こんにちは。シネマトグラファーの湯越です。今回はマクロレンズの銘玉との名高いTAM RON 90mm F2.8 Macro(Model 272E)を紹介したいと思います。
このレンズの初代モデル「SP 90mm F/2.5(Model 52B)」が発売されたのは1979年。それから45年に渡りタムロン製マクロレンズの定番モデルとしてモデルチェンジを重ねながら今もなお現役かつ非常に評価の高いレンズとなっています。
このレンズによって、それまで文書の複写など産業用のイメージのあったマクロレンズを柔らかなボケ味の中望遠としても活用するという現代に通じる使い方がされるようになったと言います。今回は数あるモデルの中でも2004年に発売され、フィルム時代とデジタル時代の橋渡しとなったModel 272EのEFマウント仕様を紹介してみたいと思います。
この連載では個人的な趣味の意味も強いのですが、「フィルム時代を知っている」レンズを選ぶ傾向があります。それはこの時代のレンズはまだデジタル補正の恩恵を現代ほど受けていないため、レンズ単体で描写を完成させる必要があったからです。そういうわけで現行でラインナップされているレンズですがあえて約20年前というやや古い世代をチョイス。コーティングなども現代に比べれば逆光耐性などは未発達な部分もありますが、そこも含めてレンズの個性と捉えてみたいと思います。中古価格がお手頃なのもグッドポイント。
マクロレンズとは
マクロレンズというのはこれしか使わないという人もいれば全然使ったことがない人もいたりと、結構人によって接点の有り無しが大きいレンズではないかと思います。「小さなものを拡大して撮影する」というかなり明確な目的を持ったレンズであり、自然や花、昆虫といった被写体が主戦場の人からすればなくてはならないものですが、そういったものを普段取らない人からすればわざわざ買うまでもないものだったりもするからではないかなと思います。
今回はこのレンズの本領であるマクロについてもですが、人物撮影に投入してみることで、マクロ本来の性能、そしてマクロだけでないこのレンズの魅力について深掘りしてみたいと思います。
TAMRON 90mm F2.8 Macro(Model 272E)
- マウント:キヤノンEFマウント(他にもニコン、ペンタックス、ソニー用があり)
- 焦点距離:90mm
- フォーカス:AF/MF切り替え式 フォーカスリミッターあり
- レンズ構成:9群10枚
- 最短撮影距離:0.29m
- 最大撮影倍率:1:1
- 質量:405g(レンズ本体)
- 市場参考価格:約18,000円~22,000円(2026年2月現在中古カメラサイトにて)
外観をチェック
外観はスタンダードなタムロンの交換レンズ。素材はエンジニアリングプラスチックですが各所に配された金の縁取りが高級感を出しています。Model272E のEFマウントモデルでは一般的なEFマウントレンズ同様絞りリングはなく、絞りはカメラから操作することになります。ちなみに、数ある世代の中でもこの時代のモデルをあえて取り上げる理由の一つがフォーカスリングがAFとMFのクラッチ式であるという点。
動画ではAFレンズであっても意図に応じてMFを使うことが多いため、MFの使用感も大いに気になるところですが、クラッチ式のフォーカスはフォーカスリングを前後にずらすことで(他の方式もあり)フォーカスの駆動を物理的にモーターから人の手に移譲させます。個人的にはAFとMFを違和感なく繋ぐ方式として好きなんですが、最近これを採用しているレンズをあまり見ないのがちょっと残念だったり。
また、このModel272Eに限らずマクロレンズならでは特徴として、最短撮影距離においてレンズが大きく迫り出すというものがあります。レンズが繰り出すことによってマクロならではの描写を獲得しているわけです。もっとも、2012年にリニューアルされた次世代のModel F004では、インナーフォーカスが採用されて前玉が繰り出さないようになるなどの改良が施されています。
チャートにて描写をチェック
それではチャートにて描写を見てみたいと思います。一つ注意しなくてはならないのですが、Model272Eは絞り開放の値がフォーカスの距離によって変動し、普段のチャートチェックで使用する距離3ft(約91cm)では開放F値はF3.5という数値になります。これはレンズが繰り出すことで暗くなるという性質によるもの。最初は絞りが上手く動いていないのではないかと不安になりますがこれが正常です。
開放ではわずかに滲みを感じます。F4に絞ると非常にクリアで解像度の高い描写。さすがマクロレンズだと思いました。カラーチャートも鮮やかです。90mmという長めの焦点距離なので歪曲もほとんど感じません。
マクロの世界へようこそ!至近距離をチェック。
