私は映像業界に携わるようになった15年ほど前の当初から一貫して企業VPなど法人向けを中心に映像制作を行うことが多く、今現在も法人向けに映像にまつわるサービスを提供している。基本的には16:9や2.4:1などの横画角が中心だが、ここ2年ほどからだろうか、法人案件でもご要望を頂戴するのが「縦型動画」だ。
具体的にはInstagramリール広告用の映像制作を横画角のものと合わせて同時に制作することが顕著に増えてきた。その縦画角である必要性はまさにスマートフォンの縦視聴に起因するわけだが、スマートフォンネイティブで発展してきたInstagramでは「縦」が基本になっているため、Instagramで広報を行うに縦動画は必須となる。自分自身でもInstagramを実際に運用してみて縦動画の必然性と、縦横同時制作の手間を実感している。横画角に慣れてしまっている自分の身を一から鍛え直し、初心に帰って勉強する日々だ。
そんな中、キヤノンの新型「EOS C50」が発表となった。今回、そのテストの機会を頂いたので私なりの視点でファーストレビューを進めていきたい。スペック討論は数多くの記事が出ているかと思うのでそちらに任せ、企業VP制作を行う製作者目線で語れればと思う。
EOS C50は小さな筐体に「撮る」ための機能がぎっしり
最近の私はキヤノン「C400」をメインカメラとして愛用しており、他にC80、XF605なども使用している。過去には「R5 C」も2年ほど活用していた時期もある。その経験からして今回のEOS C50はR5 CとC80の中間のようなコンセプトになっていると思う。

私の最近の仕事では、縦横同時に撮る機会が増えてきた。その方法は3パターンある。一つは、横用、縦用と同じシーンを2回撮ることだ。そしてもう一つはC400の16:9画角の6Kモードで広めに撮影し、後で編集時に縦(FHD)を切り出す方法。シーンにもよるが同時に撮ることができそうならば、一発で仕留めたいところだ。2回同じことができない場合もある。
しかし6Kからの切り出し作業は編集時にそれなりの負荷がかかる。数カットだけということなら特に問題にはならないが、全編を切り出す運用は編集負荷が大きく、編集効率が下がってしまう。
そこでもう一つの方法としては、縦動画のためのカメラを別途用意して2カメで撮影することだ。私の場合、キヤノンVlogカメラの「R50 V」を導入し、C400の上に縦設置して同時に2カメで回してしまうという作戦を最近は取っている。縦動画はまさにInstagramリール動画用のためHDサイズがあれば品質として十分であり、R50 Vは縦撮影での使い勝手が良く、品質も問題ない。
そこに今回のEOS C50である。今回一番面白いと感じたのが、縦横同時記録という機能だ。私としてはそんなカメラは過去に見たことがない。

横位置画角の中で任意に切り出しポイントを設定して、CFexpressとSDにそれぞれを分けてサブ記録することができる。RAW記録時はできないものの、XF-AVC、XF-HEVC S、XF-AVC S記録時に有効となる。実質的に私が主に使用している記録モードはXF-AVCなので特に問題もない。
このモードがあることでEOS C50の小型ボディ1つだけで縦横同時撮影ができてしまう訳だ。
切り出し枠の微調整も設定できるので実用的である。切り出し枠の位置調整もアサインボタンに登録でき(ユーザー設定>クロップ設定>位置)、即座に調節が可能だ。

企業VPでは商品の物撮りをよく行う。小型プロダクトの物撮りでは、回転台に乗せて小型モータードスライダーなどと組み合わせて撮影している。

モータードスライダーにカメラ2台を載せて縦横同時撮影というのは私の持つ機材環境ではペイロード的にもこれまでは実質的に不可能だったが、EOS C50であればきっとできるだろうと考えた。ワクワクしながらも、モータードスライダーのリモートヘッドにEOS C50を乗せ、物撮りテストを行って見たが、これが見事なまでにマッチしたのである。
守備範囲の広いシネマカメラC50
EOS C50とVlogカメラR50 Vを比べてみよう。C50のハンドルを外した状態で見比べるとサイズ的には一回り大きい程度の差であり、非常にコンパクトなことが分かる。

この小さな筐体で内部7K-RAWでの3:2画角のオープンゲート収録までこなすことができる。そしてボディー重量も軽量である。
EOS C50では内部バッテリーだけでも今回レビュー時の実測値として65分を超える収録を実際に行うことができた。2025年夏は本当に暑く、大阪では連日の35℃越えの猛暑が続いた中、自前のCFexpress 2TBおよびSDXCカードを使って長回しの実録をしてみた。7K-RAW収録を連続67分間、バッテリーが切れるまで安定して収録が可能だった。
事実上の前モデルとなるR5 CではCFexpressメディア温度のグラフ表示モードがあり、多少なりとも気を使いながら撮影する必要があった記憶がある。EOS C50ではその温度グラフ表示メニューはなくなっており「温度監視する必要はない」と言わんばかりの自信が伝わってくる。業務としてカメラを使う以上、安定度はカメラ選びの最重要ポイントであり、発売前のサンプル機ではあるもののC50の安定度に感心した。
EOS C50本体をモータードスライダーのリモートヘッドに乗せてみよう。今回はC50と同時期に発表されたRF85mm F1.4 VCMもセットでお借りできたので、その組み合わせとした。電源は本体バッテリーLP-E6Pのみとし、HDMI有線接続でモニター出しする。EOS C50のHDMI端子はA型フルサイズ、剛性的にも安心できる。HDMI出力と本体モニターは同時出力が可能でキャラクターON/OFFもそれぞれに設定可能だ。


