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5月22日にBlackmagic Design東京オフィスにて、株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのカラリストである北山夢人氏を招き、カラリストから見たBMCC6Kの素材の魅力やDaVinci Resolveを使ったルック作りについて、システムファイブの山本隆太氏(通称:やまもん)と語っていただきました。今回はその模様をお伝えいたします。

北山氏は株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのカラリストで、アカデミー国際長編映画賞やその他多くの映画祭で受賞歴のある映画「ドライブ・マイ・カー」でカラリストを務め、第26回JPPA AWARDS 2022 映像技術部門 グレーディング「優秀賞」を受賞されています。

主な実績

  • [映画]ドライブ・マイ・カー/マッチング/熱のあとに/劇場
  • [ドラマ]VIVANT/Silent/いちばんすきな花/すべて忘れてしまうから/量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-/ポケットに冒険をつめこんで/明日、私は誰かのカノジョ

カラーコレクション作業のアプローチ

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山本氏:

グレーディングに関するプロフェッショナルということで、早速本題に入っていきたいと思います。まず、カラーコレクションについてお話しましょう。今、会場の方はスクリーンを見ていただいておりますが、北山さんがカラーコレクションを行う際にどのようなことをされているのか、どのようにお仕事を進めているのか、ご説明いただければと思います。

北山氏:

まず大前提として一番大事なのは作品の方針や内容です。これが本当に良い仕事を生むための8割から9割を占めると僕は思っています。根本的に、この作品をどう見せたいのか、その中でどういうアプローチをするのが良いのか、事前にある程度頭の中にイメージを作っておくことが大事です。

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山本氏:

例えば、最近は原作の漫画や小説が映像化されることが多いですよね。原作のイメージと脚本になった時のイメージが変わることもあると思いますが、その点についてはどうですか?

北山氏:

そうですね、なるべく原作のイメージも吸収したいところです。僕の読解力には限界がありますが、なんとなくのイメージを掴むようにしています。また、カメラマンや監督の意向も非常に大事です。監督がどういう作品を作りたいのかを直接聞くこともありますし、事前に自分なりにイメージを持っておくことも重要です。

山本氏:

でも、監督さんからしても理解してもらっているのは嬉しいことですよね。

北山氏:

そうですね。やっぱり、そういう理解がないまま進めてしまうのは失礼だと思います。カラリストとして仕事をしている人は、自分の持ち味や良さはもちろんありますが、基本スタンスとしては自分の作品というよりも、その作品自体を良くするためにどうすればいいかということを考えています。ほぼ全てのカラリストがそういう考えでやっていると思います。僕もそのような感じで仕事をしています。(内容の理解ができたら)実際のトーン感としてどのように見えるかを作って、それを見ていただきます。その後、カメラマンの意見を聞きながら作業を進め、修正を加えていきます。そして、ある程度仕上がった段階で監督に見ていただくという流れです。

デモンストレーション

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北山氏:

(BMCC6Kでのグレーディングについて)普段、自分がどういうアプローチでカラーコレクションの作業をしているかというと、特別なことはあまりなくて、普通にやれば割といいルックができるというのが、まずBlackmagic Designさんのカメラのすごいところです。ですので、特にBlackmagic Designさんに特化した話というよりも、僕の普段のカラーコレクション作業のイメージに近い内容になります。
カラーコレクションをする上で、ある程度自分の中で「これが気持ちいい」と思える基準のものを持っておくと、どんなカメラや作品であっても作業に対して向き合いやすいと思います。
作品によって微妙に発色を変えたり、細かい調整をしたりしますが、そういう調整をすることで「今後もこっちの方がいいな」と思ったら、その方向に進んでいきます。僕の場合、いくつかお気に入りのLUTがあります。そのLUTを使ってどう見えるかを自分の中の基準と照らし合わせてスタートの段階で確認すると良いです。DaVinci Resolveの純正のものでも、フィルムルックでも、市販のLUTでも、自分なりにカスタマイズして使うと良いと思います。

山本氏:

ベーストーンができました。その後の細かいテクニックについて教えてください。

北山氏:

一番シンプルに言うと、その画を見た時にどう感じるかです。僕は、あまり荒探しをして修正を重ねるというよりも、気になった部分を修正していく方が多いです。どこから先に行くかは、その時の状況によりますね。

カラーグレーディングのゴール

山本氏:

カラーコレクションって、究極的には無限に手を加えられるじゃないですか。でも、プロの方は締め切りやポストプロダクションの時間貸しなど、限られた時間内に結果を出さなければいけない。カラリストの方は、どこをゴールにしているのかがずっと疑問でした。でも、今のお話を聞いて、少しわかってきた気がします。

北山氏:

シンプルに言うと、気にならなければオッケーです。もし「ここは手を加えたいな」と思うところがあれば、基本的にはそれをやります。
ただ、やりすぎないことも大切です。程よい塩梅を保つことが重要ですね。やりすぎると、逆にトゥーマッチになってしまうので、気になる部分があれば軽く抑えるくらいにします。

