メタバースの勢いが止まらない!VR市場に大きな期待
VR(仮想現実)の技術はここ数年停滞しているという印象を持つ人も多いはずだ。VRは非日常を体験できるという特徴とは裏腹に、重くてかさばるVRヘッドセットが足かせとなっているばかりか、長時間の使用で「VR酔い」する可能性も高いというデメリットを併せ持つ。多くのエンターテイメント施設でも取り入れられているものの、まだ伸びしろのある市場であることは間違いないだろう。
そんな中今年1月に開かれたCES2022で話題になったのが、Panasonicがメタバース事業への本格的な参入を発表したことだ。この仮想現実を使ったサービスを意味する「メタバース」という言葉、最近よく耳にするようになった。
2014年にOculasを買収したFacebookが社名をMetaに改め、この5年でメタバース強化のために欧州で1万人の新規雇用を発表。そんなニュースを筆頭にNFT市場がこのメタバースの可能性を一気に広めた。昨年スポーツブランドのADIDASは、12月に行ったというメタバースのイベント"Into The Metaverse"でNFTコレクションを展開。
なんと一挙に2300万ドル(約26億円)の売り上げを記録したのだ。負けずとライバルのNIKEもRTFKTを買収し、メタバースに乗り込む準備をしている。日本ではキティちゃんで有名なサンリオが、昨年の12月にメタバースイベントで大きな成功を収めたのは記憶に新しい。
いよいよVRは「メタバース」という新しい世界を創り出すべく、次なるステージに突入した。
ワークステーションのHPが高性能のVRヘッドセットをローンチ
前置きが長くなってしまったが、今回はHPが発売するVRヘッドセット、HP Reverb G2 VR Headset(以下、Reverb G2)を紹介したい。 いわゆる現実と仮想現実を結ぶVRヘッドセットは、そのスペックの如何によって、VR体験に大きな差をもたらすといわれる。 VR体験は、没入感という言葉でよく表現されるが、装着の快適さに加え、解像度、再生フレームレートなどこのヘッドセットのクオリティが大きく求められるのだ。
通常これらVRヘッドセットといえば、老舗OculasやHTC、Valveなどが有名ではあるが、このHPのヘッドセットはValveとMicrosoftとの共同開発によって生まれた一台である。後発でありつつも、ゲーミングやVRトレーニング、VRデザインなどをターゲットとしたものだけに、かなりパフォーマンスの高い仕上がりになっているといっていいだろう。
またHPは長年ワークステーションで培ったPCデザインにnVIDIAのグラフィック技術を惜しみなくつぎ込んできた。自社が持つワークステーションで、圧倒的なVRのワークフローを作りあげるというのはある意味必然であったのかもしれない。
早速、気になるその性能を紹介しよう。
PC有線接続型ヘッドセットの魅力
Reverb G2は、一体型スタンドアローン版ではなく、PCとの有線接続が必須のタイプだ。有線接続の大きなメリットは、画像処理をPCが行うので画質やフレームレートが上がり、より一層没入感が高くなる点である。実際にスタンドアローンのヘッドセットを使用した後に、Reverb G2を使用すると、その差は一目瞭然。画質やフレームレートの向上が、VRの没入感や疲れ方に大きな影響がある。
もちろん、一体型と比べ手軽さがないため、敷居の高さはあるが、HP製のヘッドセットゆえ、当然HP製のPCとの相性はとても良く、セットアップにありがちな接続の問題にワンストップでサポートをしてくれるため、他のヘッドセットより安心感が高いのも魅力の一つである。
また、ヘッドセットの性能で欠かせないポイントは大きく分けて3つある。重量、解像度/フレッシュレート、そしてトラッキングセンサーのスペックだ。Reverb G2の重量は約500gと非常に軽く、首に対する負荷が少ない。一体型のOculus Quest2(有線接続も可能)の重量もほぼ変わらず約500gであり、この2台はヘッドセットの中でも軽量さが売りだ。長時間プレイしていると徐々に首に負担もかかってくるので、ヘッドセット選びでは重量も大切な要素の一つである。
