2022年9月に始まった新連載だが、おかげさまで過去3回の連載はご好評を頂き、その第4回目は、ハリウッドの映画賞の1つである「VESアワード授賞式」についてレポートさせて頂くことにしよう。
ここではVFX入門者用に分かりやすく、そもそもVESアワードとは何なのか?から今年の動向にいたるまでをご紹介してみたいと思う。
※当コラムをお読みになり、もし何かVFX関連のご質問などがあればinfo@pronews.jpまでどうぞ。
1月~2月のハリウッドは賞レース・シーズン
1月~2月のハリウッドはAwards Season(賞レース・シーズン)である。この時期には、米脚本家協会や米俳優協会等の各映画ギルドの受賞式がこぞって開催される。これを意識し、秋後半ともなれば各映画スタジオの「アワード事務局」から一斉に、無料DVD、もしくは動画配信サービスの無料アクセス・コードなどが、各ギルドの会員に届き始める。これらは「スクリーナー」と呼ばれ、各ギルドの会員達に作品をアピールする手段として浸透している。
また、この時期、街を車で走っていると、賞レースのプロモーション用の巨大広告がいたる所に出始めるのも、映画関係者が多いロサンゼルスならではの風物詩であろう。
これらの賞レースの最後を締めくくるのが、オスカー像でお馴染みのアカデミー賞である。よって、各映画ギルド受賞式の開催時期は、アカデミー賞の日程を考慮しながら決定される。
「VESアワード」とは何か
ハリウッドには、VFX(ビジュアル・エフェクト)業界に従事する業界人を対象とした協会がある。これがVisual Effects Society(米視覚効果協会)である。これを略してVESと3文字で記述されることが多い。VESは、アルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。たま~に「ベス」と呼んでいる人が英語圏にもおられるが、これは誤りである。
さて、このVESは、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX業界に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。
VESの発表によれば、米国および40ケ国に約4,000人以上という会員数を誇るという。もちろん、日本からでも加入が可能であり、文字通り世界最大規模のVFX業界のギルドである。会員になるには、「5年以上の現場経験を有すること」が条件とされ、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになることができる。
このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」と言える。
そして、映画ギルドとしてのVESが主催する賞が、VESアワードである。VESアワードは、言ってみれば「VFX業界のアカデミー賞」のような位置づけである。その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリーに及ぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表及び表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。
受賞式は、ビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に鎮座する由緒正しきホテル、ビバリー・ヒルトンで毎年開催されている。ここはゴールデン・グローブ賞授賞式の会場としても使用されており、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。
VESアワード受賞式は、チケットさえ購入すれば、VES会員でなくても入場することができる。チケット代はVES会員300ドル、一般500ドルと高めの設定だ。しかしながら、ディナーもついて、VFX業界の著名人やハリウッドのセレブを間近で拝める華やかな授賞式に出席できるので、それだけの価値はあると言えるだろう。但し、チケットはノミネート発表後に間もなくSOLD OUT(売り切れ)になってしまう年も多く、早めに抑えておくのが賢明である。
今年のハイライト
第21回VESアワード受賞式は2月15日(水)夜に開催された。ノミネートされたゲスト、VFX業界からの参加者、そして賞のプレゼンター達がドレスやタキシードに身を包んでビバリー・ヒルトンに集い、全25カテゴリーにも及ぶ各賞、そして特別賞の授賞式が開催された。
今年は何と言っても映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が強く、9部門で受賞し月顔トロフィーを獲得した。また映画「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」(Netflix)は3部門で受賞し、最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]に選ばれた。ドラマ「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」(Amazon Prime Video)は最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]をはじめ3部門で受賞。コマーシャル関連部門では「Frito-Lay: Push It」が圧勝した。
受賞カテゴリーの新設、および統合
今年から、新しく先端技術賞(EMERGING TECHNOLOGY AWARD)が新設された。これに伴い、カテゴリー数を25部門以内に保つためか、これまで「ドラマ部門/リアルタイム部門」と「コマーシャル部門」の2つに分かれていた最優秀キャラクター・アニメーション賞が、「ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門」に統合された。
今年の豪華ゲスト
司会は今年もハリウッド俳優/コメディアンのパットン・オズワルトが務め、数々のVFXジョークを連発し、場内をドッカンドッカンいわせていた。
また、VES生涯功労賞を受賞した映画プロデューサーゲイル・アン・ハードのプレゼンターとして、なんと映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のジェームズ・キャメロン監督がステージに登場、来場者を喜ばせた。
またこれまでVES代表を長年務めてきたエリック・ロスが今年でリタイヤすることを受け、VES理事会賞がエリック・ロスへ贈られた。理事会のメンバーもステージに登場し、VESの新代表のリサ・クッキー、VES創設メンバーの1人でありピクサー・アニメーション・スタジオ社長のジム・モリス、VESの元代表でありVFXスーパーバイザーのジェフ・オークン、VESのジェフ・バーンズらが顔を揃えた。
そして、各賞のプレゼンターとしてハリウッド俳優のティグ・ノタロ、ジェイ・ファロー、タイラー・ポージー、マーベル作品でお馴染みランドール・パーク、アンジェラ・サラフィアン、映画「トップガン マーヴェリック」のバシール・サラディン、ジョシュ・マクダーミット、ダニー・プディが登壇。まさにハリウッドの映画賞に相応しい、錚々たる顔ぶれの豪華ゲスト達であった。
ハリウッドで活躍する日本人のノミネート
今年のVESアワードでは、ハリウッドのVFX業界、ゲーム業界で活躍されている日本人3名がノミネートされていた。惜しくも受賞は逃したものの、著名な賞でノミネートされた功績は大きい。
左から
ギャビン・テンプラー
大野 絵里
レイチェル・アジョーク
アマッド・ゴラブ
の各氏。
前列左から
デミトリアス・レアル ※最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]でノミネート
ホルヘ・ヒメネス
マーティン・コンテル
グラウコ・ロンギ
の各氏。
ぜひ、日本からもノミネートを!
