はじめに
今年のIBC 2025での話題の一つがキヤノン「EOS C50」の発表だ。EOS C50はCINEMA EOS SYSTEMシリーズの中で最も小さく・軽量なモデルだ。今までのCINEMA EOSは「R5 C」など比較的小型モデルは存在していたもののその大きさは一般的なミラーレスカメラに比べると大きい印象があった。今回のEOS C50は一般的なミラーレスカメラの佇まいに近い。
結論から述べると、EOS C50は小さいからといって、その機能に不足はなく、むしろ映りのクオリティは驚くべきものだった。今回は、機能的な側面に加えて、その画質にもフォーカスする。また、EOS C50は趣味の撮影はもとより、仕事で十分対応できる業務機という印象がある。その部分についても紹介していきたい。すでにPRONEWSではEOS C50の複数のレビューが公開されており重複する部分もあるが、本記事で紹介していない情報はそちらを併せてご覧いただければ幸いである。

スペックとデザインから見るEOS C50の魅力
ここでは動画性能に絞ったスペックを紹介したい。
- レンズマウント:RFマウント
- センサー:35mmフルサイズ CMOSセンサー(6960×4640ピクセル 対角43.2mm)
- Base ISO:800/6400/自動切り替え(Log/RAW記録時)
- センサーモード:フルサイズ 3:2、フルサイズ、Super 35mm Crop、Super 16mm Crop
- ダイナミックレンジ:フルサイズ時:15+ストップ Super 35mm Crop時:16ストップ
- AF:デュアルピクセルCMOS AF II
- 記録フォーマット:Cinema RAW Light、XF-AVC、XF-HEVC S、XF-AVC S
- 記録メディア:CFexpressカード、SDカード
- 外形寸法:約142×88×95mm(本体のみ)
- 質量:約670g(本体のみ)
外観
先にも述べた通り、EOS C50は本体重量が軽く670gでその重量は一般的なミラーレスカメラとほぼ同じだ。

本体の厚みこそ95mmであるものの、幅と高さに関しては小型のミラーレスカメラ程度の寸法となっている。持った感じのグリップ感も良く、しっかりホールドできる。

初めてこのカメラを手にした感覚は、その見た目に対して非常に軽量な印象を受けた。670g(本体のみ)という重量はシネマカメラとして確かに軽量だが、それ以上に、右手側の厚みと持ちやすいグリップがそう感じさせる。左手側は上の写真のように厚みがある一方で、右手部分の形状が抜群に握りやすいのだ。組み合わせるレンズにもよるが、長時間での手持ち撮影をしていても疲労感が出にくいはずだ。
後述するが、数多く配置されたボタンのアクセスしやすさも秀逸であり、まさに撮るための道具として洗練されている印象を受ける。
XLRユニット一体型ハンドル
EOS C50にはXLRユニット一体型のハンドルが付属している。カメラ本体とハンドルユニットそれぞれにRECボタン・ズームレバーが備わる構成となるためハンドヘルド撮影時に非常に有効で、カメラをしっかりホールドしたまま、迅速かつ正確なズーム操作が可能だ。
また、EOS C50は、カメラ本体に備えられたズームレバーと、ハンドルユニットにあるハンドルズームロッカーの双方から、デジタルズームを直感的に操作ができる。この機能の大きな特徴は、単焦点レンズを装着している場合でも、最大4倍までのデジタルズームを実現することが可能な点だ。
後述するが、一般的にデジタルズームは画質の劣化が懸念されるものの、C50においてはデジタルズームによる劣化がとても抑制されていると感じた。中でも、2倍程度のズーム倍率においては、4K映像制作で実用に耐えうる十分な画質を維持している。C50はこの機能によって、撮影状況に応じてレンズ交換を行う必要性が減り、デジタルズームによる柔軟な画角調整を可能にしてくれる。結果として、レンズ交換に要する時間や手間が削減され、撮影プロセス全体の効率化にもつながりそうだ。

付属するトップハンドルは工具不要で、手回しネジ2本で固定される。XLRユニットとハンドルが一体化しているため、装着時の剛性が高く、ガタつきがなく安定した運用ができる。音声信号はホットシュー接続によりカメラ本体に入力される、ケーブルのテンションやマイク装着時の振動によって端子やマウント部が緩むリスクもない。撮影現場でありがちな「XLRアダプタが少しズレて収録できていなかった」といったトラブルも無縁だ。
最大4倍ズーム可能なデジタルズーム