解像度は片眼2160×2160px、リフレッシュレートは90Hzを採用した。ヘッドセットの中でも上位機種のHTC VIVE Pro2が2448×2448pxに120Hzと非常に高い描写力を持つが、Reverb G2の解像度はそれに次ぐスペックだ。2つの要素が高ければ、より滑らかに、高い描写を表現できるので、現在販売中のヘッドセットの中でも高いスペックを持っている。
ヘッドセットの位置情報を読み取るトラッキングセンサーは、インサイドアウト方式を採用し、ヘッドマウント上にセンサーが4つ搭載されている。そのセンサーで、1.5m×2mの範囲を指定することで、そのエリア内を移動することができる。VR空間内でそれ以上の範囲を動きたい場合は、両手に持つコントローラーで移動することとなる。
外部センサーを必要とするアウトサイドイン方式の場合、より精度の高いトラッキングが可能となるが、部屋のサイズや家具の配置などに依存されるため、どちらの方式がいいかはユーザーの求めるものにより変わるだろう。
外部センサー式のHTC VIVE Pro2では、価格は約14万円。ナンバー1シェアのOculus Quest2は、まずまずの描写力とインサイドアウト方式で約4万円。そこで、Reverb G2はVIVE Pro 2に続く描写力とインサイドアウト方式の組み合わせで税抜き6万円以下と、しっかりとした住み分けが出来ている。ユーザーは自分の環境に合わせて選択すればいいだろう。
HP Z1 G8 Towerとのセットアップで最高のVR環境を
今回、G2VRの有線接続では、HP Z1 G8 Tower Desktop PCを使用した。CPUはインテルCore i9、メモリ64GB、ビデオカードは、GeForce RTX3070を搭載し、システムドライブは512GBのSSDに、2TBのHDDも搭載している。価格は約33万円とコストパフォーマンスも良い。当然、動画編集にも最適なスペックのため、VRのためにという目的ではなく、編集マシンとしてもオススメだ。
筆者のスタジオでもHPのマシンは大活躍で、クリエーターのためのWindowsマシンといえば、個人的にはHPが一番安心だと感じている。4Kや8Kといった高いスペックを求められるプロジェクトの場面で、HPのワークステーションが持つ、堅牢かつパワーのあるパフォーマンスにはいつも助けられている。弊社スタジオのPCはほとんどがHP製といっても過言ではない。
そんなHPが新しくラインナップしたのがエントリーワークステーションという形で昨年2021年9月に発売になったのが、HP Z1 G8 Tower Desktop PCだ。
この筐体はクリエーターやゲーミング、VR、データサイエンスといったセグメントに特化された一台で、「リアルタイム描画」において高い性能を発揮する。
何といっても、第11世代インテル® Core™ プロセッサー、最新NVIDAI GeForce グラフィクス搭載により、最新のパフォーマンスを体感できる一台だ。さらには従来のワークステーションで培った信頼の電源設計と、冷却設計がそのまま活かされ、HPならではの「隙のない」マシンに仕上がっている。
SATAやPCIスロットもさることながら、USBスロットもGen2 TypeCだけでなく、Gen2 TypeAやGen1 TypeA、SDカードリーダーなど、映像編集には欠かせないI/Oがしっかりと全面に用意されており、なかなかの拡張性だ。特に電力をコントロールするインテル ダイナミック・チューニング・テクノロジー搭載で、CPUとGPUのパフォーマンスが一気に向上しているのも大きな特徴だろう。
ここまで準備されていれば、様々なスタイルに合わせて、自分に合ったスタイルで拡張が可能だ。GPUの安定した動作が求められるVR環境だが、このハイスペックな機能の数々がしっかりと支えてくれることになる。
そしてHPシリーズは最新のセキュリティ機能が搭載されていて、AIの脅威などにもネイティブで対応しているだけでなく、万が一の際でもシステムを回復させるコントローラーなどもしっかりと準備されている。
また、ZCentral Remote Boostというリモートデスクトップの機能は一度使うと病みつきだ。晴れている場所から、このパワフルなマシンを遠隔で動かすことができるのだが、どのリモートデスクトップアプリよりも快適で、なんと電源がOFFになっているマシンを遠隔で起動させることができる。
