動画を撮るならスマホでもできる。でも、もう少し画質や操作性にこだわりたい。かといって一眼カメラだと大げさだし、荷物も増える……そんな人にぴったりなのが、キヤノンのVlogカメラ「PowerShot V1」だ。

このカメラの魅力は、とにかく"手軽さと性能のバランス"がちょうどいいこと。しかも、動画だけでなく写真もちゃんと撮れる。Vlog用に設計されながらも、ガチガチの動画特化ではない、絶妙な立ち位置にある。

2025年4月25日発売のキヤノンの期待の新製品「PowerShot V1」を、発売より先がけてお借りする貴重な機会を得た。使用してわかった本機の特徴や機能性をレビューしたい。

キヤノンのVlogカメラ フラッグシップモデル

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PowerShot V1は、キヤノンのコンパクトデジタルカメラ「PowerShot V」シリーズのフラッグシップにあたるモデルだ。キヤノンはこれまで手軽に動画を撮影できるカメラとして、1.0型センサー搭載の「PowerShot V10」を2023年6月に発売。近年高まるYouTube・SNS用動画の需要を受けて、スマホカメラからのステップアップを目指すユーザーに訴求してきた。

それから約2年が経ち、ポケットサイズでありながらより高性能なVlogカメラとして登場したのが、今回の「PowerShot V1」だ。約2230万画素の1.4型CMOSセンサーを搭載。携帯性を重視するコンデジでは1.0型でも十分に大きなセンサーだが、それを上回る大型センサーを搭載することで、より高画質で高感度撮影に強いカメラを実現した。5.7Kオーバーサンプリングによる高画質な4K30P動画を記録できるほか、クロップされるものの4K60P動画にも対応する本格派の性能だ。

焦点距離約16mmから50mm(フルサイズ換算・写真撮影時)のズームレンズを搭載。開放F値は、ワイド端でF2.8、テレ端でF4.5となる。動画撮影時には、約17-52mm相当の画角となり、超広角から標準域までレンズ交換の手間なく対応できる。従来のキヤノンのコンデジであれば広角は24mmから始まるのが一般的で、より広角に対応したPowerShot V10でさえ19mmだったが、PowerShot V1はさらに広い画角で撮れるレンズを搭載している。

このおかげで、手持ちで自撮りしたいようなシーンでも無理に腕を伸ばすことなく複数人を画角の中心に捉えたり、背景の様子をしっかり見せたりできる。このあたりは今どきのユーザーのニーズをしっかり理解した設計だ。

動画も写真も撮れる"実用派"デザイン

PowerShot V1はバリアングルモニターと握りやすいグリップを備えたコンパクトな筐体で、見た目以上に使いやすい。自撮りのときなどは持ち方が不安定になりがちだが、グリップの素材や形状のおかげで安心して撮影できた。

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バリアングルモニター搭載で自撮りもしやすい
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グリップの素材が滑りにくく、カメラを支えやすい形状なので、様々な持ち方でもカメラを構えやすい

特に便利なのが「写真・動画の切り替えスイッチ」。動画中でもパッとスナップを撮りたいときにすぐ切り替えられる。きちんと写真用・動画用の設定が独立しているので、シャッタースピードやISO感度などが写真と動画で混ざらずに運用できるのが魅力だ。

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写真・動画の切替スイッチを備え、すぐに切り替えて撮影可能だ

最近の動画用のカメラだとシャッターと録画ボタンがひとつに集約されているものが多いが、本機ではスチル用のシャッターボタンと、録画開始/停止ボタンがそれぞれ用意されている。筆者は取材などで写真と動画の両方を撮りたいシーンがあるが、PowerShot V1はコンパクトでありながら、スチル・ムービーにバランスよく対応できて非常に使いやすかった。

他社のVlogカメラ、例えばこのジャンルで先行するソニーの「VLOGCAM ZV-1 II」はデザインを動画に振り切っていて、写真はどちらかというとオマケのような設計だ。ソニーはボタンやダイヤルも極力シンプルにして初心者層が直感的に扱えることを目指している。対してキヤノンのPowerShot V1は、動画も写真もどちらもちゃんと撮れる“バランス型”だ。ダイヤルやボタンも比較的充実していて、初心者層だけでなく、カメラの扱いになれた上級者も納得できる設計になっている。

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カメラの設定を行うダイヤル部は、レンズのコントローラーリングと右手の背面に備えるコントローラーホールの2カ所