EOS C50では7K解像度を活かした最大4倍のデジタルズームが可能(RAW撮影時は不可)となっている。EOS C50は水平画素数が6960画素であるため4倍ズーム時は水平方向の撮像に寄与する画素数はフルHD以下となるため解像度の低下は生じるのだが、おおよそ2倍程度のデジタルズーム域であれば大きな解像度低下は感じさせないものだ。もちろんどこまでのズームが画質的に許容できるのかは、視聴環境や個人の感覚、また撮影に使用するレンズにも大きく依存するが、デジタルズームを使用した映像を試した感覚としてはデジタルズーム臭さはなく、うまく抑えられている印象だ。
航空機撮影ではこのデジタルズームを使用して撮影を行ったが、「あと少し寄りたい」という場面は意外と多いため、スムーズにズームができる機能はありがたい。
さらにデジタルズームの特筆すべき点は、その高い汎用性にある。RFレンズやEFレンズはもちろんのこと、マウントアダプターを介して装着したオールドレンズやシネレンズなど、本来ズーム機構を持たない単焦点レンズであっても、スムーズなズーム表現を実現する。ズーム速度は16段階で細かく調整できるため、手動操作では難しい極めて滑らかなスローズームといった演出も容易なのは便利だ。これにより、1本のレンズで複数の画角を擬似的に作り出すことができ、レンズ交換の手間を省き、撮影の効率性と表現の幅を広げることに貢献する機能となっている。
14個ものカスタムボタン
EOS C50のカスタム設定可能なボタンの多さも特徴のひとつである。
前面×2、上面×6、背面×6と合計14のボタンに対して自由に機能をアサインできる。ミラーレスカメラユーザーが使いやすく操作しやすい配置であり、撮影時にはカメラを持ち替えることなくほとんどのボタンにアクセスできる設計となっている点は秀逸だ。
カメラの操作はカメラマンの運用方法によって大きく異なるため、自由度の高いカスタマイズで素早い設定ができることは撮影時間が限られる業務では特に必須だ。EOS C50はそのニーズに十分応えていると思う。記事の後半では、筆者が実際に使用したプリセットを紹介する。
カスタマイズを行うほどに大きく使い勝手が向上するカメラがC50という印象だ。
バリアングル液晶
背面液晶に関してだが、EOS C50ではオーソドックスな通常のバリアングル機構となっている。

ユニークな機能として、LCD輝度ブーストモードが挙げられる。これは、直射日光下でも液晶画面の視認性を確保するため、一時的に輝度を向上させる機能である。このモードの搭載により、屋外での撮影がより容易になる。
後述の作例1の撮影では強い日差しに近い中で撮影を行ったが、その視認性は非常に高いもので、太陽の方向にカメラを向けても正確に機体を追うことができたのはこのLCD輝度ブーストモードの恩恵によるところが大きい。
また、EVFは本体にはなく、キヤノン純正のビューファインダーも存在しない。どうしてもEVFが使いたいのであれば、サードパーティ製のHDMI接続タイプのEVFやルーペ型のファインダー(Zacuto Z-Finderなど)を検討するのも手だろう。
空冷ファン
EOS C50は空冷ファンが搭載されている。吸気は2か所、排気は1か所の構成である。今回の作例撮影にあたっては比較的暑い日中屋外で長時間の撮影を行ったが、熱による警告や熱停止は全く発生しなかった。このカメラは撮影モードによっては13W以上もの大きな電力を消費するが、うまく排熱を行っている印象がある。真夏の屋外撮影は未経験だが、炎天下で直射日光を当てない限りは長時間撮影が期待できるだろう。
厚みはおそらくこの空冷ファン構造のためだと思われるが、その分背面液晶はUSB-CポートとHDMIに干渉しないというメリットもある。

なお、後述の作例1では、実際に屋外にて7K60pおよび7K30pによる内部RAW記録を試した。撮影を行った際の最高気温は32℃の直射日光がカメラに当たる状況だったため、カメラ本体の表面温度はかなり上昇していたと思う。にも関わらずEOS C50の熱に起因する撮影停止は一切発生しなかった。
長時間の連続撮影は今回試すことができなかったものの、熱耐性を有しているものと感じることができた。
ポート類
先に述べたようにポート類(タイムコード端子、USB-Cポート、HDMIポート共に)は干渉しないためケーブルを挿した状態でもバリアングル液晶を回転させることが可能となっている。ポートに関してもフル規格のものが採用されており、強度も十分だ。
写真ではポートカバーをつけた状態で撮影しているが、ポートカバーは取り外し、再装着が可能だ。屋内撮影や晴天での撮影では外して運用し、雨天や埃が舞う状態ではポートカバーを取り付けて撮影するという運用も可能だ。
