txt:江夏由洋・金戸聡和(マリモレコーズ) 構成:編集部
クリエーターに力を与えてくれる機材が続々登場
コロナ禍で、撮影現場も対策や変化が求められるようになり、少し映像制作へのモチベーションが下がってしまう時期もあったのではないかと思う。思い切ってクリエイティブに集中できる環境は、なかなか作ることができないのが現状かもしれない。
しかし、新しい機材がやってくると、不思議と「やってみよう」と思うものだ。昨年末から、各社魅力的な新製品が次々と発売になり、機材がもたらしてくれる力は偉大だと実感している。
今回撮影した作品「Amazing Stories」-全編S-Log3 S-Gamut3.cineで撮影を行った
そんな機材の中でまず一番に挙げたいのが、昨年末にSonyのシネマラインに新しく加わった「FX6」だ。すでに多くの方が手にしている中、そのスペックを説明するのもあまり意味はないかもしれないが、片手に乗ってしまうような小さいボディに、欲しい機能がすべて詰まっている一台である。昨年末に発売となった次世代のデジタルシネマカメラ、FX6。間違いなくこれからの撮影スタイルを変えていくカメラになるに違いない。今回はこのカメラで、新しい表現に挑戦する作品を制作した。
メイキング映像-撮影のほとんどをジンバル・オートフォーカスで敢行
驚きの機能が満載のFX6が持つ可能性
正直フルサイズのセンサーが描く世界が、ここまで速いスピードでやってくるとは思いもしなかった。さらにFX6の価値を高めているのが、驚くほど正確で早いオートフォーカスや、ISO12800での撮影、4K120fps記録などなど、今まで現場で「あったらいいな」と思うスペックをたった663gのボディに搭載しているところだ。
驚きの価格に、ハイエンドの映像は誰もが手にできるまでになったと言っていい。私もこのカメラを初めて手にした時、このスペックが可能にする世界を頭に描き始めた。そしてすぐに撮影の準備を整えた。
DJI RS 2とFX6で始まる新しい撮影スタイル
ちょうどそのタイミングで発売になったのが「DJI RS 2」である。まさにFX6にピッタリのジンバルだ。以前から使っていたRONIN-Sの上位モデルということもあって、新型への期待も高かった。なんといっても4.5kgというペイロードに加え、縦長のカメラボディも搭載できるデザインになっている。またタッチ液晶による高い操作性や、スクリューレスの調整機構など、ラン&ガンスタイルで撮影に臨めるのが素晴らしい。早速FX6とRS 2の組み合わせで、今までにない撮影スタイルで作品を作ることにした。
ジンバルのバランス設定に少々時間がかかってしまったものの、テスト撮影は順調で、驚きの連続だった。なんといっても、カメラが軽いこと、そしてジンバルのペイロードに余裕があること、まさかこのサイズでフルサイズのシネマカメラを運用できるとは夢のようである。
片手で持てる大きさで、4K120pのハイエンド映像を思い通りに操作できるとなると、いろいろな撮影シーンに挑みたくなった。まさにこれこそが技術と技術の掛け算が生み出す付加価値だと思う。今までできなかったことができるようになる瞬間がそこにはあった。
今回の作品のテーマは「挑戦」。撮影は全て4K120fpsで行い、基本的には単焦点レンズをオートフォーカスで運用するシステムで敢行。撮影の80%はDJI RS 2との組み合わせで行い、三脚はほぼ使わず、クレーンとレールを併用することにした。
フルサイズセンサーが織りなす美しい映像でありながら、このカメラ、このジンバルでないと実現できない世界そのものを作品に落とし込んだ。撮影期間は2日間、ロケーションは廃校となった田舎の小学校と広大な砂漠である。
フルサイズ4Kの美しさを実感
まず、なんといってもフルサイズ4Kの画の美しさに感動した。S-Log3ガンマ、S-Gamut3.cineで撮影をしたのだが、ダイナミクスレンジの広さもさることながら、スキントーンの表現や細かいディティールなど、フルサイズのボケ味と相まってなんとも言い難い立体感を画から感じ取ることができる。
髪の毛一本一本や、砂の一粒一粒が描かれる中、奥行きを感じさせるボケと光が表現されていて、まさに目に見える光景とは全く違う、美しいシネマそのものの質感を収めることができた。内蔵NDフィルターのおかげで、シームレスに単焦点レンズを開放側の絞りで攻めることができたことも大きかった。
異次元のオートフォーカス機能
そしてFX6のオートフォーカスの精度の高さは我々の想像をはるかに超えていた。ジンバルで自在にカメラが動き、被写体との距離が常に変わる中、とにかくどんどんとフォーカスが合うのだ。フルサイズの4K撮影であっても、もはやカメラマンはフォーカスを気にすることなく、カメラの動きや画角に集中することができる。