基本的な操作系がすべてグリップの右手側に集約されているので気軽に片手で撮ることができる。電源の起動からシャッター・録画の開始までもスムーズなのでとっさのシャッターチャンスにもすぐ対応可能だ。ボディはコンデジとしては厚みがあるものの、グリップの素材が滑りにくく、非常に持ちやすく軽く感じる。

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筆者が普段愛用するコンデジのRICOH GR III(画像右)とサイズを比較してみた。PowerShot V1(画像左)はコンデジにしてはボディの厚みがある
  • ボディのサイズ:約118.3×約68.0×約52.5mm
  • 質量:約426g(バッテリー、カードを含む)/約379g(本体のみ)
  • もちろん動画機としての使いやすさにも配慮されている。例えば録画中に点灯する「タリーランプ」を搭載していたり、録画中であることをモニター上に赤枠でわかりやすく示す「強調表示」に対応。地味かもしれないが、ちゃんと記録できているかどうかはカメラの基本であり最も重要なところだ。安心して撮影するためにスマホではなくカメラを使いたいというユーザーもいることだろう。

    また、アクセサリーシューを活用してマイクの部分に付属の「ウインドスクリーン」を装着できる。外での撮影の際には風切り音を防止できて安心だ。内蔵マイクはカメラの駆動ノイズを低減できるようになっていて、レンズのズーム音や搭載する冷却ファンの音を抑えてくれる。

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    ウインドスクリーンが標準で付属しており、風切り音を抑制できる

    実際に外での収録を試したところ、内蔵マイクの音質は気軽なVlog用途であればそのまま使えるレベルだと感じた。編集の際に音を整えることで、かなりクリアで聞き取りやすい音声になる。もちろんマイク端子も搭載しているので、より音質にこだわりたい場合など、環境に応じて外部マイクを選べるのも心強い。

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    カメラの右側面に「マイク端子」と音声モニター用の「ヘッドフォン端子」を搭載。さらに「USB-C」と「HDMI(タイプD)」の端子を備える

    冷却ファン搭載で安心して長時間撮影ができる

    PowerShot V1はコンデジとしては異例の冷却ファンを搭載。高温の環境での撮影や、1時間を超えるような長時間の連続撮影でも安心して動画収録が可能だ。

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    カメラ上部にふたつの吸気口、左側面に排気口を備え、冷却ファンでカメラの熱を抑制する

    長時間の収録をしたい場合は、設定から自動電源オフ温度を「高」に設定しよう。バッテリーや記録メディアが熱をおびてカメラ本体も熱くなるので、三脚に載せて撮影するのが望ましい。そして冷却ファンを必ず有効にすること。冷却ファンを「入」、ファン回転速度を「高速」にすることで、最も長時間の撮影が可能だ。

    USB-Cや無線LANなどの通信を伴うものを接続していると、発熱が増える傾向があるので注意したい。とはいえ、バッテリーの都合で長時間撮影にUSB-Cによる給電はほぼ必須だ。バッテリーのみの撮影だと温度の限界よりも先に電池が切れてしまう。筆者がテストしたところ、4K30P収録が1時間12分の時点でバッテリー切れで収録が終わってしまった。公式の仕様を確認してもバッテリーひとつの撮影可能時間は、約1時間~1時間25分程度となっている(記録画質や温度などでバッテリー持続時間は変動)。

    次に筆者がUSB-Cで給電しながら動画の長時間収録を試したところ、4時間を超えても収録が熱停止することはなかった。さすが冷却ファン搭載モデルということで、夏場などの高温の環境でも安心して撮影ができそうだ。

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    バッテリーはLP-E17を採用。記録メディアはUHS-IIに対応し、長時間録画した大容量の動画ファイルもPCなどに高速でコピーできる

    AFも快適!ピント迷子のストレスから解放

    PowerShot V1は、「デュアルピクセル CMOS AF II for PowerShot」により、EOS R7などキヤノンの最近のレンズ交換式一眼カメラと遜色ないオートフォーカス性能を備えている。実際に試してみたところ、正確で高速・スムーズなAFで非常に快適に撮影できた。コンデジだからといって妥協されていないAF性能に感心するとともに好感を得た。人物や犬・猫などの動物を被写体検出してフォーカスを合わせてくれる機能もある。カメラ初心者の方にも自信をもっておすすめできる性能だ。