EOS C50で撮る航空機とポートレートの世界
今回はEOS C50での撮影として、いつもの航空機撮影と人物撮影の2パターンを行った。筆者はEOS C50の発表からその機能的な側面と同時に描写力に注目していた。結果から言うとその描写力は筆者を十分過ぎるほど満足させてくれるものだった。EOS C50をお借りしている期間内で十分に満足できる光線状況の撮影はできなかったのだが、それでもEOS C50のポテンシャルは感じ取ることができた。
動画作例1
幅広いダイナミックレンジ、解像度、発色の良さ、S/Nの素性の良さからくる、機体、風景、人物の描写力は筆者の期待を上回るものだった。ぜひ4K解像度での再生でご覧いただければと思う。
EOSシステムにおいて上記の航空機の撮影で一度使ってみたかったレンズが「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」だ。このレンズは焦点距離によって開放F値が変動するレンズ、かつLレンズではないのだが、テレ端が800mmと超望遠を実現する軽量・コンパクトなレンズである。明るさもテレ端でF9だが日没時刻まではなんら問題なく使えるものだ。
今回の撮影は主にオートフォーカスによるピント合わせを行ったが、C50にはマニュアルフォーカス時に有用なフォーカスアシスト機能も搭載されている。これはデュアルピクセルCMOS AFの位相差AF技術を応用したものであり、マニュアルでのフォーカス操作時に、ピントが手前側(前ピン)と奥側(後ピン)のどちらにずれているかを示すユーザーインターフェースを備える。そのため、ピントの状態を瞬時に把握でき、利便性が高い。

また、動画作例1ではいつものように大昔のレンズである「EF400mm F2.8 L IS USM」を純正のマウントアダプター「EF-EOS R」を介して使用した。1999年9月発売のレンズのため、C50との組み合わせではAFでピントが合うまでに時間がかかる、または、適切なピント合わせができないことがあるとのことだが(メーカー情報)、描写性能の基準としてカメラをテストするときによく使うレンズであるため、こちらを使用した。
夜間の航空機撮影ではF2.8でもISO6400〜12800程度が適正露出となることが多い。そしてISO6400〜12800付近の感度はカメラのノイズ特性(素性)がわかりやすい感度である(夜間の航空機撮影で使えるのかが筆者のカメラ選びの基準でもある)。
無論、EF400mm F2.8 L IS USMを含めデジタルズームを行うことが可能である。
動画作例2
もう一つの作例もいつものように人物撮影を全カット手持ちで行ったものだ。EOS C50にはセンサーシフト式のボディ内手ブレ補正はない。よってレンズ側の手ブレ補正もしくは電子手ブレ補正を使用することになる。EOS C50ではレンズ側の手ブレ補正と電子手ブレ補正の協調動作が可能になっているため、それらを使用し、手持ちでの動画撮影も可能となっている。後述するが本動画はすべてオートフォーカスを使用した撮影だったが、AFの挙動も素晴らしいものがあった。
この作例ではRF24-105mm F2.8 L IS USM Zをメインに使用した。同レンズにはパワーズームアダプター (PZ-E2もしくはPZ-E2B)を取り付けることにより、手動では難しい超低速のズーム操作が可能となっている。
また、先に述べた4倍ズームとの併用により、そのカバーする焦点距離は最大420mmにまで広がる。4倍ズームは解像感こそ下がるが、ドキュメンタリーやライブ撮影など広い焦点域が必要な撮影であっても、これ一本さえあればほぼ全ての撮影領域をカバーできる。このサイズのレンズが400mm域をカバーできることの意味は非常に大きく、機動力が求められる撮影においても威力を発揮する。そして、レンズ交換の手間が惜しまれる撮影現場で非常に有効と言えるだろう。

本撮影でもいくつかのカットは、ズームしながら手持ちで撮影している。
7K/60p RAW収録から4K/120pまで。EOS C50の多彩なコーデックと撮影機能を徹底検証
ここでは、EOS C50の映像制作能力の核となる記録フォーマットと撮影機能について、詳細に検証していく。新開発の7Kセンサーがもたらす描写力、ワークフローに柔軟性をもたらす多彩なコーデック、そして高フレームレート撮影やデジタルズームといった実践的な機能まで、その一つひとつを掘り下げて解説しよう。
新開発の7Kセンサー
EOS C50には新開発の7Kフルサイズセンサーを初採用。滑らかな階調と高い解像感は本センサーによるところが大きい。

