1990年代後半から大型街頭ディスプレイの設置が進み、大都市圏の駅前や交差点、大型量販店の壁面などで影像が流されることは珍しいものではなくなった。それだけでなく、この数年は、量販店やスーパーの物販コーナー、駅構内広告スペース、公共施設、電車やタクシーといった交通機関、ビルのエレベーターホールやエレベーター内など、あらゆる分野にデジタルサイネージの利用が拡大してきている。その大きさも、手のひらサイズから街頭大型ディスプレイパネルまでさまざまだ。
IMC Tokyo 2008で提案されたデジタルサイネージの利用例。(上)パナソニック (中)エヌジーシー (下)テクノハウス IMC Tokyo 2008で提案されたデジタルサイネージの利用例。(上)パナソニック (中)エヌジーシー (下)テクノハウス |
サイネージの急速な広がりとともに、サイネージシステムもさまざまなものが提案されるようになってきた。2月末には米ラスベガスでDIGITAL SIGNAGE EXPOが開催されたほか、3月3日から東京ビッグサイトで開催されているリテールテック JAPAN 2009でもデジタルサイネージのコーナーが設けられている。毎年6月に幕張メッセで開催されているIMC Tokyoにおいても、昨年はデジタルサイネージジャパンPreviewエリアが設けられ、今年からデジタルサイネージジャパンとして独立、IMC TOKYOの併催イベントとなる。
テレビや新聞、Webといった既存メディアを使った、視聴率・バナークリックによる広告モデルは一段落し、より利用者のニーズに直結する広告制作が求められている。この傾向は、世界同時不況が進行した昨年秋以降、より加速してきているようだ。デジタルサイネージを使用したマーケティングでは、コンテンツ内容次第で売上が平均で3割、多いものでは3倍にというように、着実に売上が伸びる販促効果があると分かってきたことも、デジタルサイネージの利用に拍車をかけている。
デジタルサイネージ用のコンテンツは、見る人に分かりやすく伝えるために、テキスト・CG・映像を組み合わせたものとなっている。今後のデジタルサイネージコンテンツ制作への期待は大きい。しかし、こうした期待感とは裏腹に、サイネージの制作手法やサービスの導入についてはまだまだ知られていないことも多い。それだけ自由度が高いメディアということもできるが、制作にとりかかりにくいとも言えまいか。現在のデジタルサイネージは、ポスター広告を電子化して、さらに簡単なトランジション効果をつけたものが多いようだ。こうしたデジタルサイネージの表現手法についてデジタルサイネージコンソーシアムの江口靖二氏は、「人が見ている風景は動画として認識している。その動画に、パッと切り替わる静止画などの動画の動きとは異質なものがあると、視線が引き付けられる。動画の風景の中に、単に動画を置いただけでは目立たない可能性がある」と指摘している。
デジタルサイネージの利用例。(左)ソニー (右)Inter BEE 2008でのトムソン・カノープス デジタルサイネージの利用例。(左)ソニー (右)Inter BEE 2008でのトムソン・カノープス |
確かに、動画のなかにある静止画には引き寄せられるものがある。しかし、サイネージ環境が進んで、静止画が溢れ返ってしまった時には、街中の看板と同じように見えてしまうのかもしれない。まだまだ動画にも可能性が残されている。各社のHDディスプレイを中心にサイネージ環境が構築されている現状では、テレビの規格に縛られるものともなりかねないが、本来のサイネージ環境はパネルの形状や面数に縛られるものでもない。むしろ、空間のなかで、どこに静止画を配置して、どこに影像を流すか──。空間設計も含めたデザインが求められていくようになりそうだ。これは空間全体がディスプレイになるという感覚だ。ディスプレイ形状が、単なる表示の部品として扱われるようになったとき、その可能性は無限に広がっていきそうだ。
デジタルサイネージソリューションを展開している会社は、ディスプレイメーカーを中心に動いている。今回の特集では、デジタルサイネージコンソーシアムの取り組みを紹介するとともに、プロ向け映像制作ソリューションを持つ、読者のみなさんには馴染み深い会社から、ディスプレイを持つメーカー、持たないメーカーを組み合わせて紹介することにした。さらに、連動コラムとして、江口靖二氏によるコラム「新・デジタルサイネージ入門」を昨日掲載した。今週末と来週には、安藤幸央氏が2009 International CESを取材した際に感じた「ラスベガスのサイネージ事情」や、江口氏が取材したDIGITAL SIGNAGE EXPOの現地レポートなども併せて掲載していく。サイネージメディアの広がりと可能性の一端を知ってもらいたい。