映像クリエイターが知るべき録音術

インタビューや芝居など、音が重要な映像は数多い。もちろん、録音担当の専門家を呼べば、より理想的な音が録音できるはずだが、実際にはカメラマンが一人で対応しなければならない場面が増えている。

そこで、今回は現場ですぐに使える音質向上テクニック、また、用意するべき機材を紹介しよう。

カメラの内蔵マイクしかない!さてどうする?

インタビューの予定がなかったのに、急にコメントを撮影しなければならない状況に遭遇することがある。さて、どうするのか?この場合できることは2つあるぞ。「内蔵マイクを使う」か「スマホの録音機能を使う」かだ!

「カメラの内蔵マイクで録音するテクニック」

しかし、カメラの内蔵マイクで上手くいかないことを経験したことがあるはず。そこで、内蔵マイクによる録音のコツを列記する。

1.とにかく広角レンズにして被写体に近づけ!
音質は被写体との距離でほぼ9割が決まってしまう。マイクの性能など、距離の違いには勝てないのだ。理想距離は50cm以下だ。たとえ40万円のショットガンマイクであろうと、50cmを超えると急激に音質が低下する。ましてやカメラの内蔵マイクだと、音質低下は大きい。それに対抗するには、とにかく被写体に近づくのだ。広角レンズを使えば、50cmの距離でも背景を写し込んだ映像が撮れるはずだ。

2.風切り音対策をせよ
内蔵マイクの音質低下の最も大きな原因が風切音だ。内蔵マイクの風切音対策の1つが、カメラ設定の「風切音カット」だ。ただし、この風切音カットというのは、通常低音を大幅に切る音声フィルターを適応するものなので、音が安っぽく録音される。

風切音が出るかどうかは、カメラの形状にもよってまちまちだが、我々プロは、長い髪がなびくかどうかで判断したりする。長い髪が風の場合には、裸のマイクやスポンジ状の風防だけでは、確実に風切音が入る。

そのような場合の対処するために、私はRycote社のMicro Windjammerという製品を使っている。カメラのマイクの穴にあるウインドジャマー(風防)だ。

YouTubeでも解説しているのでご参照いただきたい。

Rycote社のMicro Windjammer。Amazonで2500円程度で、3セット(6枚)+予備のシールが入っている。私は常時付けっぱなしにしている。カメラによってはレンズマウント付近にマイク穴があり使えない場合もあるので、マイク穴の位置を確認したい

3.編集時に片チャンネルだけのモノラルにせよ!
内蔵マイクの多くがステレオだ。しかも、臨場感を出すために周囲全部の音を極端にわかりやすいステレオ感のある味付けをしているものもある。周囲の音を満遍なく録音する設定だと、周囲の音が大きくなり、人の声がぼやける。これを回避するためには、カメラ内にステレオ感の調整ができるものであればスピーチモードなどに変更する(キヤノンのXAシリーズなど)。そうでない普通のカメラの場合には、編集時にステレオの左右、歩どちらか一方の音だけを使うようにする。たったこれだけで見違えるように聴きやすい声に変わるはずだ。ポイントは、編集アプリのデュアルモノラルという設定だ。

Final Cut Pro Xのステレオ・モノラル切り替え。これでデュアルモノにして、片方のチャンネルのチェックを外すだけで、モノラル音声になり、聴きやすくなる

4.iPhoneなどのボイスレコーダーを使え
カメラとの距離が狭められない場合には、スマホのボイスレコーダーを使って録音するといい。被写体に持ってもらうのが簡単だ。構図内にぎりぎり入らない場所で録音すればいい。

iPhoneのレコーダーは非常に優秀なので、マイクブームでプロ用マイクを近づけたのと同じくらいの音質が得られるだろう。この場合、映像とスマホのレコーダーの音声ファイルを編集アプリで同期する必要が出てくる。Premiere ProでもFinal Cut Pro Xでも、「同期機能」があるので簡単に位置合わせができる。

現場で出来うることは、おそらくは上記くらいのことだろう。いずれにせよ、これからの時代、動画撮影には最低限度の録音機材は必要になる。そこで、ひとまず持っておくべき最小限度の機材について次に解説しよう。

低価格な有線ラベリアマイクを使え!

では、最低限持っているべき録音機材の話をしよう。カメラに直接繋いで、高音質得るための機材だ。

この連載でも何度も書いているが、カメラの上に付けるショットガンマイクは、ほとんどの場合、音質向上の効果が非常に低い。上にも書いたが、音質は距離で9割は決まってしまうからだ。

まず、カメラの上に付けるショットガンマイクの場合、単に周囲の音の影響がほんの少しだけ減るだけで、大した効果は期待できないというのが現実だ。短いショットガンマイクをつけるなら、上記のように内蔵マイクの音をモノラルにしたのとほとんど変わりない。

唯一の効果は、カメラの操作音が改善されるくらいだ。もちろん、操作音は非常に不快なので、操作音を回避するために安いショットガンマイクを使うのもいいのだが、そんな程度の効果のためにお金を出すなら、私なら数千円のラベリアマイク(ピンマイク)を購入することをおすすめする。

