txt:江夏由洋 構成:編集部

昨年10月、DJIは同社の空撮用ジンバルカメラZenmuse Xシリーズをハンドヘルドでオペレーション可能にする「Osmo」をリリースした。ミラーレス一眼+ジンバル全盛期の中、なぜDJIはジンバル一体型カメラをリリースしたのか。DJIが切り開く世界とはどのようなものなのだろうか。今回実機を触る機会を得たため、その意図を探ってみたい。

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Osmo+X5R

Osmo+Zenmuse X5R

Osmoにはジンバル一体型カメラユニット「Zenmuse X3」が標準搭載されているが、別売アクセサリーのX5アダプターを使用することで、同社の「Zenmuse X5」「Zenmuse X5R(以下:X5R)」といった更に上位のカメラユニットを搭載することもできる。Zenmuse Xシリーズは全て3軸ジンバルとなっており、パン・チルト・ロール方向のモーターによるスタビライズが可能だが、Zenmuse X3のみ別売りアクセサリーの「Z-Axis」を使用することで上下方向の揺れも抑えることができる。

今回はOsmo+X5Rという組み合わせで、実機での撮影を行った。使用レンズはオリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0、更に今回はアクセサリーとしてDJI Focusも用意することができたので、DJI Focusを使用した撮影ワークフローも実践した。

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DJI Focus操作の図

なおモニタリングは、DJIがリリースしている専用アプリ「DJI GO」(iOS及びAndroid対応)を使用して、Wi-Fi経由で行える。スマートフォンでの使用が想定されているが、今回は4K映像のフォーカスをマニュアルで合わせる必要があるため、より大画面のiPad Air 2を使ってモニタリングを行うこととした。

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iPadを使った撮影

撮影内容は6月下旬の東京にて、雨上がりの夕暮れの中、2分間のダンスを1カット撮影するというものだ。更に今回は3軸ジンバルでは補正しきれない縦の動きを抑制するため、Ninebot社の小型二輪モビリティ「Ninebot mini Pro」を併用した。

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フォーカスまでワンマンオペレーションが可能

X5Rで撮るという意味

Zenmuse X5シリーズはマイクロフォーサーズ(以下:MFT)規格のレンズ交換式カメラであり、各社から発売されているMFTレンズを使うことでより幅広い映像表現に活かすことができる。更にX5Rは専用SSDを使うことで、平均ビットレート1.7Gbps、最大ビットレート2.4Gbpsの4K/30p 12bitRAW収録が可能となっている。ダイナミックレンジは12.8ストップあり、これなら屋外・屋内問わず撮影の幅を広げてくれるだろう。とにかく高画質の映像が取れるというのがこのカメラの売りなのである。

今回は夕暮れ時の撮影ということもあり、X5Rの広いダイナミックレンジを活かしたカットを撮ることができた。

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RAW現像のSS、Before/After比較:AEでRAW現像を行った。このように日が落ちて若干アンダー気味になってしまったカットも、陰からライトまできちんと階調が残っている

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2016/07/DG_vol29_05-before.jpg Before
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http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2016/07/DG_vol29_05-after.jpgg After
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Osmoの操作性

Osmoの操作は非常に簡単だ。片手で持った時に動画録画ボタン、静止画シャッターボタン、ジョイスティックが親指の辺りに、そしてトリガーレバーが人差し指の辺りに配置されており、誰にでも操作がしやすい。特にトリガーレバーによる操作性がOsmoの価値を上げている。トリガーレバーを押すと通常の「フォローモード」から「固定モード」に瞬時に切り替えることができる。この切り替えが様々なカメラワークにおいて大きな役割を果たすのだ。

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ボタン周り

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通常、Osmoは「フォローモード」で動作する。カメラがグリップの動きを滑らかに追いかけるような挙動をするのがこのフォローモードである。その状態でジョイスティックを動かすことによって、さらに細かくパンやチルトといった動きをさせることもできる。しかし場合によっては常に一定の方向を向いていてほしいことも多々あるだろう。その時に使うのがトリガーレバー。トリガーを押している間はカメラの方向が固定される「固定モード」となるのだ。またトリガーを2度押すことでカメラが正面を向く「リセット」、3度押すと撮影者の方をくるりと向く「自撮りモード」へと簡単に切り替わる。

このトリガーレバーによるモードの切り替えと、適宜行うジョイスティックによる細かな操作の組み合わせによって、Osmoならではのスムーズ且つ斬新な画作りをすることができる。それはもちろん誰でも撮影ができるという仕組みなのだが、使いこなすことによって自分の手足のように馴染み、それまでは考えつかなかったようなカットの撮影を可能にしてくれるカメラだと言える。

キャリブレーション不要の超効率撮影

スタビライズ性能は流石DJIと思わせるほどの力を発揮してくれる。そのおかげでよりカメラワークに集中することができた。他のジンバルにはないOsmoのメリットとしては「キャリブレーションが必要ない」ことが挙げられる。

筆者も様々なジンバルをオペレーションしてきたが、いつも直面するのがバランス調整&キャリブレーションの面倒くささである。少しでもバランスがズレているとすぐにキャリブレーションが外れて再度行う必要があったり、キャリブレーションの度に固い床に置く、といったような面倒な状況によく遭遇する。このような作業は時間の限られた撮影の現場においては、ストレスの原因ともなってしまう。その点Osmoは今回の撮影の間、一度もキャリブレーションが外れるといった挙動のエラーは発生しなかった。また電源を入れるだけですぐ撮影が開始できる、というのも非常に大きな優位性と言えるだろう。

