ソニーのフルサイズミラーレスα7シリーズは、静止画・動画両面でバランスの良い性能を備えた「万能型フルサイズ機」として多くのユーザーに愛されてきた。その中でも2025年12月19日に新たに発売された「α7 V」は、従来のスタンダードモデルの立ち位置を維持しながらも、高速連写や基本性能を大きく強化したモデルだ。
実際に使ってみると、本機は設定を追い込めば追い込むほどその真価を発揮する。実写を通じて"カスタマイズ重視"の設計思想が色濃く反映されたカメラであることが分かった。本記事では、実写を通して気づいたα7 Vの進化点と、その性格を掘り下げていきたい。
主なスペックと外観:α7 IVからの進化
α7 Vでは「部分積層型CMOSイメージセンサー」とAI処理機能を内蔵した画像処理エンジン「BIONZ XR2」を搭載したことで、連写性能を中心として基本性能が大きく強化された。最大30fpsの高速連写に対応し、しかもブラックアウトフリーで撮影できる点は、本機の方向性を象徴する進化と言える。有効画素数は約3300万でα7 IVと変わらない。
動画性能については、4K60Pをクロップなしで撮影できるほか、4K120P撮影の際にアクティブ手振れ補正の併用を実現、安定した長時間連続撮影に対応するなど堅実な成長を果たした。α7 Vはソニーのカメララインナップの中で「ベーシックモデル」に位置しながらも、より本格的な動体撮影や業務レベルでの動画撮影を意識した仕様へと踏み込んでいる。
外観は質実剛健な印象。基本的なボディ外観や操作系のレイアウトは従来のα7シリーズを踏襲しているものの、細部の設計や機能面で複数の進化が見られる。
まず外寸・重さは微妙に変化しており、α7 Vは約695g(バッテリー・メディア含)で、α7 IVの約658gより約37g重くなっている。これはマグネシウム合金の堅牢な内部設計や、新しい可動部を備えた4軸モニターなどの影響と考えられる。本体サイズは奥行きがやや増加しており、ごくわずかに大型化している。
ソニーのフルサイズカメラと言えば以前は小型軽量なイメージが強かったが、本機はしっかりと堅牢性と重厚感のあるボディだ。グリップは深さがあって安定したホールド感を得られる。ただし、やや硬めのグリップで筆者が実際に使ってみた感触では指への当たりがすこし痛く感じた。
背面モニターはα7 IVの3.0型(インチ)約104万ドットから、α7 Vは3.2型(インチ)約209万ドットへと進化しており、より大きく見やすくなっている。可動方式も「4軸マルチアングル」を採用し、チルトとバリアングルそれぞれの良さを両立したものになった。
インターフェース(外部接続)では、USB-C端子を2ポート装備し、給電や充電・データ転送・周辺機器接続を柔軟に行える構成に変更されている。HDMIはフルサイズのType A端子で業務用途でも安心だ。
静止画実写レビュー:高速連写・AF・ダイナミックレンジ
α7 Vの進化を最も実感できたのが、高速連写とAF性能だ。30fpsのブラックアウトフリー連写は非常に快適で、被写体の動きを途切れることなく追い続けることができる。被写体検出機能が非常に優れていて、人物が対象であれば横や斜めなどからの角度で顔が完全には見えていない状態でも、高い確率で瞳を検出してくれた。
鳥の撮影においても被写体検出とAFがしっかり機能しており、飛翔中の個体にも高い確率でピントを合わせ続けてくれた。また、飛行機の撮影では機体全体だけでなく、操縦席部分を優先的に捉える挙動も確認でき、被写体認識の精度の高さが印象に残る。
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高速連写に特化したα9シリーズほどの突き抜けた性能ではないものの、α7シリーズとしては動体撮影の守備範囲が大きく広がった。スポーツや乗り物、野生動物など、これまでα7ではやや不安が残っていたジャンルにも、安心して持ち出せるカメラになったと言える。