「ピンマイクはノイズキラー」

被写体の胸元に付けるラベリアマイク(ピンマイク)は、とにかく簡単に超高音質が手に入るツールだ。有線式でも劇的に音が良くなる。値段は3000円以上であれば十分だろう。私が使っている常用のピンマイク(ヘットセット型)は4000円程度のものだ。有名なメーカー製であれば、価格の差はほとんどないと思う。

もちろん、プロ用の数万円もするラベリアマイクは、それなりに良い音なのだが、まぁ、それを聞き分けるにはそれなりの音響性能の高いスピーカーやヘッドホンが必要になる。スマホやパソコン、家庭用テレビで視聴するのであれば、上記のように数千円のメーカー製ラベリアマイクがあれば十分だと言える。

ラベリアマイクは通常、プラグインパワーで動作する。プラグインパワーは仕様がメーカーによってまちまちなので、ソニーのマイクはソニーのカメラというような組み合わせが安全だ。また、オーディオ専門メーカー、例えばオーディオテクニカなどなら、さまざまなメーカーに対応している。いずれにせよ、対応機種であることは確認するべきだ。対応機種でない場合には、音が聞こえないとか、サーというノイズが入るということになるのだ。

CLASSIC PRO社のCEM1-SE。プロ用ながら4000円程度と非常に安価。オペラなどでも使われる高音質でこの価格は嬉しい。有線式3.5mmステレオプラグのプラグインパワー式だ。サウンドハウスで購入

このマイクは、通常は耳に掛けて口元へ伸ばすヘッドセット式だが、柄が針金式になっており、付属のクリップで胸元にセットすることも可能だ。ただ、舞台用のマイクなので大声対策になっていて、若干だが感度が低い。通常のプラグインパワー出力があるカメラであれば接続できるはず(プラグインパワーには相性があるので、保証はできないが)。

有線接続なので、3.5mmφのステレオ音声延長ケーブルを用意しておくと、被写体とカメラの距離を取ることができる。1000円程度なので用意しておくと便利だ。

「カメラの上につけるショットガンマイクを買ってしまった人は、ステレオ延長ケーブルを買え!」

さて、音声に関する優良な情報が本当に少ないために、多くのビデオグラファーがやってしまうのが、1~3万円程度のショットガンマイクを買ってしまうことだ。ワンマンオペレートでショットガンマイクを使っても、マイクの持つ性能の半分も使えていないのだ。

実は、ショットガンマイクというのは、それ単体でカメラを扱うくらいの技量が必要になる。マイクにも画角とピントがあり、適正な露出(ボリューム調整)が必要で、映画やテレビでは専門家である録音技師や音声マンが専門の技術と経験でやっと良い音になるのだ。それをビデオグラファーがカメラの上に付けっぱなしで良い音を取ろうというのは、無理があるということだ。

では、どうするのか?この連載でもさんざん言っているが、マイクは被写体に近づくほど劇的に音が良くなる。その性質を利用するために、マイクケーブルを延長するべきだ。通常、皆さんが使うショットガンマイクは、ソニーの特殊なマイク以外はステレオケーブルでカメラに接続する。なので、ステレオの延長ケーブルさえあれば、マイクを被写体に近づけることができる。

対談などでは、テーブルの上において使うなど、被写体に近づけることで音質のアップを図ることができるはずだ。ただし、やはりショットガンマイクというのは、非常に小さな音も拾うので、テーブルに置けばテーブルを触った時の音が入ってしまうなど、トラブルが懸念される。ショットガンマイクを使う時には、ヘッドホンで聴きながら撮影することが肝要だ。

安い中華製無線ラベリアマイクも使えるぞ!

Hollyland LARK150。非常に高音質な無線マイク。ケースに入れるだけで充電やペアリングができるので、運用が非常に簡単だ。ボリューム調整が受信機でできるのも特徴で、最適な音量を得るのに便利だ

最近、中華製の安い無線式ラベリアマイクをAmazonなどで見かける。正直なところ、ゴミのような製品もあるが、ちゃんとしたメーカーの製品だと、人気のWireless Goと同等以上の性能で価格が半値程度と魅力的だ。

筆者が常用しているのは、Hollyland社のLARK150というマイク2ch式の無線ラベリアマイクだ。詳細は下記のYouTubeで解説しているのでご参照いただきたい。

まとめ

現場で急に録音が必要になった時には、とにかく被写体に近づいてカメラ内蔵マイクで録音するしかない。しかし、カメラの内蔵マイクも、最近は非常に音質が良くなっている。距離さえ最適であればステジオのナレーションを同等の音質にすることも可能だ。いずれにせよ、周囲の雑踏(環境ノイズ)と被写体までの距離が音質に大きく影響する。マイクの種類はその次の条件でしかないということを覚えておいていただきたい。

いずれにせよ、「内蔵マイクで一歩前」ということを覚えておいていただくだけで、音質は一気に向上するはずだ。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。