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「カールツァイス」と言えば「CONTAX」?

今回テストさせていただくのはCONTAX Planar 85mm F1.4 AEG。

CONTAXというブランドに馴染みがなくても「Carl Zeiss」なら聞いたことがある方は多いと思います。CONTAX、特に今回のレンズのメーカーであるYASHICA/CONTAXは日本のカメラメーカーヤシカ(のちに京セラ)とドイツのCarl Zeissの提携によって生み出されたカメラのブランドであり、ドイツと日本のコラボレーションによって数多くの銘機、銘玉を生み出しました。

残念ながらAF化とデジタル化という二つの大きなカメラの進化の波を乗りこなし切れずに2005年にCONTAXブランドは終焉してしまいますが、Carl Zeissはその後もソニーと提携して初期αシリーズのハイエンドレンズを手がけたり、現在ではコシナ生産による多様なスチルレンズを展開したりと、カメラファンにとって身近な存在であり続けています。しかし筆者のような40代くらいのカメラファンにしてみたら、かつてはむしろ「Carl ZeissはCONTAXのレンズ」というイメージが強かった記憶があります。

また動画という視点ではCarl Zeissのレンズはシネレンズの王道中の王道。Master Prime、Ultra Prime、Compact Prime CPシリーズやSupreme Primeと、映画制作のプロフェッショナル向けに極めてクオリティの高いレンズをハイエンドからミドルクラスまで幅広く提供しています。

しかしながら、「CONTAX」を冠するレンズシリーズに関しては、どこかそれ以外のCarl Zeissブランドのレンズとは佇まいが違うような気がしてしまうのです。

CONTAX Planar 85mm F1.4 AEG

  • 発売年:1975年
  • レンズ構成:5群6枚
  • 最大絞り:f1.4
  • マウント:CONTAX Y/Cマウント
  • 重量:約595グラム
  • 中古参考価格:約50,000〜80,000円(筆者調べ)
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今回のPlanar 85mmF1.4ですが、CONTAXレンズには製造時期によって「AE」「MM」という世代の違いがあり、そしてそれぞれに「日本製」「ドイツ製(西ドイツ製)」があります(例外もあります)。AEとMMの違いは大きく、今回のものは前期型となるAEタイプのドイツ製。コーティングが赤みを帯びているのが特徴的。中古で探す場合は、ぜひコーティングの色にも注目してみると個体毎に微妙な色味の違いがあることに気づかされます。銘玉の誉高いレンズであり、スチルレンズで動画を撮るというテーマにおいてはもっともスタンダードな選択肢の一つと言っても良いかも知れません。

動画撮影におけるレンズマウント考察

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さて、CONTAXが生産終了して久しい昨今において、デジタル、あるいは動画でCONTAXを楽しもうとしたときに障壁となるのが「マウント問題」。

Y/Cマウント純正のデジタルカメラはついに発売されることがなかったため、変換マウントを用意して任意のマウントに接続する必要があります。

ここで、ミラーレス全盛の現代において、大きく二つの選択肢が発生します。

一つは、使用するカメラ(この連載ではBlackmagic DesignのBMCC 6KFF)に対応したマウントコンバーター(Leica SL to Y/Cマウントアダプター)を用意して直接取り付ける方法。
この方式が最もシンプルで、マウントアダプターの品質にもよりますが精度も高くすることができます。

もう一つが、中間マウントを使用する方法。

今回はキヤノンのEFマウントを中間マウントにする方法を紹介したいと思います。というのも、キヤノンEFマウントはムービーカメラの実質的なユニバーサル(共通)マウントとして採用されてきた歴史があり、REDやBlackmagic Design、ARRI(当然キヤノンCINEMA EOSもですが)といった名だたるメーカーがシネマ標準であるPLマウントの他に、よりリーズナブルな選択肢としてEFマウント仕様をラインナップしています。Y/Cマウントのレンズを動画で使用する際も、EFマウントに変換する方法はメジャーな方法として普及しています。

しかしY/CマウントとEFマウントのフランジバックはわずか1.5mm。国内で一般的に入手できるY/C to EFマウントアダプターは1.5mmの薄いアダプターで小さな爪を介してロックする精密な機構ですが、どうしても回転方向のわずかなガタつきが発生してしまいます。今回、Y/CマウントをEFマウントに変換する方法として、アメリカのSimmod Lensというメーカーが提供するCine Proというマウントアダプターを使用しました。この製品はEFマウントのアダプターをY/Cレンズに直接ネジで固定するという方法を採用しており、高い剛性でレンズをEFマウント化することができます。オリジナルのネジを交換する必要がありますが、必要に応じてオリジナルに戻せる改造である点も魅力です。

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Simmod Lens社製Y/C-EFMountアダプター。マウント面の3点のネジで固定する。削り出しで一体成形となっており、非常に堅牢。またシムも付属しているので無限遠の微調整にも対応している(シムの厚みは不明で、また今回はオーバーインフだったのでシムは全て外して取り付けた。)必要に応じていつでもオリジナルに戻せるのもありがたいポイント
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EFマウントのガタつきを軽減できたところで、次にカメラへのマウント方法です。

1眼レフやミラーレスで使われるバヨネットタイプのマウントは、位置固定用のピンによってレンズを固定するため、回転方向の遊びを機構上完全に取り除くのが難しいという問題があります。対して、シネマのPL(ポジティブロック)機構はマウントを「締め付ける」ことによって回転方向の遊びの起こらない固定方法となっています。