    さらに「レビュー用動画モード」を搭載。これは手前に映る被写体に優先的にピントを合わせる機能だ。YouTubeの商品紹介動画を撮るようなシーンで便利で、見せたいモノにすぐにピントが合う。画角内の奥に見える人物の顔にピントがきてしまいがちなシチュエーションでもピントが迷わないので快適に撮影ができる。

    ただし、この「レビュー用動画モード」をつかうにはモードダイヤルで「SCN」を選ぶ必要がある。マニュアル露出モードなどで利用できないのは上級者にとっては不便に感じるかもしれない。

    初心者に優しい手ブレ補正、歩き撮りも実用レベル

    PowerShot V1の手ブレ補正は、光学式と電子式のハイブリッド。電子式手ブレ補正は標準の「入」に加えて、よりブレを抑えてくれる「強」の設定が可能。ただし、電子式手ブレ補正は画角が狭くなり、特に「強」は大きくクロップされるので注意が必要だ。電子式の手ブレ補正は必要に応じて調整して運用したい。

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    電子式手ブレ補正を設定すると画角が狭くなる。なお手ブレ補正「強」と4K60P Cropはだいたい同じ画角だ

    気になるのは、どれくらいしっかりブレを抑えてくれるのかというところ。Vlogカメラということもあって、気軽に歩きながらの撮影でどの程度までブレを抑制できるのかテストしてみた。結果としては電子式の手ブレ補正を「入」や「強」に設定することで、歩きながらの撮影でも十分視聴に耐える映像が撮れると感じた。

    実際に撮った映像がこちら。すべて手持ち撮影で、手ブレ補正は標準の光学式手ブレ補正と電子式手ブレ補正を「入」で運用している。ピクチャースタイルは「スタンダード」でカラーや明るさの補正はしていない。

    カメラは大型のセンサーになるほどブレの補正が難しくなってくるが、1.4型センサーを搭載しながら、実用的なレベルまでブレを抑えてくれるPowerShot V1の手ブレ補正は優秀と言っていいだろう。もしこの手ブレが気になる場合は、別途ジンバルを用意したり、歩きながらの撮影は短い尺にとどめてできるだけ止まってから撮影するなど、運用の工夫をしたほうが良いかもしれない。

    寄れるレンズでディティールやボケの表現に強い

    搭載されているレンズの性能についても見ていこう。開放F値は広角端が2.8で、望遠に近づくにつれてなだらかに暗くなり、望遠端で4.5となる。ものすごく明るいわけではないが、1.4型という大きなセンサーであることを考えると納得のバランスだ。

    このレンズの大きな魅力は近接撮影に強いことにある。広角では最短5cm、望遠で15cmの距離でピントが合う(公式の仕様より参照。撮像素子からの距離ではないので、おそらくレンズ先端からの距離)。

    近くに寄って簡易的なマクロ撮影ができるので、商品撮影などで、被写体のディティールを伝えるのに非常に適している。また寄って撮ることでしっかりと背景をぼかして撮れるのでスマホなど小型のセンサーのカメラとは一線を画したリッチな映像表現が可能だ。

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    ボケを活かした撮影も手軽にできるので、レンズ交換式の一眼カメラと見分けのつかないような写真も撮れる

    そして広角16mmに対応するのが本機の大きな特徴だ。旅行先や街歩き、イベントなど、周囲の雰囲気を映像に残したいときに、この広角は本当に活躍する。自撮りもしやすく、コンデジを使いたい多くのユーザー層に刺さる画角となっている。

    また一眼カメラユーザーも広角レンズを持ち歩くかわりに、このPowerShot V1をサブカメラとして忍ばせておくという運用をしてもいいかもしれない。広角が必要になるか分からないときでもこのサイズなら荷物にならず携帯しやすい。またレンズ交換の手間がなくなるメリットもある。

    なお、バッテリーは「LP-E17」バッテリーを使用しており、EOS R50などEOSシリーズの一部のカメラと共用できる。対応カメラのユーザーにとっては、荷物も減らせるしバッテリー管理も楽になる。