このカメラの画質はノイズを抑えつつ解像感を高めた上質な映像が撮れる印象を持つ。
圧縮コーデックの4K収録でもその印象は受けるが、7KのRAW撮影の場合さらにそれを感じられるものだ。
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ローリングシャッターの速度は通常のフルサイズ17:9画角RAW撮影においてはいずれのモードも70fps(14.2msec)程度の動作となっている。ローリング速度は極端に速い印象ではなく7K60p撮影に照準を合わせた仕様なのだと推測される。
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なお、今回の撮影では4K120p撮影以外の撮影ではCinema RAW Lightをメインに収録を行っている。RAW収録に関しては別途後述しているのでそちらをご覧いただきたい。
Base ISOはLog/RAW撮影時において800/6400でこの一般的な仕様となっている。これはあくまでシャドーとハイライトのバランスが取れる状態の値であるが、例えば低ゲイン側(Base ISO 800)の設定ではISO100にまで下げることは可能だ。Base ISOよりゲインを下げても総STOP数は維持されるが、標準露出からハイライト飽和までの余裕がなくなることに注意が必要だ。逆に言えばハイライトが飛ばないギリギリの低感度で撮影すればS/Nがより良くより美しいシャドー表現ができる。このことは高ゲイン側の撮影でも同じことが言え、高感度側のISO感度はISO800まで下げることができる。
多彩なコーデック
EOS C50の記録可能なフォーマットは多岐にわたる。
基本はRAWコーデックのCinema RAW Light、MXFベースのXF-AVC(H.264)、MP4ベースのXF-AVC S(H.264)、XF-HEVC S(H.265)の4択。 MP4ベースの二つはクロマサブサンプリングとビット深度の組み合わせで分岐される。下表はオープンゲート記録を除くフルサイズ時の4K以上の記録方式(ビットレート)をまとめたものである。
Intra-Frame記録が可能であり、さらに記録ビットレートが選択できる。ビットレートが一番低いコーデックはXF-HEVC S 420 8bitで4K記録の場合60pでは150Mbps、30p/24p記録の場合は100Mbpsとなっている。
同様にSuper 35mm記録の場合は下表となる。XF-AVC/XF-AVC S/XF-HEVC S記録の部分に違いはないが、RAW記録の場合RAW ST/RAW LTでは一部の記録方式ではSDカードへの記録が可能となる。
ご存知のようにSDカード(UHS-II)はその規格上720Mbpsの最低速度保証が可能(V90カード使用時)である。一方で、C50ではRAW撮影においてRAW ST 5K 24pとRAW LT 5K 30p/24pではいずれも600Mbps以下となる。この点においてダブルスロット記録が可能になっている点は非常に手厚い対応と言える。
そのほか、EOS C50の記録フォーマット仕様およびXF-HEVC S/XF-AVC Sに関する解説は別途キヤノンの公式サイトを参照いただきたい。
オープンゲート撮影
オープンゲート撮影ではRAWの場合(RAW ST/RAW LT)6960×4640、XF-HEVC S 422 10bit、XF-HEVC S 420 10bitで6912×4608の解像度(3:2アスペクト比)で30p/24p記録が可能だ。オープンゲート撮影はアナモフィックレンズでの撮影に適したものだが、近年の縦動画のニーズにも対応するものだ。通常の16:9/17:9に比べて縦長のアスペクトに切り出しやすいためポスト処理での縦動画を作りやすい。
オープンゲート撮影においても高解像度の内部RAW記録が可能となっており、これはEOS C50のアドバンテージと言える。
高解像度7KによるRAW撮影
EOS C50は17:9画角撮影ではRAW撮影の場合7K解像度記録ができる(Cinema RAW Light 12bit)。フレームレートも60pに対応しておりスロー動画でのポスト処理を想定した撮影も可能だ(3:2画角でも30pまでであればRAW収録が可能)。
作例では4K120p以外の部分でこのRAWコーデック(解像度:6960×3672)を多用して撮影を試みた。
Cinema RAW Lightの良いところは比較的容量を抑えたRAW収録ができるところにある。たとえば7K30p(12bit)のRAWは本来、非圧縮データであれば約9200Mbpsものデータレートを必要とするが、Cinema RAW LightのRAW HQであれば1/3以下に、RAW STであれば1/6以下に、RAW LTであれば約1/10のサイズにそれぞれ圧縮して記録できる。