さて、Model272Eは等倍撮影が可能なので、そこではどのような描写になるかをチェックしてみましょう。今回大きさや質感がわかりやすい被写体として百円玉を使ってみました。
マクロレンズで見る百円玉は普段見ることのない質感。小さなものを拡大するというマクロの世界の虜になる人が出るのも頷ける、神秘的な魅力があります。ちなみにマクロ域においては被写界深度が非常に薄くなるため、開放だと100の刻印の山と谷の凹凸の距離でもわずかにボケが発生しています。
F8に絞ってみると、先ほどの描写から1枚ヴェールの剥がれたクリアな世界になります。メタル表面の細かなスクラッチの質感が素晴らしい。
さて、レンズの最大絞りであるF32ではどうでしょう。実は絞りを入れすぎると「小絞りボケ」と呼ばれるボケが発生し、ピントがあった部分であっても描写はやや甘くなってしまいます。F4.6、F8と比較すると、もっともクリアなのがF8で、F32では開放F4.6よりもむしろ描写が甘くなっているように見えます。被写界深度と描写のクリアさのちょうどいいポイントを見つけるのも、マクロの使いこなしのコツと言えるのかもしれません。
無限遠をチェック
マクロレンズは近距離が主戦場ですが、このModel272Eは中望遠レンズとしても高い評価があります。そこで遠距離の描写も見てみましょう。
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開放であっても非常に優秀な解像であることがわかる描写です。絞った描写と比べると、中央部はややコントラストが甘く周辺減光がありますが、むしろ雰囲気のある好ましい描写と感じました。
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F4に絞ると周辺減光が解消し、さらにクリアな描写になります。
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F4と5.6ではほとんど差は感じません。絞ることによって画面全体が均質になり、コントラストが出て色も若干濃くなります。
マクロレンズの中には近距離に特化して遠方の被写体は甘くなるものもありますが、Model272Eは全く問題なし。非常にクリアで気持ちのいい解像度の高い描写である、と言えます。
レンズフレアとブリージングをチェック
それではフレアをチェックしてみましょう。Model272Eはタムロン90mmマクロの中では初めてデジタル対応したコーティングを施されたレンズとのこと。画面内に逆光を入れてみるとさすがに画面全体に白っぽいハレーションとレンズフレアが入ります。
しかし、レンズフレアやハレーションそのものは非常に素直で、また付属のフードもあるためきちんと管理すればそれほど対処が難しいものではなさそうです。
フォーカスブリージングはどうでしょう。マクロレンズはレンズの移動幅が非常に大きく、ブリージングもはっきりと出るようです。しかし、至近から無限まで大きく一気に移動させるような使い方でもしなければ普段は気にならないと思います。
レンズギアとフォローフォーカス
さて、Model272Eのようなマクロレンズは、レンズの繰り出しが非常に大きいため、レンズの回転角もそれなりのものになります。動画撮影のマニュアルフォーカスではレンズを直接触って回転させると余計な手ぶれの元になるため、回転の多いレンズではギアを取り付けてフォローフォーカスを使うのが無難。今回Tilta Nucleus Nano2を使用。かなり小型のワイヤレスフォローフォーカスで、ワンオペであっても気軽に取り回すことができます。
テスト撮影:神保町、本の街と。
今回、俳優のおざきゆかりさんにモデルになっていただき、テスト撮影を行いました。テスト撮影では毎回1本のレンズで全てを構成しますが、90mmという中望遠、マクロレンズという特性を生かしつつ、寄り引き様々なアングルを試しています。また逆光も効果的に取り入れることで表現の幅を増すことができます。
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最後に
今回はTAMRONの銘玉 SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1[Model 272E]を紹介させていただきました。
評価の高いレンズだけあり、近距離から遠距離まで破綻なくどの距離でも優秀な描写を見ることができました。古い世代のレンズですが描写は全く問題ないと感じます。もちろん新しいモデルではミラーレスへの対応、インナーフォーカス、AFのさらなる進化と、使い勝手において大幅な進化を遂げていることは間違いないのですが、レンズそのものの地力はこの時代のものですでにかなり成熟しているのではないかと感じます。中古価格もこなれており、マクロという新しい世界に気軽に踏み出すのに最適な一本なのかもしれません。