映像クリエイターが知るべき録音術

ZOOM F3の登場で、プロ用マイクによる失敗のない録音が誰でも可能になった。F3にステレオペアマイクを付けたフィールドレコーディングが、今、世界中でホットになっている。

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F3による32bitフィールドレコーディング 新しい録音の世界が広がるぞ

昭和の頃から、レコーダーとマイクを持って自然の音や都会の雑踏、電車の音(音鉄)や鳥のさえずりなどを録音する趣味が流行っていた。この波は何年か毎にやってくる。ZOOM F3の登場で、新たなフィールドレコーディングの大波がやってきたようだ。

フィールドレコーディングの映像を公開するようになって、筆者のYouTubeチャンネルにも多くの人が訪れ、日々、情報交換が行われている。FacebookのF3に関するページでも、筆者のF3とベリンガーC-2によるステレオペア録音が話題になり、雷の音と映像を撮っている人などと交流が広まっている。

ZOOM F3はそのサイズと32bitフロートの特性から、フィールドレコーディングに最適だと思う。先ほど紹介した雷の音などは、どんな大きさで聞こえてくるかは運次第なので、32bitフロートの威力が増分に発揮できる被写体だといえる。音鉄も似たところがあって、微妙な小さな振動音と車輪とレールが織りなす音、モーター音などは同じボリュームのままではうまく録音できなかったのだが、32bitフロートなら何も考えずに録音して、編集時に聴きたい音へボリュームを整えることができる。

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ベリンガー社のC-2ステレオペアマイク。サウンドハウスで6,000円程度(2本組)。非常に高音質だ

これがフィールドレコーディングだ

さて、フィールドレコーディングについて簡単に解説しておく。つまり、レコーダーとマイクを持って様々な場所で録音を行うということだ。しかも、最近はアクションカムが高画質で、かつ、簡単に撮影できることもあって、F3+マイク+アクションカムで、映像付きの高音質なフィールドレコーディングが行える。

つまり、片手でレコーダーもマイクもカメラも操作できて、しかも軽い。そして、プロ用の高音質マイクも使えるということで、これまでにない録音システムが手に入ったということだ。実際は、写真のように、単にF3に2本のマイクを繋ぎ、ステレオバーと呼ばれるマイクを並べて固定する金具に設置するだけだ。

筆者の場合、F3とベリンがーC-2(2本のマイク)にDJI Action2をクランプやステレオバーを組み合わせてリグにしている。この写真や映像が世界中に広められて、フィールドレコーディングの愛好家たちやプロの録音技師から注目されているのだ。ポイントは、グリップが付けてあり、片手で持てるし、様々な方向へ向けることが可能だということだ。

具体的にいうと、次の機材を使った。

■使用した機材

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  • ベリンガーC-2 (Amazon)
  • K&M マイクスタンド用 マイクバー マイク2本用
  • SmallRig ダブルボールヘッド マジックアーム 多機能ダブルボールアダプタ-2157
  • カメラネジ変換アダプター
  • KC マイクホルダー MH-50(クリップ型)
  • CareMont カメラアクセサリー ホットシューアダプター 3/8インチメス5/8インチオス
  • MOGAMI 2534 XLRマイクケーブル(0.5m)
  • CANARE カナレ L-4E6S XLRマイクケーブル(0.5m, 赤)
  • 風防 雑音低減 マイクカバー ウインド スクリーン フォーム ラペル 人工毛皮

ステレオペアマイクの臨場感は人の心を惹きつける

フィールドレコーディングでは、ステレオ録音が本流で、高音質なショットガンマイクによるピンスポットの録音は支流と言える。つまり、ステレオの臨場感で、大自然の中にいるような臨場感を楽しむのがフィールドレコーディングだ。

さて、ステレオ録音には大別すると2種類があり、1つはステレオマイクを使った録音と、マッチド・ペア・マイクと言って、2本の特性が揃ったマイクを並べてステレオ録音するものに分かれる。ちなみに、マイクというのは、基本的には手作りの部分が多く、最終調整で音質を整える。それゆえ、マイク毎のばらつきもある。

ステレオ録音の場合には、このばらつきを最小限度に収めた「マッチド・ペア・マイク」をいうのを使うのがいい。それゆえ、1本の値段よりも、ステレオペアのセットの方が、マイク2本分以上の値段になることが多い。つまり、マッチド・ペアは高価なマイクなのだ。

などと大層な言い方をしているが、筆者が使っているのはベリンガー社のC-2という製品で、2本一組(ペアマイク)で6,000円程度(サウンドハウスの売価)と安い。しかし、これが非常に高音質で、フィールドレコーディングには必要十分なのだ。厳密に言えば、数万円~数十万円するスタジオ用ペアマイクに比べると、低音がやや弱く高音もやせ気味。

ただ、これはシンバルとかドラムなどの特殊な音を録音するときに、わかる人にはわかるというレベルの差で現れる。ただ、その差を認識するには、高級スピーカーを介さないと分からないということもあって、実際問題としては、C-2の音質はパソコンや一般向けのヘッドホンで聞く分には、非常に高級な音に聞こえる。

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上から見てマイクがハの字に広げてある。この角度で臨場感をコントロールする

さて、このペアマイクを使ったステレオだかが、マイク間の距離と角度によって臨場感(広がり)を変えることができる。マイクを外側へ向ける方式をXYステレオと呼ぶ。XY方式は、マイク先端をクロスさせるのが今の流行りで、これは録音方向に対してマイクが外方を向くことで生じる欠点、つまり、前方の音が痩せることを軽減できるメリットがある。その一方で、集音部が近づき過ぎているため、ステレオの広がりが得にくい。

筆者は、2つのマイクを人間の耳の幅と同じくらいに広げて、人の耳で感じる広がりを重視したセッティングを使っている。この場合、マイクの角度を付け過ぎると正面の音が下がってしまう。そこで、実際にはヘッドホンで聴きながら、被写体に対して最適な角度に調整しながら収録している。

まとめ

F3とステレオペアマイクを使うと、誰でも簡単に超高音質な環境音作品を作ることができる。全く面白くない風景でも、マイクを良くするだけで、これまで聞こえていなかった音が鮮明になり、非常に面白い作品になる。もしかすると、映像ではなく静止画で十分かもしれない。皆さんもぜひ、フィールドレコーディングの楽しさを知っていただきたい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。