被写体はこの記事を書いている今が旬のマスカットを用意した。被写体にディテールがあり分かりやすいかと思う。小型ターンテーブルステージに乗せ低速で回転させ、カメラがトラックインするというカットを狙ってみる。その時、横位置と縦位置を同時収録する。
【トラックイン 4K 横テスト】
※本映像は2160pでの視聴を推奨。低画質で再生した場合、微動しているように見える場合があります。
【トラックインHD 縦 同時切り出しテスト】
※本映像は1080pでの視聴を推奨。低画質で再生した場合、微動しているように見える場合があります。
EOS C50 + RF85mm F1.4 VCMのシステム重量は2kg以下の軽量のため、このリモートヘッドにも問題なく装着して容易にバランスが取れた。トラックインさせる時のフォーカスはEOS C50のデュアルピクセルCMOS AFベースの被写体検出AFを活用してみる。
クルクルとマスカットが回りつつカメラがゆっくりトラックインするので通常ではシビアなフォーカス送りを手動で頑張る必要があるが、EOS C50の被写体認識AFはよく効いていた。
今回の場合、C50本体のモニター部でタッチして被写体検出したため揺れを気にする必要があったが、レビュー時点ではまだ対応はされていないものの、Multi Camera Controlアプリを使えるようになる見込みのようで、ワイヤレスで被写体ポイント指定がアプリ上から行えるようになるはずだ。
EOS C50のデジタルズームは実務として使えるのか?
さて、マスカットへのトラックインを縦横同時記録として撮ってみて、レンズのニアまで寄った時にもっと寄りたいと思った。そこでEOS C50のx4.0まで可能となったデジタルズームを試してみることにした。この機能はEOS C50のもう一つのトピックスと言ってもいいが、実際のところどの程度の品質で撮れるものなのか多少は懐疑的でもあった。これまでの過去経験的にはx1.5、x2.0程度までは緊急時として使用したことがある。そこからどう進化しているか気になるところだ。
まずはx2.0。マスカットをクルクルしてみる。水滴が光るマスカットのディテールは、通常のデジタルズームではx2.0でも微小なジャギーが発生する場合や、水滴の光る箇所などに偽色が出ることがあるが、EOS C50では非常にスムースなグラデーションとディテール感を保っている。
結果、私感ではx2.0では特に大きな劣化は感じられなかった。また、デジタルズームが設定されていても、縦横同時記録ができることがわかった。デジタルズームのオンオフを気にすることなく縦横同時記録は可能だということだ。
次にx3.0、x4.0と試してみた。x3.0では多少の甘さが出てくるように見えたがまだ実用範囲、x4.0ではシャープネスが少し低下してくるがジャギーが見えるほどではない、という雰囲気だろうか。
x1.0〜x4.0へのデジタルズームにおいては、明らかなデジタルズーム感はないと言っていい。
デジタルズームテスト 4K 横
デジタルズームテスト HD 縦 同時切り出し
総じて、デジタルズームの好き嫌いはあると思うが、撮影の自由度が高まるのは確かで、直感的にもうちょっと寄りたい時にレバー操作でズームできてしまうことは素晴らしいことだと思う。しかもスムースなデジタルズームが可能なのだ。

どこまでなら許せるか、各自で実際に実機を手に取り試して見て、その閾値を見出しておくと良いのではないかと思う。私の感覚では常用域でx2.5、緊急時の許容内としてx3.5ぐらい、という感覚だった。
さて、せっかくなのでハイレートも撮ってみよう。4K 120 fps、FHD 180 fpsが可能とのことで、マスカットに上からシャワーをかけてみることにした。
この時、縦横同時記録ができるのかだが、残念ながらそれはできなかった。しかしながら、デジタルズームは可能だった。
ハイレート収録でもセンサー感度が良いため、絵の品質は通常撮影と変わらず良好と感じる。ハイレート時もオーバーサンプリングが生きており、特にセンサークロップされることもない。
4K 120FPS テスト
HD 180FPS +digitalズーム テスト
EOS C50の基本スペックは間違いなく高いと言える。ラチチュードの広さ、感度の良さ、ローリングシャッター歪みもさほどなく、タイムコード同期にも対応しているためマルチカメラ運用にも適している。