極端なグレーディングをしたり、極端に空間周波数が高い映像を撮影しない限り、RAW LTでも十分な画質を体感することができる。例えばドキュメンタリーやインタビューなどで長時間のRAW撮影を行う際に(RAWとしては)低ビットレートが選択できるのは便利だ。
そして何より便利なのは撮影後のホワイトバランス、露出の調整が高精度でできることである。撮影時に露出の設定を疎かにするべきではないが、撮影後の露出補正の精度は通常のH.264/H.265コーデックの比ではない。
EOS C50のRAW収録は、シャドーに隠れているデータをあぶり出すような、一見無謀なカラーグレーディングを行ってもその期待に応えてくれるものだ。
Cinema RAW Light 編集のPC上での負荷
今回の作例は、60pまではCinema RAW Lightで収録した。RAWは容量が大きく、編集が極端に重いという印象を持たれがちだ。たしかに大容量ストレージは必要で、H.264/H.265よりもハードウェア要件は上がる。それでも実際の現像/編集は、想像より軽い場合が多い。
筆者の編集環境はMac Studio(M2 Max メインメモリ32GB)とMacBook Pro M4(メインメモリ 16GB)でいずれも最低構成のいわゆる「吊るしモデル」で、特に後者は決して強力なマシンではない。
ここでは、これらを使った再生、書き出しパフォーマンスについて述べておきたい。
まずはMacBook Pro M4での再生パフォーマンスだが、DaVinci Resolve 20.2を4Kタイムラインに乗せ、カラーサイエンス:DaVinci YRGB Color Managedを指定しSDR Rec.709の色域/タイムライン再生解像度1/2で再生した。この状態では29.97fpsで再生できることを確認している。
なお、露出調整、ホワイトバランスなどのRAWパラメータを変更し書き出しを行った際の書き出し速度はH.265による4K出力時は10fps程度、時間的+空間的なノイズリダクションを適用した際の書き出し速度は7fps程度だった。
一方で、Mac Studioでの再生はタイムライン再生解像度:フルで29.97fps再生が可能。露出調整、ホワイトバランスなどのRAWパラメータを変更し書き出しを行った際の書き出し速度はH.265による4K出力時は35fps程度、時間的+空間的なノイズリダクションを適用した際の書き出し速度は23fps程度だった。
ノートPCでの作業はやや負荷はかかるが、Mac Studioなどのコア数が多いプロセッサの場合は標準スペックだとしてもCinema RAW Lightでも十分運用ができる。
2スロット記録機能
EOS C50は2スロットでの機能が非常に充実している。ダブルスロット記録やリレー記録はもとより、CFexpressでの記録に対してSDカード側で異なるコーデックを指定して記録する機能も可能だ(メインのコーデックの設定による制限はある)。
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特に面白いのは、CFexpressでの記録に対してSDカード側で異なる縦位置でクロップして記録する機能だ。近年の縦動画の需要は非常に高まっているが、EOS C50では横位置撮影と同時に縦動画の撮影も可能となっている。
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高フレームレート撮影
EOS C50では通常撮影モードではオーバーサンプリングによる4K60p撮影はもとより、7K解像度での60p撮影までが可能だ。また、Slow & Fastモーション撮影では120pが4K解像度で記録できる。
筆者的にはEOS C50発表当初より、この4K120pの画質に着目していた。そのため解像度チャートでの画質を評価した。60p〜24pまではRAW撮影の結果、非常に高い解像度で撮影できている。一方で4K120pはその解像度は落ちる結果となった。
実際にこの4K120p解像度での撮影は作例でも行っている。解像感が落ちる点は若干残念であるものの、その画質は高い質感を維持しており、動きのある被写体ではこのモードで非常に印象的なカットを撮影することができる。また、4K120p撮影でもクロップ率が変化しない点はありがたい。
EOS C50実機インプレッション:EOS C50のAF、肌再現性、高感度性能を深掘り