ただし、高速連写性能を安定して引き出すには、いくつか注意すべき条件がある。まず、記録メディアはCFexpress Type Aの使用が推奨される。30fpsでの高速連写の際に書き込み速度の遅いメディアではバッファがすぐに埋まってしまい、連写速度が低下する。高速で安定した連写を行うためには、十分な書き込み性能を備えたメディアが必須だ。
また、RAWの記録方式にも注意したい。α7 VではRAWの記録方式として「ロスレス圧縮」「圧縮(画質優先)」「圧縮」の3種類が用意されているが、高速連写を前提とする場合は「圧縮」を選ぶのが現実的だ。画質を優先した設定では、連写を続けるとバッファ消費が早く、結果として連写速度が落ちやすい。
加えて、30fpsでの連写は電子シャッター時のみ対応で、メカシャッターでは最大10fpsとなる。こうした条件や設定を正しく満たしてはじめて、α7 Vの高速連写性能は安定して発揮される。動体撮影で本領を引き出すには、撮影前の設定確認が欠かせない点には注意したい。
連写や動体撮影以外においても、α7 Vは優れた性能を誇る。特に最大約16ストップのダイナミックレンジを実現しており、風景撮影などでその恩恵を実感できた。日の出のようなシチュエーションでも明部、暗部ともにきれいな階調で記録できている。なお、最大16ストップのダイナミックレンジを確保できるのは静止画でメカシャッターを使用する場合に限定される。
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ソニー独自のカラー表現が魅力の「クリエイティブルック」にも新たに「FL2」「FL3」が追加された。手軽におしゃれな色に仕上げることができるのでぜひ使ってみてほしい。
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動画実写レビュー:安定した4K収録と優れたズーム機能
動画性能においても、α7 Vは堅実な進化を遂げている。7Kオーバーサンプリングによる高精細な4K動画記録に対応。4K60Pまでノンクロップで撮影でき、4K120Pでは「APS-C/Super35撮影モード」に切り替わるものの、アクティブ手ブレ補正との併用が可能だ。
さらに長時間の連続撮影にも対応しており、4K60PでUSB給電しながら撮影を試したところ、記録メディアの容量限界まで5時間以上止まらずに収録できた(XAVC S 4K 60P、4:2:2 10 bitで撮影、室温約20℃の環境)。スチルカメラの動画性能としては非常に高い水準だと言える。
実際の撮影で特に便利に感じたのが「超解像ズーム」だ。画質の劣化を抑えたデジタルズームで、例えば4K60Pなら最大1.5倍のズームができる。Super35のクロップモードと併用するとかなり望遠に対応できるので、標準ズームレンズや単焦点レンズでの表現の幅が広がり重宝する。マルチセレクターにズーム機能を割り当てておくことで、まるでズームレバーを使っているような感覚で滑らかにズーム操作できた点も好印象だ。
その一方で、動画撮影機能においては惜しい点もいくつかある。タリーランプや録画強調表示がなく、録画ミスを防ぐ仕組みが弱い。また、RAW動画の内部収録やオープンゲート記録には非対応で、同価格帯の競合機種がこれらに対応していることを考えると、やや物足りなさを感じる部分でもある。
また、4K60P撮影時にはクロップの有無を選択する仕様となっており、クロップなしではノイズリダクションの機能がオフになる。仕様を理解していれば問題ないが、知らずに使うと結果に戸惑う可能性もあるだろう。
α7 Vの性能を試しながら撮りためた動画素材をつなぎ、スナップムービーを用意したのでご覧いただきたい。全編ピクチャープロファイル「PP11」に設定してS-Cinetoneのカラーで収録している。
操作性とカスタマイズ:使いやすいが、簡単ではない
