映像クリエイターが知るべき録音術

YouTubeなどで音声の重要性が広く理解されている。そこで今回は、あらゆる場面で高音質が期待できるデジタルマイクの最前線をお届けしたい。

これ一本でロケは高音質に。デジタルマイクはプロも納得の音質だ

街中でのYouTube録画や自宅などでのナレーションの収録が増えている。YouTubeやSNSでの動画は、音声の明瞭性やレベル調整が重要だ。しかし、実際にはなかなかうまくいかないということで、筆者のYouTubeチャンネルには日々、相談が届いている。

そこで筆者の録音環境を公開しつつ、手間や機材が最小の録音システムを解説したい。

watanabe19_01
プロ用のマイクに匹敵する鋭い指向性とノイズキャンセル機能を備える。また、指向性は全指向性(オムニ)、単一指向性(カーディオイド)、狭指向性(スーパーカーディオイド)を提供してくれる

結論になってしまうが、筆者の収録は、ロケ(スタジオ以外)では、ほぼ100%がソニーのECM-B1Mというデジタル内部処理のクリップオンマイク(カメラの上に装着するマイク)を使っている。俗に「神マイク」と呼ばれるこのマイクは、複数のマイクを並べて、指向性と耐ノイズ性をデジタル処理で実現している。つまり、1本で3種類の指向性と、背景ノイズの軽減が行える便利なマイクなのだ。

映像で通常使うマイクは3つの指向性で、ECM-B1Mはこの3種類をデジタル処理で実現する。使う場面に応じて指向性を切り替えることで、最適な音質を得ることが可能だ。

実際に使う場合の筆者の設定を紹介する。

普通のロケではインタビューがほとんどで、被写体が目の前にいる場合もあれば、数メートル離れた声を撮ることもある。指向性はスーパーカーディオイドが95%、周辺の雰囲気を録音する場合にはカーディオイドに切り替える。オムニはほぼ使わない。アッテネーターも搭載されているが、音楽の録音以外は0dBで使う。言い換えると、楽器などの大音量の時にだけアッテネーターを切り替えることになる。

watanabe19_02
ECM-B1Mの設定。通常はこのように設定。これだけでほとんどの撮影で高音質な音声が録音可能だ

ボリューム調整だが、このマイクの場合はAutoを常用している。一般的なカメラやレコーダーのAutoは背景ノイズまで上がるので、通常はマニュアルでボリューム調整を行うが、このマイクの場合にはノイズキャンセラー(NC)が搭載されており、これと併用することで背景ノイズを抑えたまま人の声だけを適正な音声レベルに調整してくる。

一方、室内でのナレーションでは、カーディオイドがベターだ。ただし、部屋の残響が大きい場合には、スーパーカーディオイドにする。エアコンなどの機械音がある部屋では、ノイズキャンセラーをオンにするのがベターだが、そういった背景ノイズが大きい場合には、ナレーションの音質が下がる傾向があるので、ここは実際に録音してみて、どちらが良いかはそれぞれの環境で試してほしい。

録音ボリュームは、室内であればマニュアルのほうが高音質になるが、身振り手振りが大きい被写体の場合には、マイクとの距離が変化することによる音量変化があるので、Autoにするほうが良いケースもある。ただし、前述したように、ノイズキャンセラーをオンにしておかないと背景ノイズも上がり下がりするので、聞きにくくなる。

いずれにせよ、このデジタルマイクの場合、カーディオイドでマニュアル調整が最も高音質になり、環境に応じてスーパーカーディオイドとノイズキャンセラーの切り替えを行うといい。

デジタルマイクの可能性。アクションカメラのマイクが高度に進化している

watanabe19_03 watanabe19_04 watanabe19_05
上からGoPro10、Insta360 One X2、DJI Action 2。複数マイクを搭載し、それらの音声を組み合わせるデジタル処理で高音質を実現している

さて、筆者の通常の録音環境は上記のものとなるが、実は、アクションカメラの内蔵マイクの音質がここ1年くらいで劇的に向上している。GoPro、Insta360、DJI Action 2などだ。これらのカメラは複数のマイクを搭載しており、それをデジタル処理して音質を向上させている。ウインドジャマーなしでも風の中でノイズレスで録音できる場合さえある。また、背景ノイズの軽減も自動的に行っているようだ。

極端な話、高価なプロ用マイクとレコーダーを使わずに、これらのアクションカメラをマイクとして使うこともおすすめしたい。

watanabe19_06
ECM-B10

さて、ECM-B1Mだが、2022年7月末に後継機種となる「ECM-B10」が発売されるようだ。ECM-B1Mに比べて、マイクカプセル(集音部)のサイズが小さくなっている。ECM-B1Mは8個のマイクカプセルが並んでいるが、ECM-B10は4個になってサイズが小さくなった。筆者もまだ触っていないが、音質等は同程度だろうと思う。ただ、ノイズキャンセル機能は最新のアルゴリズムで向上しているであろうと期待する。

いずれにせよ、今後の録音環境は複数マイクカプセルを使って、デジタル処理による音質向上というのがトレンドになりそうだ。特にノイズキャンセルとオートゲインコントロール(自動音量調整)の組み合わせは、録画時の調整と、編集時に音質向上を行う手間と苦労から我々を解放してくれるものなので、このようなマイクが各社から出てくれることを期待したい。

余談だが、筆者はECM-B1Mのためにソニーのカメラを手放せないと言っても過言ではない。このマイクはソニー製カメラ専用ゆえ、他社のカメラではアクションカメラを併用するしかないだろう。ただ、ECM-B1MもしくはECM-B10のような簡単な指向性の切り替えやノイズキャンセルのオンオフが簡単にできるということは、現場での失敗を大幅に軽減してくれるので、プロの音声マンとしては、やはりこのマイクは「神」と呼ばせていただきたい。2022年7月末発売のECM-B10に関しては入手でき次第、レポートしたいと考えている。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。