2023年も日本からのノミネートがなかったのが残念である。過去のVESアワードでは、日本の作品がノミネートを果たしたことがあり、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分に期待できるだろう。2024年のVESアワードでも、是非とも日本からの奮っての応募を期待したいものである。
今年の受賞作品一覧
第21回VESアワード 全25カテゴリー 受賞作品一覧は下記のとおり(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。
■最優秀視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Avatar:The Way of Water」
■最優秀助演視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Thirteen Lives」
■最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN AN ANIMATED FEATURE
「Guillermo del Toro’s Pinocchio」
■最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
「The Lord of the Rings:The Rings of Power; Udûn」
■最優秀助演視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
「Five Days at Memorial;Day Two」
■最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A REAL-TIME PROJECT
「The Last of Us Part I」
■最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A COMMERCIAL
「Frito-Lay;Push It」
■最優秀視覚効果賞[博展映像部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A SPECIAL VENUE PROJECT
「ABBA Voyage」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[実写映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN A PHOTOREAL FEATURE
「Avatar: The Way of Water;Kiri」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN ANIMATED FEATURE
「Guillermo del Toro’s Pinocchio; Pinocchio」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN EPISODE, COMMERCIAL OR REAL-TIME PROJECT
「The Umbrella Academy;Pogo」
■最優秀背景賞[実写映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN A PHOTOREAL FEATURE
「Avatar: The Way of Water;The Reef」
■最優秀背景賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN ANIMATED FEATURE
「Guillermo del Toro’s Pinocchio; In the Stomach of a Sea Monster」
■最優秀背景賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN EPISODE, COMMERCIAL, OR REAL-TIME PROJECT
「The Lord of the Rings:The Rings of Power;Adar;Númenor City」
■最優秀デジタル撮影賞[全部門]
OUTSTANDING VIRTUAL CINEMATOGRAPHY IN A CG PROJECT
「Avatar:The Way of Water」
■最優秀モデリング賞[実写/アニメーション部門]
OUTSTANDING MODEL IN A PHOTOREAL OR ANIMATED PROJECT
「Avatar:The Way of Water;The Sea Dragon」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[実写映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Avatar:The Way of Water;Water Simulations」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN ANIMATED FEATURE
「Puss in Boots:The Last Wish」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN EPISODE, COMMERCIAL, OR REAL-TIME PROJECT
「The Lord of the Rings:The Rings of Power;Udûn;Water and Magma」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写映画部門]
OUTSTANDING COMPOSITING&LIGHTING IN A FEATURE
「Avatar: The Way of Water;Water Integration」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN AN EPISODE
「Love, Death and Robots;Night of the Mini Dead」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写コマーシャル部門]
OUTSTANDING COMPOSITING&LIGHTING IN A COMMERCIAL
「Ladbrokes;Rocky」
■最優秀SFX部門[実写部門]
OUTSTANDING SPECIAL(PRACTICAL) EFFECTS IN A PHOTOREAL PROJECT
「Avatar:The Way of Water;Current Machine and Wave Pool」
■最優秀視覚効果賞[学生作品部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A STUDENT PROJECT (AWARD SPONSORED BY AUTODESK)
「A Calling. From the Desert. To the Sea」
■先端技術賞(2023年より新設)
EMERGING TECHNOLOGY AWARD
「Avatar:The Way of Water;Water Toolset」