これらの機能はHPユーザーならではの特権といってもいいかもしれない。
VRヘッドセット、G2VRとマシンの接続方法は非常に簡単で手間いらず。ケーブル1本でOKだ。このケーブルは、PC側のコネクター部分がDisplayPortとUSB Type-C(付属のType-A変換を使用)の2つに分岐している、映像制作者には馴染みのないケーブルだ。そのため、PCにはDisplayPortとUSBを挿すだけという、シンプルな構成であり、ヘッドマウント側もコネクターに挿すだけだ。
あとは、分岐点にあるリピーターに外部電源を供給する。この電源供給の有無も有線接続型の利点で、安定性を高める要因の一つだ。電源供給がないヘッドセットのモデルでは、接続が不安定になり、映像や音声が途切れることが非常に発生しやすい。
そのため、外部から電源供給をすることにより、ヘッドマウント自体の安定だけでなく、映像信号も安定するので、ストレスの少ない視聴環境が整うのである。
メタバースのワールドをヘッドセットを使って早速制作
早速、Reverb G2を使ってVR制作を実験的に行った。今回はメタバースを目的とした小規模のワールドの制作である。コンテンツとしては、弊社で定期的に行っているYouTubeチャンネル「AXD」をこのワールドで展開するという試みだ。この「AXD」はアナログシンセとデジタル音楽機材をリアルタイムで演奏し、再現のできない曲を次々に紡いでいくという番組で、昨年の6月スタートから50回を超える回数を重ねている(この場を借りて宣伝ではないが、音楽好きの方は是非YouTube「AXD」の登録を!)。
無料3DCGアプリのBlenderは、VR視聴しながら制作が可能
まず宇宙にあるライブハウスを想定し、舞台を3Dで設計した。使用したソフトは無料3DCG制作アプリのBlender(Ver. 3.00)である。BlenderとこのReverb G2の相性は抜群で、VR空間上で確認をしながら制作を進められる。
設定メニューのアドオンから3D View:VR Scene Inspectionのチェックボックスを入れるだけで準備はOKだ。実際に空間に没入しながら、天井の高さや、窓の大きさ、更には照明やインテリアの配置など、このヘッドセットがあるおかげでかなり効率的なモデリング作業を行うことが出来た。
使ってみて感じたことが、VRプロジェクトでなくても、通常のモデリング作業においてもこのヘッドセットが活躍することだろう。ちなみにモデルのマテリアルとテクスチャはAdobe Substance 3D Painterで制作した。
Unityはワールド制作には必須のアプリ。ヘッドセットで制作が加速
そして完成した.fbxとテクスチャの.pngをUnityに読み込んでいく。Unityではゲームエンジンならではのリアルタイム演出を追加し、最終調整を行える。照明や鏡を追加したり、スモークを発生させたり、YouTube動画を埋め込みしたり、ディティールの追い込みが非常に簡単に行えるのが魅力だ。当然UnityにおいてもReverb G2を使ったスムーズな確認作業が行える。
多少のモデリング修正があった場合はBlenderとの行き来が必要になるが、そのワークフローはとてもスムーズと感じた。今回は宇宙空間を演出するために、地球や星雲などを部屋の外に配置したのだが、Reverb G2のおかげで、すべての作業があっという間の時間で終えることができた。今後メタバースのワールド制作において性能の高いVRヘッドセットが実に必携になってくるだろう。かくいう筆者も追加で2セット購入した。
ちなみにUnityで完成させたワールドは簡単にVRChatへアップロードができる。VRChat公式のSDKをUnityにインポートしておけばいい。この詳細については今回割愛するが、無事に番組「AXD」もVRChat上でメタバースデビューが叶いそうだ。詳細は是非上述のYouTube番組ページにて。
HP Reverb G2 VR Headsetは後発の利点を活かし、その没入感はかなり高いと言える。今後ケーブルレスや、小型化といった誰もが望むVRヘッドセットへと進化してほしいという期待が膨らむ。こういった高機能のヘッドセットは、メタバースの世界の価値をどんどんと広げていくことになるだろう。