音質向上の原動力は、マイク位置とレベル調整にある。 マイク位置は目で見てわかりやすいのだが、レベルメーターの合わせ方はわかりにくい。 そこで、今回はレベルメーターの見方と合わせ方を解説したい。
dB(デシベル)で聞こえ方を把握せよ
まず、レベルメーターの基本だが、元々VUメーターという平均音圧を示すものと、ピークメーターという最大音量を示すものが、いわゆるレベルメーターとして存在する。 かつては、VUメーターを見て適正音量に調整していたのだが、最近は、デジタル化によって、最大音量であるピークメーターで音量調整するのが主流になった。そこで、ここではピークメーターで解説することにしよう。
まず、レベルメーターの示す音量は、dB(デシベル)という単位が使われる。非常にわかりにくい表示なので、プロのカメラマンでも理解している人間は少ない。 基本は、その録音機器(カメラやレコーダー)が録音できる最大音量を0dBとしている。 0dBを超えた音は壊れて判別不能になる。 これがいわゆるレベルオーバーだ。
その最大音量に対して、6dB低い音量が、ネット向けの動画で推奨される音量となる。 メーターでは−6dbと表示される(テレビでは−12dBを目指す)。
つまり、動画の中の最大音量がこの程度になるように編集することが望ましいし、視聴する側のボリュームも、この音量で心地良いように再生ボリューム調整をしていることになる。 この−6dBを超えた音量にすると、視聴者はうるさく感じてボリューム調整をせざるを得なくなり、悪い印象が残ってしまう。 逆に−6dBに満たない音量に終始すると、小さくて聞こえにくいという印象が残る。
一方、例えば爆発音など一瞬の大音量がピーク−6dBに収まっていても、他のセリフや会話などが非常に低い音だと、これもまた聴きにくい。 そこで平均的な音の大きさを考える必要がある。 つまり、平均的な音量が適正でなければ、聴きにくいのだ。 言い換えると、録音時に気にすることは、最大音量と平均音量の2つなのだ。そこで必要になるのが、レベルメーターの見方ということになる。
一瞬のピークと平均的なピークを見分けよ
多くのレベルメーターが常時動き続ける目盛と、最大音量を数秒間だけ保持する目盛の2つを持っている。 動き続けている棒状のメーターは、入ってきた音をリアルタイム表示しているもので、数秒保持される点で示される目盛はその期間の一瞬の最大音量を示している。
通常は、点で表示される目盛を見てマイクボリュームを調整する。 点表示は一瞬の最大音量で、これが−3dBを超えないように調整する。 YouTubeでは−3dBを超えると自動的に音量を下げられてしまうからだ。
つまり、アップロード後に音が加工されてしまうということで、編集した結果と違うものを視聴者へ届けることになってしまう。 それゆえ、撮影時でも編集時も、この−3dBを超えないことが音量調整の基本中の基本になる。 ただし、多くのカメラのレベルメーターが、この−3dB表示がないので、直感的にはレベルメーターの上から9割と考えればいい。
次に、常に動いている棒状の表示は、平均的な音量を把握するのに使う。常に動いているのでわかりにくいし、プロでも判定するのに経験がいる。具体的にはYouTubeに見方の動画をアップしてあるので、そちらを参照していただきたいが、基本的な読み方を解説していこう。
平均音量を編集アプリで把握せよ
先に述べておくが、カメラや最近のレコーダーのピークメーターで平均音量を把握するのは、経験が必要になる。つまり、ピークメーターは平均音量を示すものではないので、読みにくいのだ。 さて、そこでピークメーターの特性を理解いただくために、カメラ等のピークメーターと、編集時の音の波形グラフの関係を説明したい。
まず、この波形グラフは、カメラ等のレベルメーターの棒状グラフの先端を繋いだものだ。つまり、レベルメーターの軌跡をグラフ化しているのだ。 また、波形グラフは、山が小さければ音が小さいし、山が高いと大音量になる。そして天辺が黄色や赤になっているとレベルオーバーの危険があることが一目瞭然だ。