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Viltrox社製EF-Lマウントアダプター(CINE)。電子接点がついており、EFレンズであれば絞りの操作やAFにも対応できる(AF精度はお察し)レンズを固定した際の締め具合も問題ない
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EFマウントを使用するシネマカメラの中には、ARRIやキヤノンなどでバヨネット式をベースに締め込みレバーが追加されたシネマロック方式のものがあります。今回はViltrox社のシネマロックタイプのEFマウントアダプターを使用しました。シネマロック機構つきの中では比較的安価なのですが、問題ない精度で取り付けることができると感じました。

なお、ここまで説明しといてアレなのですが、このViltrox社のマウントアダプターのカメラ側、つまりSLマウント側はバヨネット式ですが精度が高くしっかりと固定できているので、特に治具などをつけずに取り付けています。もし重量のあるシネマレンズを取り付けるのであれば、カメラとマウントアダプターの間も追加のロックが必要になります。

スチルレンズを動画用にカスタマイズする際の参考になれば幸いです。

描写をチェック!

チャートの描写を見てみます。開放ではオールドレンズらしい滲みがありますが、F2、F2.8と絞り込んでいくとすっきりとした描写になります。いわゆる「絞りによって描写が変わる」という言葉通りのオールドレンズという印象です。絞りのクリックは1段刻みですが、中間で調整することも可能。

この世代の「AEG」レンズの絞りの特徴としてF2〜4近辺で絞りの形状が角の立った星型になることが知られています。これを嫌って後期型をチョイスする方もいるようですが、ここはひとつ、こういったレンズの個性を楽しむというのも乙ではないかと思うのです。

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まずは開放を見てみます。解像感は開放から滲みがあっても十分なレベル。不思議と締まった黒とスッキリした白のコントラストは開放が一番強く感じられ、チャートのわずかな光沢感が艶やかに感じられる描写力は素晴らしい。歪曲収差はほとんど感じられません。
また周辺減光もそれなりにあります。

開放でのカラーチャートもチェック。わずかにコントラストと彩度が低いが、非常にニュートラル
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F2 にじみと周辺減光の改善が見られる
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F2.8 解像感もかなりスッキリしてきた
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F4 ほとんど問題ない写り
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比較的大きなブリージングは使い所に注意

このレンズを動画で使う際の注意点としてよく挙げられるのがブリージング(焦点変化)の大きさ。最短から無限にフォーカスを送ると同じ85mmレンズとは思えないほど大きく画角が変わります。背景とのバランスなどで目立ち方は変わってきますので、頭の片隅に置いておくといいかも知れません。普通に使用する分には、そこまで気になることはないのでは?と感じています。

ブリージングテスト 無限遠
フォーカスを無限に置いた状態。チャートのボケ具合は「前ボケ」を示しています。6ftの距離と比べると一回り小さくなった印象。ボケ味はやや硬いかな?という見え方
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フォーカスを至近に置いた状態。チャートのボケ具合は「後ろボケ」を示しています。これは割と硬いボケと言っていいのかも知れません。もちろん被写体との距離やフォーカスの置き位置などで刻々と変わります。また、チャートのサイズを見ると上の無限とこちらの至近を比べると一回り以上大きさが違うことがわかります。使い所を考える必要がありそうです
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テスト撮影

85mmという焦点距離は、50mmや35mmのような汎用性を生かした絵作りではなく、深度と圧縮効果を使いながら印象深いポートレートを作るのに向いています。今回、埼玉県で民話や怪談を収集、発表されている北城椿貴さんに協力いただき、テスト撮影を行いました。

テスト撮影 遠景 開放 F1.4
遠景での開放では、にじみが大きく感じるかも知れません。しかし解像感と雰囲気は素晴らしい
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テスト撮影 後ろボケ
後ろボケはとろけるわけではなく、ある程度の輪郭を持っています
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ブリージングをテストしてみたカット。そこまで気にならないと思うのですがどうでしょう
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F2.8あたりの描写では、ボケの角が印象的です。これだけ個性的だと、いろんなF値を混ぜて使うというよりはこれでやり切ったほうが良さそうです
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レンズフレアを出せないか、頑張ってみたカット。さすがのTコーティング、逆光でも(ほとんど)なんともありません
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非常に立体感のある描写ではないでしょうか
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最後に

今回CONTAXというブランドのレンズを紹介させていただきました。中古市場でもまだまだ目にする機会は多いので、初めてのオールドレンズとしてもクオリティ、価格ともにおすすめしやすいものだと思います。

開放ではややにじみをまとった描写がスキントーンとマッチし、特にシネマチックなフィルターを使わずとも画面にほんのりと柔らかさを加えてくれます。絞り込むとスッキリとした描写。しかし線の太い解像感と力強いコントラストはこのレンズの持ち味で、いろんな映像(特に映画)を見慣れた人ほど、この質感には「懐かしい(=クラシック)」な印象を持つのではないでしょうか。「映画のような描写」を欲しい人には最高の選択肢の一つと言えるかも知れません。

CONTAXを使うと、「写真はレンズで決まる」という有名なキャッチコピーが思い出されます。当時時代遅れとなっていたスペックは皮肉にも現代において大きな問題ではなくなり、我々はより自由に撮る手段を選択できるようになりました。 そして「物語を紡ぐ道具」として、このレンズは2025年の今こそ、大きな魅力を持っていると思うのでした。

CONTAX Planar 85mm F1.4 AEGでの撮影
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WRITER PROFILE

湯越慶太

湯越慶太

東北新社OND°所属のシネマトグラファー。福岡出身。新しいカメラ、レンズはとりあえず試さずにはいられない性格です。