    フィルターで簡単にシネマチックに。Clog3にも対応

    PowerShot V1は映像のカラー表現も幅が広く魅力的だ。特におすすめなのが、「カラーフィルター」。まるで映画のようなシネマチックなカラーや、ノスタルジックなフィルム調など14種類のカラーフィルターが用意されている。従来の「ピクチャースタイル」が比較的ナチュラルな範囲でカラーやコントラストなどを調整できるのに対して、よりしっかりと演出が施されたルックを手軽に楽しむことができる。まるで、カラーグレーディングしたような映像を専門知識なしで誰でも手軽に記録できる機能だ。

    筆者も試しに「StoryTeal&Orange」というカラーフィルターを選択して、夕方の中華街の様子を撮影してきた。色や明るさなどはまったく編集していない撮って出しの映像なので、ぜひ参考にしてもらいたい。映画っぽい雰囲気の色味を、設定ひとつでパッと出せる。編集に時間をかけなくても“いい感じ”の映像が撮れるのは、ライト層にとっても日常的に動画を作る人にとっても大きなメリットだ。

    なおPowerShot V1でカラーフィルターの機能は動画撮影の際に限定されて、写真では利用できない。同時期に発表されたEOS R50 Vでは写真でもカラーフィルターが使える。せっかくの魅力的なカラーなので本機の写真撮影でも使いたかったところだ。

    またPowerShot V1は、log撮影にも対応しており、Canon Log 3を選ぶことができる。こちらは動画編集で自分好みにカラーグレーディングしたい人向けの機能だ。422 10bitで記録可能で、色空間はBT.709、BT.2020、Cinema Gamutから選択できる。気軽なVlogを楽しむカメラという立ち位置を考えると、log収録は上級者向けでやや不釣り合いの機能のようにも見えるが、動画編集ソフト「DaVinci Resolve」で単純に色空間とガンマを変換した”お手軽グレーディング”だけでも、落ち着いたトーンの映像をつくることができた。カラーグレーディングに初めて挑戦する入り口にはちょうどいいかもしれない。

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    画像左はピクチャースタイル「スタンダード」で撮影した動画からの切り抜き。画像右はClog3で撮影してDaVinci Resolveで「カラースペース変換」してルックを整えた動画の切り抜き。logで収録するとハイライトにかなり余裕があり、グレーディングの余地が大きい

    なお、本機でCanon Log 3を利用する場合、常用ISO感度は800からのスタートとなる。カメラ本体に3段分のNDフィルターを内蔵しているとはいえ、日中の明るい屋外で撮影するにはシャッタースピードや絞りの設定で不自由を感じるところがあるかもしれない。

    まとめ:PowerShot V1はこんな人におすすめ

    競合機種と比べると、PowerShot V1はレンズ一体型のコンデジでありながら1.4型のセンサーを搭載して、より高画質で映像表現の幅が広いことが魅力だ。

    例えばソニーの「VLOGCAM ZV-1 II」やDJIの「Osmo Pocket 3」、そしてキヤノンの「PowerShot V10」はいずれもVlog用途で人気の機種だが、1.0型センサーにとどまる。より画質にこだわりたいユーザーや、より本格的な機能・操作性を求める層にPowerShot V1はハマりそうだ。

    どんな人におすすめか

    • スマホからカメラへステップアップしたい
    • 専門的なカメラがほしいがコンパクトにまとめて予算を抑えたい
    • Vlogスタイルの日常の記録・お出かけ動画を撮りたい
    • 商品紹介やレビュー動画を撮りたい
    • 手軽にオシャレな雰囲気の動画を撮りたい
    • 動画も写真もバランスよく楽しみたい
    • 広角対応のカメラを求めている

    以上の条件のいずれかに当てはまる人にはPowerShot V1は役立つカメラになるだろう。PowerShot V1は、軽快さと映像表現力のバランスを求める人にとって、“ちょうどいい”一台になるはずだ。

    一方で、動画よりも写真を重視したいユーザーや、レンズ交換などを通じて本格的な映像制作に挑戦したいユーザーには向いていないかもしれない。また、コンデジにしてはすこし大きめなので携帯性に強いこだわりがある人はよくサイズを確認してから購入を検討することをおすすめする。

    そのほかPowerShot V1の使い方やメニュー、音声についてYouTubeにてレビューしている。より詳しい情報を知りたい方はこちらも参考にしていただきたい。


    尾田章|プロフィール
    カメラのある日常の楽しさを発信する”くらしフォトグラファー”。カメラ機材の使い方、写真の撮り方などをYouTube、運営ブログ「KOBE FINDER」にて“Aki”として初心者にもわかりやすく解説。 /