モニタリングはWi-Fi経由のみ「DJI GO」でフルコントロール

またWi-Fi経由でモニタリング及び各種コントロールが可能なアプリDJI GOがDJIよりリリースされており、このアプリの使用は必須と言える。本体が液晶画面やその他ボタン類を極限まで減らしてあるため、ホワイトバランスやジンバルの動きの設定等、細かなコントロールは全てアプリから行うこととなる。また今回の撮影ではDJI Focusを使用してフォーカスコントロールを行ったが、アプリ経由でフォーカスを調整することも可能だ。

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DJI GO撮影画面スクリーンショット:撮影中のアプリ画面 AF/MFや、ISO感度、シャッタースピード、絞りはもちろん、フォーカスも操作することが可能

DJI Focusを使用してフォーカスコントロールを行なう最大のメリットは物理的にコントロールできるということに尽きる。スマートフォンのタッチ操作では目を離しながら操作ができないからだ。撮影の現場において、フォーカスを如何に感覚的に操作できるかというのはクオリティを大きく左右する要因の一つとなり得る。

操作しやすいがゆえに改善が求められる点

今回、アプリを使用したモニタリングについて2点気になることがあった。まず1つはWi-Fi経由のモニタリングのため遅延が発生するということだ。特にそれを感じるのは、ジョイスティックを使用したパン・チルトを行うとき、そしてDJI Focusを使用してフォーカスを操作したときである。「ここで止めたい」タイミングで止めると行き過ぎるという現象が起こるのだ。もう1つはモニタリングにしばしばブロックノイズが発生するということだ。Wi-Fi経由モニタリングのためビットレート不足となることがあるのだろう。

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アプリからプレビューが可能

以上の2つの要因から、フォーカス操作にはコツが必要となる。ブロックノイズのためピントの山が掴みにくいことがしばしばあると同時に、映像そのものの遅延もあるためだ。今回はついフォーカスを失いがちになってしまったが、これも慣れやオペレーションのコツによって軽減することが可能だろう。しかし上記のようなデメリットによって業務用としては厳しい現場も多々あるかもしれない。もしカメラからの映像出力ポートがあれば、業務用として現実的な使用を更に可能にしてくれるだろう。次の製品アップデートに期待したいところだ。

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Osmoインテリジェントバッテリー:標準で付属しているバッテリー。駆動時間の短さは少し気になるポイントだ

また気になったこととして駆動時間の短さも挙げられる。1時間でバッテリー2本を使い切るペースで消費したため、急いで「External Battery Extender」を使用して外部バッテリーからの給電を行う場面もあった。External Battery Extenderを使用することで同社の空撮用ドローンである「Phantom 4」用のバッテリー、「Phantom 4インテリジェントフライトバッテリー」などから給電することができる。Phantom 4インテリジェントフライトバッテリーの電源容量は5350mAhであり、「Osmoインテリジェントバッテリー」の980mAhと比べると5倍以上の容量があるため、運用していても安心感がある。場合によっては外部給電での運用を考えてみてもよいだろう。

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Phantom 3インテリジェントバッテリーと接続した図:外部バッテリーからの給電を行うことで駆動時間は飛躍的に伸びる

撮影中はSSDにRAW収録すると同時に、microSDカードにプロキシファイルの収録が行われる。アプリからのプレビューにはプロキシファイルが使われ、ストリーミング再生されるようだ。そのためか映像をプレビューしているとしばしば停止することはあったが、撮った映像を確認するのにストレスを感じるほどではなかった。

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RAW現像ワークフローについて

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DJI Camera Exporterを使えば、Adobe DNGファイル連番での書き出しができる

前述の通り、X5Rは4K/30p 12bitRAW収録が可能であるが、RAW収録時に問題になるのがそのワークフローである。ポストプロダクションではいくつかの方法でRAW現像を行うことができる。X5Rを買うと付属してくるソフトウェアDJI CineLightを使って現像することもできるが、今回はDJI Camera Exporterを使って、収録映像をAdobe DNG Converter連番ファイルにRAW-RAW変換後、Adobe After Effects CC 2015を用いてRAW現像を行った。現像を編集段階で行うことでいつでも現像をやり直せるというのは非常に大きなメリットだ。またAdobe Premiere Pro CC 2015でもLumetri Colorを使ってRAW現像は可能だが、Adobe Premiere Proは内部の色空間がYUVであるため、RGB処理の可能なAfter Effectsを使用して現像を行う方が12bitRAWデータを活かせるだろう。

終わりに

シネマライクで浮遊感のある映像といえば、大型のジンバル+ミラーレス一眼という組み合わせがメジャーになっている。しかし、そのオペレーションは得てして煩雑になりがちだ。またカメラ内蔵の手振れ補正も優秀になってきたとはいえ、ジンバルのように機械的な手振れ補正には敵わない。

そんな中DJIはOsmo+X5Rという組み合わせによって、まさにジンバルとカメラが一体となり、片手でオペレーションが可能という革命を起こした。片手でオペレーションを行い、もう一方の手で更にフォーカスコントロールまで行えるとなると、映像表現の幅は格段に広がったと言えるだろう。2014年から始まったジンバルカメラブームはいよいよ、大判センサーというカテゴリにその枠を拡げはじめた。高画質で今まで見たことのないような画作りが可能なカメラ。一体どのような作品が生み出されるのか楽しみでならない。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。