α7 Vは操作性が非常に優れている。例えば、前述したように、グリップは深くしっかりとしたホールド感を得られるほか、新しくなった4軸可動式のモニターはバリアングルとチルトの両方に対応して自由度が高い。
写真と動画の切り替えもスムーズだ。モードダイヤルの下に写真と動画の切り替えスイッチを搭載しており、人差し指1本で簡単に写真から動画モードへ移行できる。
フレキシブル露出モードを有効化することで、静止画と動画の露出モードを独立して運用できる点は、実践的な設計だと感じた。メニュー画面から、静止画と動画の設定を別々に保持できるようになっているのでこの項目はぜひ設定しておきたい。
さらにボタンやダイヤルの数が豊富で、Fnメニューを含めたカスタマイズの自由度も高い。設定を追い込めば追い込むほど、自分の撮影スタイルに最適化されたシステムを構築できるカメラである。
その反面、何をするにもユーザー側に判断を求めてくる。シャッター方式やRAWの圧縮方式の選択、4K60P撮影時の画角設定など、いずれも撮影者が仕様を理解したうえで撮影場面に応じて選択する必要がある。適切な設定を選択することでカメラの性能を最大限に引き出せる一方で、設定や仕様にあまり関心のないユーザーにとっては、煩雑に感じられる場面も多いだろう。
カスタムボタンについても、そのボタンにどんな機能が割り当てられているかを記憶しておかなければその操作性を十分に活かすことができない。つまり、α7 Vはプロユーザーなどにとって「使いやすいカメラ」ではあるが、「誰でも簡単に使えるカメラ」ではない。
なお筆者は、普段キヤノンの一眼カメラのユーザーで、現在はEOS R6 Mark IIIを使用している。両機は価格帯や発売時期、総合的な性能が近く、実際に使い比べることでその思想の違いがより明確に感じられた。
ソニーα7 Vがカスタマイズを前提とし、ユーザーに多くの選択肢を委ねる設計であるのに対し、キヤノンEOS R6 Mark IIIはカメラ側がある程度「こう使う」ことを定めており、使い方が決まっているからこそ初心者にも親切な操作感を備えている印象だ。
どちらが使いやすいかは明確な優劣ではなく、完全にユーザー次第である。設定やカスタマイズをしっかり追い込み、自分の撮影スタイルに最適化したい人にとっては、α7 Vのほうが使いやすいと感じるかもしれない。
まとめ:α7 Vは誰のためのカメラか
α7 Vは「ベーシックモデル」に位置付けられながらも、その仕様は明らかに玄人好みだ。高速連写とブラックアウトフリー撮影に対応したことで、スポーツや乗り物、野生動物などの動体撮影にも本格的に対応できるようになった。特にこの価格帯でブラックアウトフリー撮影が可能なカメラは希少で、スチル性能の高さが際立つ。
これまでソニーのフルサイズカメラで動体撮影を本格的に行うにはα9シリーズやα1シリーズが主な選択肢だったが、高級なグローバルシャッターまでは必要としていない人にとって、α7 Vは実にちょうど良いモデルだ。画素数も約3300万とバランスが良いので、多くの人にとって扱いやすい。
動画については目新しい機能こそないものの、4K60Pノンクロップ撮影や長時間収録に対応し、基本性能が非常に高い。写真と動画の両方で高い水準を備えており、あらゆる撮影をそつなくこなすバランスの良さが本機の大きな魅力だ。ハイアマチュアからプロまで、写真も動画も妥協したくないユーザーにとって、α7 Vは非常に魅力的な選択肢となるだろう。
また、カスタマイズ性に優れており、ボタンやダイヤルにユーザーが自分好みの機能を割り当てることができる。メニューの構成が分かりやすく、設定に関する制限が少ないのでカスタマイズの自由度が高い。オート任せで完結したい人にはあまり向いていないかもしれないが、設定を追い込むことに苦がなければ非常に心強い設計のカメラだ。
尾田章|プロフィール
カメラのある日常の楽しさを発信する"くらしフォトグラファー"。カメラ機材の使い方、写真の撮り方などをYouTube、運営ブログ「KOBE FINDER」にて"Aki"として初心者にもわかりやすく解説。