このように、編集時の波形を見れば、この辺りは音が小さすぎたとか、大きすぎたというのは直感的にわかる。というのは、波形の形や高さが、平均的な音量を示してくれているからだ。カメラのレベルメーターも、一瞬高かったとか、色が変わったというように見るよりは、数秒間見つめて、棒の長さの平均がどのくらいかを見分けられるようにすると良いだろう。
杓子定規に言えば、レベルメーターを正確に読み解くには、カメラのレベルメーターがどのくらいの長さで振っていたかを覚えておいて、それを編集アプリに入れたら、どんな山になるのかを経験を通して把握する必要がある。筆者の会社では、若手にその訓練をしている。
まぁ、しかし、回数をこなさない限り、なかなか上達しにくいのも事実だ。 そこで、もっと簡単なレベル調整方法を紹介しよう。
「ワン・ツー、ワン・ツー、ワン・ツー」で調整せよ
人の喋り声を録音する場合のレベル調整は、実はそれほど難しくない。 ただし、マイク位置の調整こそが音質を大きく変えることは、この連載で何度も解説しているので、マイクセッティングが最適だということを前提に、レベル調整の解説をするとしよう。 ちなみに、レベルメーターに数値が振っていない機器の場合には、−3dB=9割、−6dBは8割、−12dBは6割と読み替えていただきたい。
いずれにせよ、マイクが口元から50cmを超えない位置にセッティングされている場合、しゃべり手に「ワン・ツー、ワン・ツー、ワン・ツー」と言い続けてもらう。 これは本番でしゃべる声の大きさを意識してもらう必要がある。 この時、「ワン」は、通常の会話で一番大きな声と同等になる。
この「ワン」は、カメラのメーターではピークを示す点で表示される。 つまり、「ワン」を発声して出来た点が−6dBになるようにボリュームを調整すればいい。
次に「ツー」は、会話の平均的な声の大きさを示している。 おそらく、普通の人なら「ツー」は−12dB程度になっているはずだ。 ここで「ツー」が聴きやすいかどうか、耳で判断する。 ツーが聞き取りにくい場合には、周囲のノイズや残響などが影響しているはずだ。 マイク位置やエアコンなどを確認して対処しなければならない。
Vlogの撮って出しは「ワン=−3dB」で!
さて、上記の「ワン:−6dB」は、まぁ、万能なレベル調整方法で、最大音量が−6dBだから、音割れまでやや余裕がある。 一方、YouTubeなどで公開する場合、−6dBがピークだと、若干音が小さく感じる。 YouTubeなどでは、前述のように本当のピーク(一瞬のピーク)を−3dBとしているので、例えば生配信などでは「ワン:ー3dB」にする方が良い場合もある。 ほとんど編集しないで撮って出しする場合、例えばYouTubeのショートなどでは「ワン:ー3dB」の方が他の作品に負けない音量なのでいいと思う。
ただし、音割れの危険性が高いので、しゃべり手が慣れていないと事故になる(音割れで聞こえなくなる)。 一方、テレビなどでは「ワン:−12dB」が基本だ。映画の場合も、役者が急に叫び出すことを考慮すれば「ワン:−12dB」にするのがベターだ。 だが「ワン:−12dB」だと、マイクやカメラの音響性能が低い場合にホワイトノイズが混じることがある。
つまり、プロ用機器で撮影している場合には「ワン:−12dB」でも高音質な仕上げができるが、一般の人が使う汎用のマイクや録音機器(一部のミラーレスカメラ)では「ワン:−6dB」の方が良好な仕上がりになるだろう。
まとめ
インタビューなどの音量調整は、前述の「ワン:−6dB」さえ使いこなせば十分なはずだ。 もちろん、マイクや録音機器の性能や演者の声の質に応じて「ワン:−8dB」だとか、「ワン:−10dB」だとかという微調整を試みた方がより使いやすくなるかもしれない。
ただ、録画の場合にはピークがレベルオーバーでなければなんとかなる。 一方、生配信やライブの場合、「ワン:−12dB」で調整するのがベターだろう。
当然、会場の音響はホワイトノイズなどが発生することが少なくないので、現場でノイズと聴きやすさとのバランスを整える必要が出てくる。 いずれにせよ、まずは「ワン:−6dB」で撮影してみて、それがどんな波形になるか編集時に確認してみることから始めてみるのがいいだろう。