ジンバルに乗せるカメラとしても適していることが容易に想像できる。
NDフィルターが内蔵されていないことはやや残念ではあるが、そのためにC80やC400があると考えれば小型を優先したパッケージというのも納得できる。
また、EOS C50はハイレベルな静止画撮影にも対応している。R5 Cも同じくできるわけだが、R5 Cはある意味で特殊なポジションで、写真機としてのEOS R5に対してCINEMA EOSが同居したモデルだ。EOS C50はあくあまでCINEMA EOSが基本としてあって、静止画のEOSモードが同居するかたちだ。
動画撮影の合間で時に静止画も押さえておきたい、そうしたシーンで有効だ。ファームウェアを切り替える操作となるが、起動時間も数秒程度で特に気にならない。それぞれの専用ファームで運用できることの方がメリットに感じる。
ここで一つ注意点がある。シューにストロボ接点がないためストロボが使えないなど制約はあることだ。しかしながら、動画のための定常光で光を作っている状態で静止画を撮る場合には自分の場合はストロボを使わないのでさほど問題にはならないと思った。時に映像の中で静止画を使いたい時があるわけで、そのような静止画カットをファームモード切り替えでまるで「EOS」かのように操作してサッと撮れることは私に取っては非常に有効だ。

手ぶれ補正「IBIS」有無の議論について
私は「映像」という切り口で考えた時、必ずしもIBISが良いとは言い切れないと思っている。ここにも考え方、好き嫌いもあると思うが、電子ISにすることにより本体重量を増やさずシンプルな構造にできること、環境温度変化による精度誤差も生まれにくいこと、補正範囲に自由度があることなどいくつかのメリットがある。
写真を考えると長時間露光やピクセルシフト高画素化などIBISのメリットがより高まるのは事実であることを補足しておく。また、200mmを超える望遠域での写真撮影ではきっちりと止める効果としてはIBISとレンズ内補正の協調動作では大きな成果が期待できるのも確かだ。
一方、映像として考えた場合、映像には時間軸があり1/24、1/50、1/60などの決まったシャッターであること、手持ち撮影のブレ補正にも強度を変えられるなど電子ISのメリットがいきてくる。オーバーサンプリング収録であれば、補正処理による劣化は実質的に最小と言える。画角が狭まるという欠点はあるが、それを上回るメリットが生まれるのである。
キヤノンの電子ISには「動きベクトルの使用機能」の有無を選択できる機能がある。カメラの映像を基準にブレ補正を行うかどうかを選択できる電子ISならではの機能だ。
EOSでの電子ISの採用については個人的にはよく考えられた選択なのだろうと思うわけだが、読者の皆さんはいかがだろうか?

レビューの最後に
映像の使われ方は、この十数年で劇的に変化してきた。とりわけ近年は生成AIの登場で「真実」の定義すら揺らぎ、人類は大きな変曲点に立っている。テレビを中心とするマスメディアの時代から、誰もがスマートフォンやカメラで発信者となる時代へ。いまや「全人類カメラマン」とも言える社会であり「映像のプロ」とは何かを改めて問うべきだと感じる。
映像プロとしての価値は高価な機材や複雑な編集だけに宿るのではなく、変化の速いプラットフォームと社会、人の行動を読み、最適な「伝え方」「表現」を設計して「成果につなげる力」にあると言えると思う。そのうえで、撮影・照明・収音といった伝統技術を咀嚼し、次世代仕様へ磨き直すことが自分自身も含めて急務だ。
EOS C50は、その再定義を後押しする象徴的な存在かもしれない。縦横同時記録、実用域のデジタルズーム、堅牢でコンパクトな筐体、これまでの常識やタブーにとらわれず「今まさに求められる現場」に合わせた思想が貫かれている。

このカメラを手にすることは新機材の導入に留まらず、自分自身の映像制作観をアップデートする好機になるのではないか。固定概念にとらわれず、必要なものを選び直し、専門領域をもう一度見つめ直す。伝統の良さを大切にしつつ変化を受け入れる。EOS C50は、そんな再考へのインスピレーションを与えてくれるカメラだと感じた。
田中誠士|プロフィール
関西大学工学部応用化学科卒。印刷系技術会社にてシステムエンジニアとしてデジタルイメージング及びコンバーティング分野のインテグレーション業務、システム開発に従事。その後2002年に起業し、株式会社フルフィル 代表取締役に就任。エンジニア経験及び理系出身の知識を活かし、技術企業など法人専門に特化した映像制作やブランディング業務を行う。自らカメラマンとして撮影も行う。また大阪中央区、東京銀座にて「フルフィルスタジオ」を運営。
また2025年に新規事業として、応用化学出身の知識を活かし製品開発を行い、自社ブランドでのB2Cプロダクト製造販売事業もメーカーとしてスタート。SNSマーケティングを身をもって実践し、得られた生の結果・経験をクライアントへフィードバックし映像制作へ反映する実践スタイルが好評を得ている。
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