山本氏:

やりすぎなくらいバキバキにする方もいらっしゃいますよね。

北山氏:

そういう方もいらっしゃいます。カメラマンや監督の方でそういう方向が好みの方の場合は、そこを汲みながらなるべく(色が)破綻しないところで作っていきます。

山本氏:

「絶対この人の作品だ」とわかる個性を持つ方もいますよね。

北山氏:

はい、そういう方もいらっしゃいます。それも素晴らしいことだと思います。正解は1つではないので。

山本氏:

そうですよね。正解はないというのが重要なポイントだと思います。

北山氏:

正解がない中でひとつ言えるのが、(作品の)内容理解を含めた上で、画として見たときにどこが気になるのか、その気になる部分をどの程度触っていくのかを考えることです。

山本氏:

それは非常に重要な指針だと思います。どこをゴールにするのかは悩むところですが、気になる部分をどれだけ解消するかで、ゴールを見つけやすくなるのかもしれませんね。

北山氏:

確かに気になったらやりましょうってさっきから言ってますけど、永遠に気になっちゃうよ、ってタイプの方もいらっしゃいますもんね(笑)。

山本氏:

そこに自分なりの指針を持つことで、どれだけ解離しているかを見極めて気持ちよく仕上げやすくなるのかな、とお話し聞いてて思いました。

北山氏:

コツとしては、グレーディングした後も、元の画に戻ったり、いろいろ見比べるっていうのは定期的にするといいですね。あとは、ずっとモニターばかり見るのではなくて1~2時間したら休憩したり、目を休めたり、集中しすぎないっていうのもコツですね。大体の方は、(その作品を)1回観て終わっちゃうので、なるべくフラットな気持ちでその映像を観られるようにした方がいいと思いますね。

Blackmagic Designのカメラについて

北山氏:

Blackmagic Designさんの今回のBMCC6Kについてですが、正直なところ、見た目の目分量でカラーコレクションだけでやっても全然ナチュラルに仕上がると思います。これは、LUTを使っても同じで、例えばARRIのカメラで見ていたLUTを使ったとしても、全然違和感なくいけると思います。

山本氏:

Blackmagic Designのカメラには癖はないですか? よくBlackmagic RAW(以下:BRAW)は癖のないRAWファイルで扱いやすいと聞きますし、私自身もそういうイメージを持っています。

北山氏:

癖がなくはないと思います。特にいい、悪いではなくて、なんとなく暗がりのフェイストーンのアンバーの出方は特徴的な印象はありますね。BMPCCなどのBlackmagicのカメラはどんどん画の「重さ」が出てきている感じはありますね。フルフレーム(BMCC6K)になってから、ハイライトにより「粘り」が出てきたなと感じますね。

山本氏:

「粘り」ってなんだ?ってみなさん思うと思うんですけど。

北山氏:

撮りの段階で、絞りを最適で撮っても、ダイナミックレンジのディテールが十分に表現できないこともあるんですが、ダイナミックレンジが広いとディテールが残ったまま撮れるっていうことですね。

山本氏:

レンジが広いためディテールが残りやすく、画として成立しやすい。失敗が少なくなってるという感じですね。

視聴者からの質問

Q:BRAWの素材RAWのパラメーター(カメラRAW設定)で変更しますか、もしくはRAWパラメーターはBlackmagic Design Filmのまま作業される感じでしょうか

北山氏:

基本的には、Blackmagic Designのカメラで撮ったままのRAWファイルの設定で進めます。ノード側のカラーコレクション作業だけでうまくいかないときには、(カメラ RAW設定の)色温度やISO感度を調整してみて、そちらの方が仕上がりがよければいじることはありますが、それ以外は基本的に触りません。これは作品にもよります。例えば、長編などの劇映画の場合、撮影時にISO感度や色温度をきちんと設定して狙って撮影しているので、こちらで大きく触る必要はあまりありません。
逆に、ドキュメンタリーのような、部屋から部屋へと(場所が移動してもそのまま連続して)撮影するような場合には、カメラRAWでの調整ができることがメリットになる場合もあると思います。

Q:イマジカさんの中ではBRAWが中心となる作品はどの程度あるのでしょうか

北山氏:

ミュージックビデオでは、Blackmagic Designのカメラのシェアが結構高い気がしますね。3割くらいは使われているかもしれません。

山本氏:

そうですね。僕は以前、マルニスタジオっていうミュージックビデオばっかり制作する会社にいたんですけど、その頃はBlackmagic Designのカメラはまだなかったです。でも、その当時に知り合った監督さんたちが最近作る作品が、全編Blackmagic Designで撮影されているという話をよく聞きます。

北山氏:

(Blackmagic Designのカメラは)程よくシネマチックなトーンが出せるという点や、現場で使いやすいっていうのは聞きますね。カメラが小さくて取り回しが良いし、機材的にも直感的に触れるし。

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Q:BRAWに適応するBlackmagic Designの純正のLUTがいくつかありますが、どれを当てたらいいですか

北山氏:

まず撮影時に、どのLUTを当てていて、どのLUTで最適な絞りで撮影しているかによります、というのが大前提になります。現時点では、Blackmagic Gen 5 カラーサイエンスがデフォルトになるんじゃないかと思います。具体的には、Blackmagic Design FilmからExtended Videoに変換するLUTですね。

山本氏:

撮影時にガンマをどの設定で撮ってるかが重要ですよね。テレビ放送に合わせるならRec.709なのでFilm to Videoにすればいいんですけど、映画だったらもうちょっと色域広げたいのでExtended Videoとか。

北山氏:

基準というと、大体そのあたりだと思いますね。

Q:LUT作る際に違和感のない色味にするには色被りを補正すればいいのか、色の数を減らせばいいのか、どこを基準にすればいいですか

北山氏:

違和感がない色味が人によって変わってしまうんですが、とりあえずナチュラルだったらRec.709でいいのかな…

山本氏:

では、少し具体的に噛み砕いて質問します。北山さんが自分でBRAWに合うLUTを作るとします。例えば、ビールに合うナチュラルなLUTを作るとしたら、どういうふうに作業を進めますか?(下記:デモンストレーションシーン)

Q:監督やカメラマンの方に初めて画を見せるときにはいくつか方向性のパターンを用意したりするのでしょうか

北山氏:

出したいなとは思っています。例えば、あるカラリストの方に教えていただいた方法で、すごく良いと思ったので取り入れたんですが、4つのトーンを見せるというやり方があります。それは、自分がおすすめするトーン、カメラマンが好きそうなトーン、監督が好きそうなトーン、そして作品として一番合っていると思うトーンです。
多分、これが正解だと思います。ただ、正直に言うと、4つのトーンを作ろうとしても、どうしても自分が好きなトーンに寄ってしまうんです。結局、2つくらいに絞られてしまうこともあります。自分があまり良いと思っていないトーンを出すのは難しいので、パターンをたくさん出せるのが理想ですが、そのジレンマがありますね。
でも、よく一緒に仕事をしていて勝手知ったる人の作品だったら好みがわかっているので、大体こんな感じでどうですかって自信のある1つだけ見せることは全然ありますね。

山本氏:

コミュニケーションをしっかり取りましょうってことですね。

北山氏:

そうですね。それはカラコレの一番のコツかもしれない。みんなでものづくりする上で一番大事なところですね。

Q:昔と今で北山さんのその色や作品の作り方どういう風に変わっていきましたか

北山氏:

今と比べると、昔の方が強くて硬かったですね。昔の方が攻めていたと思います。今が攻めてないわけじゃないんですが、なんとなく丸くなったというか。例えば、昔はもっと強い癖を持った画がかっこいいと思っていて、そう思われたかった。
今は、作品によっては(色が)主役ではなく、控えめな方が良い場合もあると思います。昔は、どんな作品でも、自分の個性を強く出したいという気持ちが今よりも強かった気がします。

Q:最初からカラリストだったんでしょうか。そうでなければどういう経緯でカラリストになられたんですか

北山氏:

入社した時、僕はカラリストとして入社しました。その段階でカラリストになりたいと思っていました。ちょっと昔話をさせていただくと、多分皆さんも同じような経験があると思いますが、映像業界を志した最初は、監督やカメラマンになりたいと思っていました。実際、業界に入って専門学校に通い始めると、ポストプロダクションなど他の仕事もあることに気づきました。監督になりたいと思っていたけど、競争が激しそうだし、人との関わりが難しそうだと感じました。そんな時、カラーコレクション、当時テレシネという作業でしたが、それに興味を持ちました。テレシネは、他の作業に比べて感覚的にできそうだなと思い、その後カラリストの募集があったので応募しました。そこから、ずっとカラリストとして働いています。

Q:映画や作品を見るときに、色を中心に見てしまったりなど、職業病的なところはありますか?

北山氏:

100%フラットな気持ちで、いち視聴者として演技を見れたりした方が絶対いいはずなんですが、やっぱりちょっと気にしてしまうことはあります。
ハリウッド映画なんかは条件が違いすぎて、すごいなーと思いながら見られるんですが、逆にアジア圏の映画や国内の映画の方がスキントーンが近いということもあるかもしれませんが、色を気にして見ちゃいますね。

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Color by IMAGICAについて

北山氏:

最後に弊社の宣伝になりますが、カラリストによる署名記事や監督・カメラマンとの対面記事など「色の技術」に関する取り組みを公式サイトの特集ページで公開しています。あとSNSもやらせていただいているので、是非フォローお願いします。