次に、実際にフィールドでカメラを運用して感じたインプレッションを紹介しよう。特に、撮影者の意図を汲み取るかのような自然なAF性能、ポートレート撮影で際立つ肌の再現性、そして高画素センサーとは思えない優れた高感度耐性について、作例を交えながら深く掘り下げていく。
一言で言えば、このカメラは小型カメラとして最高クラスの動画画質を提供してくれるカメラだ。EOS C50を使った感想を述べたい。
自然なオートフォーカス
思えば、ラージセンサーでオートフォーカスを使用した撮影を提唱したのはCINEMA EOSが初めてだったように思う。今では誰もが当たり前に使うようになったラージセンサーにおけるオートフォーカス撮影だが、その昔はマニュアル撮影が当たり前だった。
その歴史を変えたのは2014年のEOS C100 Mark IIのDual Pixel CMOS AF(DPAF)の搭載に遡る。この機種以降CINEMA EOSはDPAFを搭載し続け、他社がその後を追う形となりやがて一部の制作用のカメラ以外はオートフォーカスでの機能実装が当たり前の時代になった。制作用カメラにオートフォーカスを使用した撮影文化を作り出したキヤノンはオートフォーカス動作をより撮影するもの、見るものにより自然に見える形で進化させてきている。
未来永劫、100%撮影者を満足させるオートフォーカス動作は存在し得ないと思う筆者だが、たとえピントを外したとしても自然に見えるリカバリーは見るものにとって何ら違和感を感じさせないほどに洗練されている。
またオートフォーカスのイーズ(S字カーブを描くようなピント付近で速度が緩やかになる動作)も非常に印象が良い。YouTube動画に見られるようなビシビシっと合うオートフォーカスとは質が異なる。長年キヤノンが培ってきたオートフォーカス技術を感じさせるものだ。
スキントーンの美しさ
筆者はデジタル一眼レフ時代にEOS 5D、5D Mark IIIを使用していたときに、そのスキントーンの再現性とその美しさに魅せられていた。多くのカメラマンが昔から異口同音に語っているが、キヤノンのスキントーンの発色はやはり美しい。
忠実な色再現で、ハイライトからシャドーにかけて色相が回ることなくうまく繋がるスキントーンはカラーコレクションの必要性を感じさせないほどに美しい。
筆者が初めて手にしたフルサイズの一眼レフEOS 5Dを手にした時にスキントーンの美しさに驚いたものだが、常にキヤノンのカメラは安定して人物撮影ができる安心感がある。
前述の作例の2つ目に関するものだが、LogやRAWで撮影し、そのままRec.709に変換するだけで驚くほど美しいものだ。
高い高感度耐性と好ましいノイズ感
EOS C50の特徴のひとつは高い高感度性能にあると感じる。C50は7Kという比較的高画素機の部類に入るセンサーでありながら、非常に高感度設定時のノイズの少なさが印象的だ。無論、ノイズが乗らないというわけではないのだが、先にも書いたようにディテールの残り方、ノイズ粒子の形状が非常に好ましい傾向にあるのだ。
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高感度撮影の場合、ノイズが出るのは致し方ないのだが、問題はそのノイズの形状である。多くのカメラを使ってきたが、塊上やワーム状に出るノイズ、ハンチング的に出るノイズはノイズリダクションを実行したときに解像感を保つことはできない。
EOS C50のノイズが好ましいのは細かい粒状のノイズである点である。高ビットレートでの再生が許される場であれば、高感度撮影の映像であってもそのままでも構わないくらいに自然なノイズ感である。また、YouTubeなどの低ビットレートで共有するのであればノイズリダクションは少し強めに適用した方が良いが、EOS C50はノイズの細かさからノイズリダクション実施時にはディテールを残したままノイズを取り除くことができる。
先に紹介した航空機の作例ではかなり暗い状況下での撮影を行っているが、それでも機体の状況がはっきりわかるほどに美しく描写されていることがお分かりかと思う。
バッテリーの持ち
バッテリーの持ちは例えば一本でXF-AVC 4K60p 422 10bit Intra設定での連続記録時間は60分と決して優秀なスタミナ性能があるわけではないが、その分コンパクトな利点があると言える。よってバッテリーのみで一日中撮影をするという場合はそれなりの本数のバッテリーを持ち歩く必要がある。実際に一日撮影した際には、バッテリーは予備のものを2本を用意したのだが、移動時にモバイルバッテリーによるPD充電/給電を行ったため、実際にはバッテリーを全て使い切ることはなかった。