従来のカメラであれば、オートフォーカスがうまく作動しなかったり、ジンバルの設定に時間を要したり、いろいろな細かいトラブルが起きることがつきものなのだが、今回のシステムでは効率的でかつ、圧倒的な撮れ高で撮影を進めることができた。
各シーンの撮影は、場当たりからリハーサルそして本番となるわけなのだが、ジンバルの安定感といい、オートフォーカスの再現性といい、技術的な問題で撮影が中断することは一切なかった。それどころか、一発でOKテイクとなることがほとんどのため、時間の余裕ができる中、カットリストにはないテイクをカメラマンが自発的に撮影するほどであった。
4K120fpsを活かした動きのあるコンテンツを目指し、さらにはISO12800の実用性や内蔵NDフィルターの運用なども考慮し、全カットに思いを込めた。素晴らしいオートフォーカスのおかげで動視点のカットを多く構成できたのは本当に驚きでしかない。作品のハイライトとなる、少女が砂漠を駆け抜けるシーンはこの組み合わせのシステムでしか絶対に描けないといっていいだろう。
DJI RS 2が可能にする次世代のシステム
そして改めてDJI RS 2の実用性も評価したいと思う。FX6というシネマカメラをしっかりと支えてくれた。砂漠という足元の悪い条件であっても、走るカメラマンの動きを感じさせないほどであった。一新されたインターフェースや調整機構は、カメラマンのジンバルコントロールのストレスを完全に払拭してくれたと言っていいだろう。今回の撮影では使用しなかったのだが、このDJI RS 2のオプションアクセサリーが非常に充実しているので最後に少し紹介したいと思う。
今回は、3つのアクセサリー「Rツイストグリップデュアルハンドル」、「拡張ベースキット」、そして「3Dフォーカスシステム」を導入してみた。初代RONINの爆発的人気を経て、様々なアクセサリーがDJIだけではなくサードパーティーからも発売され、各ユーザーが自身の使いやすいものを求めて探し回ったと思われるが、なんと言ってもDJI純正の電子接点を生かしたアクセサリー類は信頼性も拡張性も高くとてもオススメだ。
その中で「Rツイストグリップデュアルハンドル」はRS 2ユーザーであればマストアイテムだろう。初代RONINでの撮影で多くのユーザーが感じた通り、ジンバルの下についたバッテリーグリップを両手で持つ撮影スタイルは、体力的にも安定性に関しても限界を感じることが多かったはずだ。バッテリーグリップの両手持ちだと、体力が落ちてくるとどんどんRONINが体に近くなってしまい、縦揺れが発生しやすくなる。
それを防ぐため、ユーザーは創意工夫を凝らしリグを組み、マイRONINを作り上げてきたと思う。そこでDJIオフィシャルで発売されたこのアクセサリーは、左右に張り出したアームの先にグリップを取り付けることで、RS 2を肩幅で持つことができる優れものだ。これに似たアクセサリーは各所からすでにいくつか発売されているが、RS 2本体の左右のポートに直に取り付けられる簡単な構造になっている。
そして、左側に取り付けるアームが折り畳み式になっており、RS 2をブリーフケースモード(ローアングルモード)に切り替える際に大いに役立つ機能も揃えている。通常の「両手持ちモード」からいとも簡単に「ブリーフケースモード」に変身できるのだ。この機能が素晴らしい。さらにこのアクセサリーは、NATOレール、映像信号の飛ばしや、モニターなども各種様々に組み合わせて付けられるほどにネジもふんだんに用意されている。逆に、なにかと取り付けられてしまうため、付けすぎ注意である。
次に手にした「拡張ベースキット」は、RS 2本体をバッテリーグリップから切り離し、有線でRS 2をコントロールできる、クレーンなどの特機で使用するには必要不可欠なアクセサリーキットだ。しかし、特機で使用せずとも通常のオペレーション時にも活用できるものが、このキットの中に用意されている。
「テザー制御ハンドル」、「制御ケーブル」、そして「DC出力ポート」だ。この3つだけが用意されたアクセサリーキット(テザー制御ハンドルキット)も販売されているが、クレーンやカーマウントなどに取り付ける可能性がない場合は、1万円くらい安い「テザー制御ハンドルセット」を購入するといいだろう。
このテザー制御ハンドルたちを前述のRツイストグリップデュアルハンドルと組み合わせると、RONINの撮影経験者であれば喜ぶ機能が追加される。写真を見て頂くとわかるが、ジンバルの下についたバッテリーグリップの他に、右手のグリップにも制御コントローラーがつけられるのだ。これにより「両手持ち」の際、右手でジンバルがコントロールできるのである。
