選択クリップだけにグレーディングが保存されるローカルバージョンを使う
ひとつの映像制作がスタートすると、その初期段階に監督やプロデューサーなどクライアントから「今回のコンテンツのカラーはどんな感じにしようか?」と相談されることがある。その場合にはロケハンや擬似シーンを撮影した映像や写真に、いくつかのグレーディングを事前に試してみて、この中から最適なものをクライアントに選んでもらうことになる。
その選択作業は、タイムラインに同一クリップをいくつも並べて、それぞれにグレーディングし、タイムラインを再生しながら見比べる方法が一般的だろう。しかし、良く似た傾向のグレーディングが複数ある場合、再生しながらの比較は中々に難しいのではないだろうか?
今回の「バージョン」はそんな悩みを解決してくれる優れものである。
ちなみにDaVinci Resolveにはローカルバージョンとリモートバージョンがあるが、今回は”ローカルバージョン”についての解説である(図01-01)。
図01-01※画像をクリックすると拡大します
注)ローカルとリモートの考え方は、これでコラムが1本書けるくらい少々込み入っている。今回のローカルバージョンは、ローカルという言葉のままに作業中のタイムラインで現在選択されているクリップ“だけ”にグレーディングが保存される。それに対してリモートバージョンは1本の長尺クリップから切り出された全てのクリップにも全く同じグレーディングが、たとえ別のタイムラインであっても反映されるというもの。
…う~ん、やはりひと言では難しいので、別の機会にゆずることにしよう。
新規バージョンを作成する
(01)カラーページ中央の任意のクリップ上で右クリックメニュー(コンテキストメニュー)を開くと、初期設定としてローカルバージョンの「バージョン1」にチェックが入っていることがわかる。ちなみにDaVinci Resolveはバージョンの新規作成やロード(適用すること)、削除といった操作は、通常の上部メインメニューからではなく、ほとんどをクリップ上の右クリックメニューから行う仕様になっている(図01-02)。
図01-02※画像をクリックすると拡大します
(02)最初のバージョン1でのグレーディングが済んだら、新たなグレーディングのためにクリップ上の右クリックメニューから「新規バージョンを作成」を選択する(図01-03)。
図01-03※画像をクリックすると拡大します
新規バージョンのウィンドウが開くので、バージョン名を記入する(新規バージョン名は次項を参照。図01-04)
図01-04※画像をクリックすると拡大します
新たなグレーディングを始める前に注意点がひとつ。新規バージョンには直前バージョンのノードが全てコピーされているので、ノードを残すか否かを必要に応じてリセット(「メインメニュー」→「カラー」→「リセット」→「すべてのグレードとノード」など)する必要がある。
提案用に3つの新規バージョンを作成
(01)オリジナル画像(図02-01/ダウンロード可)は、ややアンバーに転んでいるものの鉢植えの葉のグリーン、そしてステンドグラスのブルーや紫もほぼ正しく発色している。
図02-01※本記事の理解を深めるために、記事中に使用したデータをこちらからダウンロードしてご活用ください
(02)本コラムのバックナンバーで解説したグレーディング方法を参考にしつつ、以下のように名前を付けながら、3つの新規バージョンを作成してゆく(バージョンの名前変更は後からでも可)。1つ目は、完全にホワイトバランスを取りバージョン名を「ノーマライズ」とする。
2つ目はオリジナルよりも更にアンバーを強調し、名前は「アンバー」に。
そして3つ目はカラーホイールのゲインとガンマをオレンジ方向に、リフトをシアン-グリーン方向にドラッグしてカラーコントラスト(画面内の補色関係のカラーを強調することで色味のコントラストが上がる)を上げ、「カラーコントラスト/橙緑」とした。
なお、各バージョンともカラー調整後には、マスターホイールやカスタムカーブを用いて明るさコントラストも調整している。
分割スクリーンの使い方
(01)3種類のバージョンが完成したので、次は「分割スクリーン」を使ってオリジナルを含めた4点を比較してみる。分割スクリーンを開くには、ビューアの左上の分割スクリーン・アイコン(図02-02)をアクティブにして、ビューア右上のメニューから”バージョン&オリジナル”を選択する(図02-03)(「メインメニュー」→「表示」→「分割スクリーン」→「バージョン&オリジナル」でも可)
図02-02※画像をクリックすると拡大します 図02-03
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(02)オリジナル1点、バージョン3点の表示順序は以下の通りだ(赤文字記入は筆者)(図02-04)。
図02-04
左上:オリジナル、右上:ノーマライズ、左下:アンバー、右下:カラーコントラスト/橙緑
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(03)画面内にバージョン名が常時表示されると分かりやすいのだが、これは今後のアップデートに期待したいところだ。
分割スクリーンの活用
現在のオリジナルを含めた4画面だが、バージョンの3点だけを表示させることもビューア右上のメニューから「バージョン」を選べばOK(図02-05)。
図02-05※画像をクリックすると拡大します
(04)また、ビューアでは画像が小さく判断できないので、もっと大きな画像で比較したいなら「メインメニュー」→「ワークスペース」→「ビューアモード」→「Full Page Viewer」にすればよい。ビューア周りのアイコンはそのままにほぼ全画面表示となる(図02-06)。
図02-06※画像をクリックすると拡大します
(05)この状態でひとつのバージョンだけを全画面表示したければ、ビューア左上の分割スクリーンアイコンをオフにする(図02-07)。
図02-07※画像をクリックすると拡大します
(06)そして、この全画面表示から他のバージョンに切り替えるには、「メインメニュー」→「カラー」→「グレートバージョン」→「前のアイテム」(Command (Ctrl)+ B)または次のアイテム(Command (Ctrl)+N)」のショートカットをお勧めする(図02-08)。バージョンを切り替えた瞬間には、どのバージョンがロードされたのかをビューア左上に数秒間だけオーバーレイ表示してくれる(図02-09)。
図02-08※画像をクリックすると拡大します 図02-09
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(07)さらに、クライアントから、このバージョンのカラーを〇〇〇にできないか?などの要望にも瞬時に対応できる。
ビューアの分割スクリーン上(前述のクリップ上ではなく)で右クリックメニューを開き、「分割スクリーン」→「アウトラインを表示」を選択してチェックを入れる。そして分割スクリーンの目的のバージョン上でダブルクリックすることで白枠が表示され、バージョンが切り替わったことがわかる(図02-10)。ノードツリーも、そのバージョンに切り替わっているので、目的のノードをアクティブにし、カラーの再調整を行う。
図02-10※画像をクリックすると拡大します
クライアントへのプレゼンテーションにぜひご活用してほしい。