電子手ブレ補正
一般に電子手ブレ補正は1フレーム内でブラーとして映ってしまう細かい(高周波振動)ブレを補正することは原理的に不可能であるため、電子手ブレ補正には限界がある。これらを補正するのに有効なのは本来はボディ内手ブレ補正なのだが、残念ながらEOS C50には搭載されていない。
そこで1フレーム内のブレを抑える機構として有効なのがレンズ内ISを搭載した協調制御である。レンズ内手ブレ補正は電子手ブレ補正で吸収できないブレに対応することができる。逆にレンズ内ISはレンズを中心とした同心円状の回転ブレは抑えることはできないが、同心円状の回転ブレは手持ちの特性上比較的低速であるため、その補正は電子手ブレ補正で十分な効力を発揮する。
EOS C50で手持ち撮影を行う場合においてはこれらを理解して撮影すると、より品質の高い映像が得られるように思う。
なお、2つ目の作例は全て手持ち撮影で行っているが、ポストスタビライザーは使わずに制作した映像だ。スローを多用した映像のためそもそもブレが感じにくい映像なのだが、電子手ブレ補正との併用で比較的ラフな手持ちのカメラワークは可能である。
そもそも、それを可能にしているのが、適度なボディ形状としっかりとホールドできるグリップだろう。
ラフに手持ち撮影をする場合はレンズ手ブレ補正が内蔵されたレンズと電子手ブレ補正の併用が前提となる。逆に考えると、このEOS C50は手持ちでRun&Gun Shootでガンガンに撮るというよりも、三脚やジンバルを併用してクオリティの高い映像を撮るための道具としての特性が強いと思う。
撮れ高を上げるための設定
前述のようにEOS C50はじっくりと腰を据えて撮影するスタイルが本来は合っているカメラだと思う。その思想はユーザープリセットを持たせていないメニュー構造にも現れていると感じた。言い換えるとEOS C50は複雑に異なる複数の撮影セットを保存し、一発で呼び出すようなシステムにはなっていない(設定を本体、SDカードに一つずつ保存し設定を切り替える方法はある)。
つまりEOS C50は同一設定でじっくり撮影をするという使い方に非常に向いているカメラだと感じた。筆者の場合は撮影時に設定を頻繁に変更する撮影スタイルをとっているため、EOS C50のカスタマイズには少し時間をかけた。
自由度の高いカスタムボタン設定と、あらゆるメニューが登録できるマイメニューをセットすることで手数の少ない操作で設定変更を都度行うことで撮れ高を上げる撮影手法を取った。
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まとめ:EOS C50がもたらす映像制作の新たな価値
ミラーレス一眼で普段動画撮影するカメラマンにとってEOS C50はその価格設定から考えて、誰もが趣味のために気軽に導入できるカメラではないかもしれない。ボディ内手ブレ補正がない点を含めて導入を躊躇する人もいるだろう。だがそれはあくまでミラーレス一眼で動画を撮るという範疇においての話だ。このEOS C50は上位のシネマカメラの流れを汲むミラーレスカメラスタイルのシネマカメラであり、ミラーレスカメラの延長上にあるカメラではないという印象を強く受ける。
メニュー構造であったり、熱停止対策のための空冷ファン、ダブルスロットを使った様々な記録の自由度の高さ、多くのボタンとそのカスタマイズ性などEOS C50には業務での使用を想定したいくつもの特徴がある。ズームレバーも本体とハンドルでその速度を別で設定できる点なども強く業務を意識した仕様だ。そうした使い勝手の良さは業務でカメラを使う人にとって心強い部分だろう。
EOS C50はその業務的な仕様に目を奪われがちだが、個人的にはこのカメラはその画質にこそ価値があると思う。この画素クラスでこの画質を実現しているカメラはほぼないからだ。その画質の良さを文章で表現するのは難しいが、一度EOS C50のRAWフッテージをグレーディングすればその素材の素性の良さはすぐ理解できると思う。画質にこだわる人にぜひ一度試してもらいたいカメラだ。
SUMIZOON|プロフィール
2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行う。機材メーカーへの映像提供、レビュー執筆等。現在YouTube「STUDIO SUMIZOON」チャンネル登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰。「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。
