーカルグループの撮影のための選考会のようなもの。基本は2年生で固めるが、その中に1年生も入れる余地があるという事だ。なので傍から見てもどの学生もやる気が感じられた。

セットアップ後はVEのカメラ調整(色合わせ)の後、各自の自主練習が始まる。13時スタートの授業に11時には既に全員集合していたのが印象深い。

上から見てると少人数で集まりスマホを見てる姿を見かけた。何かゲームやSNSでも見ているのかと思ったら、前回の撮影での注意点をマルチビューで撮った動画を共有し、今回の撮影での各自割り当てとして予習を行っていた。このマルチビューが秀逸な編集がしてあり、復習に見るには最適なものだった。当たり前だが、こういうところも山本氏はしっかり上から見ていて授業の評価としている。

1日授業を見学させてもらったが、内容や技術はもちろんのこと、現場を教えているなという印象だった。その部分を山本氏に尋ねると「カメラの操作や調整も大事だがそれよりも現場に出て何をすれば良いのか?を考えられる方が大事。インターンの短い期間でこの人間が欲しい!と思われないとそれは就職にも響きますので」もっともな話である。

最近はケーブル裁きをちゃんとこなせる若い人が少ない。ここの学生達は巻くのが上手いし早い。そんなところを見ていると山本氏の授業は見かけのクリエイティブな事ではなく、職業訓練所の様な授業というのがピッタリな言葉なのかもしれない。

今回の授業で使用した機材は、箱レンズにシステムカメラ、ENGからデジまでと、全てのカメラに役割を持たせている。セッティングも各々責任をもって組み立てている。当たり前のことを当たり前の様にこなしているのはこの春まで高校生だった子達というのがそれを見ただけでは信じられない。正直ウチのアシスタントに直ぐに来て欲しいぐらいだ。

二人の学生

左:古川千聖さん、右:山本智丈さん

2年生の二人に少しだけ話を聞くことができた。二人とも優秀な学生なので、もちろん就職先は既に決まっている。このインタビューを聞く前に二人がスタジオで動いているのを見たが、古川さんはカメラもできるがどちらかと言えばサブでスイッチャーや指示出しを得意としている。山本さんは生粋のカメラ志望で、どちらかといえばENGでガシガシ行くよりはマルチカムで物を作り上げたいそうだ。

二人ともこの学校のオープンキャンパスに来てすぐに「ここしかない」と思ったと話してくれた。その理由として、ただの技術力や映像だけを見せるのではなく、どうしてこうなるのか?というのを講師ではなく先輩である学生が率先して教えてくれたことだという。もちろん、山本氏の人柄にも惹かれたとも話していた。お二人の将来的なビジョンも非常にしっかりしていて頼もしい限りである。

山本可文式授業

非常に特徴的だなと思ったのが学生に対してマイナスポイントを付けないことだ。わかりやすくいえば欠点を直すのではなく、欠点よりも良点をぐいぐいともっと良い方向に押し出す事なのかもしれない。

人間間違ってる事は自分自身でわかっているが、それを指摘されるとやはりマイナスに沈んでしまうが、良い所は意外とわかっていない。そこをしっかり、いわゆる「可文節」でアドバイスしているように思えた。こうなると学生としては自分も自分も!という風になり、より積極的に授業に取り込むことになる。筆者も数多くの学校を見たわけではないが、ここまで学生たちが真剣に授業に取り組んでいる学校は見たことがない。

上にも書いたが彼らはまだ1年生で3月までは高校生だった。キャリアというにはほど遠い彼等がマルチカムでライブを撮れるのが非常に不思議なのだが、その一つにスイッチャーのマルチビューをキャプチャしてそこに次に何をどうしなければいけないかをテロップを入れて学生たちに公開していることだ。

マルチビューなのでどのカメラをスイッチャーが選んでタリーを入れているのかがわかるし、PGMにその状況を簡潔にアドバイス・指示が書いてあるのでそれをスマホ等で通学の途中に見てれば自然と自分がどのポジションのカメラをやっても大丈夫な位状況がわかるはず。

まずはこのスタイルで基本的な物がわかれば授業でのライブリハはさらに良くなる。もちろんリハには被写体が必要だがいくら同じ学校内とはいえ、タレントを呼んでくるわけにも行かないので、技術者(映像の学生)が自分たちでフリマネを行う。確かにこのスタイルならタレントの振り付けに対するカットやカメラポジションもわかる。こんなところまで可文式授業は理に叶っている。

自主的に学生が動いていく、こういう授業は今や一般大学でも少ないのでは?

このリハは本番でのカメラポジション取りでもある。基本は2年生で組まれるが1年生の枠もある。カメラは全部で8カメ(この日は7カメ)でこのポジションを勝ち取るために何回もトライをする。

可文式採点ボード(加点方)

それをサブから山本氏が見てプラス加点方で評価するのでが、面白いのは、例えばセンターのカメラよりも舞台面のカメラの方が良かった学生や、逆に寄りよりも全体を見渡せるポジションが良い学生たちを的確に判断し、ポジションチェンジしていく。結果それはシッカリと映像に残ってくる。

卓廻りでは上級生(古川さん)の的確な指示がバシバシ飛んでいる

またスイッチャー卓含めたVEポジションも非常にスキルが高い。筆者がお手伝いに行くマルチカム現場は半分「わかってるよね?好きにやって」ぐらいの勢いでインカムから指示がほとんどこないことが多いが、さすがにそれではこの学生たちでは成立しない。なので上級生が助っ人で指示出しをする。この指示も的確で正直羨ましいぐらいなのが今でも印象に残ってる。

総評

正直驚いた。今回の学生達はまだ20週しか映像のイロハを知らないのに、その動きは十分アシスタントとしてギャラを貰えるレベルだ。

偏見かもしれないが、今までこの手の放送学校というのはやや信用できなかった。講師が現役引退かもしくは仕事の片手間でここまで熱く語っている講師はいなかったのではないだろうか?その結果、卒業しても「○○学校卒は使えないなぁ…」という言葉が生まれてきてしまったのかもしれない。この学校がこの授業内容で東京になくて別の意味で本当に良かったかもしれない。放送学校ではなく放送訓練所と考えればそれも当たり前の事だろう。

最後に某大学の映像課の講師が言ってた言葉が非常に印象深く残っている。「岡さん、ボクだってもっと色々な事をがっつりやりたいんだよ。でもここは学校で訓練校じゃない。学生のご両親が望むのは学校なんだよ」。こう言われるとなにも文句は言えなくなる。この垣根が取り払えれば日本の映像の根底がもっと底上げされるんだろうなと思った放送芸術学院専門学校での可文式業界イロハだった。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。