電子接点を持たないサードパーティー製であれば、ジンバルをコントロールしたい時、特にRECのコントロールやニュートラルポジションに戻したい時に、わざわざセンターのバッテリーグリップへ右手を持ち替えなければならなかった。とても些細なストレスに見えるが、実際にREC前にグリップを持ち替える作業は、「これから撮影をするぞ!」という勢いを止めるため、右手の制御コントローラーの恩恵は非常に大きく感じるだろう。
ちなみにこれは、右側に取り付けたアームとRS 2本体の間にDC出力ポートを追加し、有線ケーブルで本体とグリップを接続することで可能になる。次回への期待としては、是非ケーブルレスを期待したい。ジンバル撮影の気掛かりとして、モニターや映像信号の飛ばしを使用すると、どうしてもケーブルだらけになってしまうため、DJI製品内はケーブルがないと嬉しいところだ。
そして最後に紹介するのが、「3Dフォーカスシステム」だ。簡単に言うと、カメラ上部に取り付けたセンサーがカメラ正面の被写体との距離を常時計測し、計測結果に合わせて自動でフォーカスギアをフォーカスが合うように調整してくれる、という機能だ。
システムもシンプルで、3Dフォーカスから2本のUSB Type-Cケーブルを、RS 2本体とフォーカスモーターのそれぞれに用意されたType-Cポートに接続をするだけだ。この際に気を付けたいのが、本体のType-Cポートは縦に3つあるが、この真ん中に挿すこと。異なる場所に挿すとこのシステムは動かないので要注意だ。
そして、0.8MMピッチのフォーカスギアのないスチルレンズを使用するならば、フォーカスギアストリップをレンズに取り付ける。これで準備はOK。あとはジンバルの設定を行うだけだ。設定は、被写体との距離に対して、3Dフォーカスシステムが正しい計測ができているかをキャリブレーションするのである。
細かい設定は、RS 2の液晶を見て行うのだが非常にシンプルだ。カメラから1mと4mの先に被写体を置き、その位置でマニュアルでフォーカスを合わせるだけ。ただし注意点が2点あり、被写体がそれぞれの距離に置くと、ディスプレイ内にグリーンのバーが点灯する。この距離測定が意外とシビアで、良いところでバーがグリーンになることがちょっと難しい。
そして、必ずそれぞれの距離でフォーカスを合わせて置くことが重要だ。被写体を1m先ぴったりに置くことに囚われすぎてフォーカスを合わせ忘れると、キャリブレーションの意味がなく、フォーカスが全く追従しないので要注意。これで全て完了。
カメラとレンズをMFにし、この3DフォーカスシステムをAFにすると、画面センターにある被写体にフォーカスが追従し、MFのレンズでオートフォーカス機能を扱えるのだ。ちなみにこのレンズキャリブレーションは3本のレンズを保管できるので、撮影前にレンズ全てでキャリブレーションをしておくといいだろう。
また、この3Dフォーカスシステムの計測視野は15°程度ということを覚えておくことも大切だ。被写体がフレームの左右に動くと測定視野から外れて、急に奥ピンになってしまうが、ジンバル撮影でよくある、人物のバックショットを追い続けるような、顔認識が効かない場合には非常に有効だ。
また、RS 2 Proコンボに付属しているフォーカスギアストリップを使用すると、レンズから余ったギア部分がセンサーの前に出てきてしまい、センサーに干渉するため、レンズにフィットするタイプのギアを準備することを強くオススメする。
AF機能が優秀なカメラであれば、撮影内容によって「カメラのAF/RS 2のAF」と切り替えて使うのも良い。逆にBlackmagic Pocket Cinema CameraのようにAF機能がないカメラであれば、必要不可欠の機能だろう。Blackmagic Pocket Cinema Cameraをジンバルに搭載する際、長らく悩まされてきた「AFをどうするか」という問題もこれで簡単に解決だ。
また、スモークマシンを使用するような距離計測が上手くいかないシーンの場合は、制御ハンドルのダイヤルを使ってマニュアルでフォーカスは合わせられるので、それぞれのシーンにあった使い方ができるのも大きな魅力の一つである。
今回は、RS 2 Proコンボに、「Rツイストグリップデュアルハンドル」「拡張ベースキット」「3Dフォーカスシステム」の3つの組み合わせで使用した。現場にRS 2を用意しなければならない時、このセットがあればカメラマンは安心してオペレーションを行えるだろう。