今月はデジタルサイネージに焦点を当てて、特集を組んできた。その取材の折々で聞かれたのは、Flashコンテンツもデジタルサイネージの素材として利用が進み始めているという実態だった。1月29、30日にアドビ システムズが開催した有料カンファレンスイベントAdobe MAX Japan 2009においても、Webを越えたインタラクティブツールとしてのFlashを感じさせるセッションも行われていた。フルHD動画の取り扱いなどWeb機能やサーバ機能の強化の先に見えてくるのは、もはやFlashはWebアニメーションという領域を越え、ハイビジョンテレビやデジタルサイネージも含めた、インタラクティブ性を追加可能な映像制作ツールとして進化を遂げてきているということではないのだろうか。
アドビ システムズのマーケティング本部クリエイティブソリューション部Webグループの西村真里子氏は、デジタルサイネージにも含めたFlashの取り組みについて次のように話した。
「90年代からFlashで制作してきた人たちにとっては、Webブラウザという枠のなかでFlashは完成したものと思っており、広告やコンテンツの新たに発表する場所として、ブラウザを越えたところで行いたいという欲求があります。広告媒体としても、ユーザーがインターネットやモバイルで情報を得ることを知っている現在、場所や時間帯でコンテンツを変えていく必要があると感じてるのは事実でしょう。デジタルサイネージが注目されている理由の1つでもあります。アドビは、コンテンツを作ってしまえば、どのような解像度であっても、どんな再生環境であったとしても、Flash環境さえあれば表示できるというOpen Screen Projectという方針を打ち出しています」
米Adobe Systemsが2008年5月1日に発表したOpen Screen Projectは、テクノロジー関連企業やコンテンツ関連企業とともに一丸となって、テレビ、PC、携帯端末、コンシューマー電子デバイスなどで、Flash技術をベースにしたリッチインターネット体験を拡大させようとする取り組みだ。アドビが継続的に掲げている「Webにおける革新の実現」という目標に向かって、Flashテクノロジーをよりオープンなものとするために、SWFとFLV/F4Vフォーマットの使用に関する規制を廃止したり、Adobe Flash Playerとデバイス向けAdobe AIRをライセンスフリー化した。今年に入って1月23日には、Flashプラトフォームテクノロジーを採用した機器間でオーディオ、ビデオ、データを高速で伝送するために開発された伝送プロトコルReal-Time Messaging Protocol(RTMP)の仕様を2009年上半期に公開する方針も明らかにしている。
「Flashは、ディスプレイに応じて表示も変えられるというメリットがあります。Flash技術を使っていれば、小さいディスプレイでも大きな街頭ビジョンであっても表示できるというメリットがあります。コンテンツ配信の効率化とコンテンツのマルチユースが可能になるので、後は、どういうコンテンツを作るかということになりますよね。本社に問い合わせてみましたが、米国ではデジタルサイネージに利用したいという問い合わせはあまり入っていないという状況とのことです。もしかしたら、ネットワークを使用して場所と時間に応じて内容を変更するFlashコンテンツのデジタルサイネージへの応用は、日本が先に進むのではないかと期待しています」(西村氏)
ソフトウェア開発会社であるアドビは、ハードウェアがあってそこに埋め込むコンテンツという視点ではなく、Flashという汎用性を持たせた技術で、コンテンツ制作部分から新たな映像表現を拡大させていこうとしている。
ディスプレイ形状を越え、インタラクティブ性を追加できるFlash
Flashによるデジタルサイネージ利用している表参道ヒルズ
システム開発を行ったユナイテッドデザインのコメント:「当社は、SI部分(FLASHコーディングとCMS構築)を担当しました。FLASHは、インテグレーションが容易なため、数社にて別々に制作された時計アプリやテンプレートなどを、既存の映像配信CMSへ統合する構造を採用しました。FLASHのメリットは、WEBデザインの要領で高品質なサイネージを制作でき、ブログや表計算ソフトと連動しリアルタイムな情報配信も展開可能なことです」
Flashによるデジタルサイネージ利用している表参道ヒルズ
システム開発を行ったユナイテッドデザインのコメント:「当社は、SI部分(FLASHコーディングとCMS構築)を担当しました。FLASHは、インテグレーションが容易なため、数社にて別々に制作された時計アプリやテンプレートなどを、既存の映像配信CMSへ統合する構造を採用しました。FLASHのメリットは、WEBデザインの要領で高品質なサイネージを制作でき、ブログや表計算ソフトと連動しリアルタイムな情報配信も展開可能なことです」
すでに、Flashを素材としてではなく、デジタルサイネージの運用に使用している事例も出始めてきているようだ。東京・表参道ヒルズのデジタルサイネージ(システム開発:ユナイテッドデザインフィルムス)や、2008年11月に札幌・さっぽろ地下街「冬のチカコレクション」で使われたインタラクティブデジタルサイネージ(制作:リアクター)などは、Flashコンテンツで利用されている事例だという。店舗案内のケースでは、通常の案内マップでは、店舗が変わるたびにパネルを作り直したり上からシールを貼ったりということが行われていることが多いが、Flashを使用することで、情報の入れ替えを随時、自由にに行えるようになるようなフレキシビリティも得ることができたという。
さっぽろ地下街で2008年11月に利用されたインタラクティブデジタルサイネージ「Flash & Ubiq’Window」制作したリアクターのコメント:「当社は、映像、WEB、インタラクティブデジタルサイネージ、VJや映像空間プロデュース、アニメーション、モーショングラフィックスなどを、Adobeツールを使用して制作しています。さっぽろ地下街では、2008年11月の「冬のチカコレクション」において、新しいウインドウショッピングを体験してもらいながら、セールに結びつけるための新しい広告ツールとして、インタラクティブデジタルサイネージ「Flash & Ubiq’Window」を採用いただきました。そこでは自分のお気に入りのコーディネートやファッションアイテムを操作しながら探せるのが面白い、見つけたファッションアイテムがどこで売っているのかMAP表示で分かりやすいといった反応を頂きました。ポスターなどの印刷物に比べ、明らかに長く立ち止まらせ、操作させることで印象を強く残すことに成功しました」
「ある大手商業施設では、店舗で顧客の情報に合わせて内容を変更したり、集客状況に合わせて変更するといった取り組みも行われてきており、Flash利用が広がってきていると感じています。Flashはコンテンツ制作もしやすく、人の状況や、場所、時間に応じてコンテンツを変更していくという、同じものを万人にというテレビCMとは違う広告効果を作りやすいのではないでしょうか。さらに、Flashであれば、マップや情報カタログのようにインタラクティブ性を持たせることも可能であり、Web制作者がデジタルサイネージ制作にも取り組みやすい状況もあります」(西村氏)
形に捕われない表示という意味では、ジークスが日本の正規代理店として展開しているchumby事業にも注目していると、西村氏は話した。chumbyは、無線LANを内蔵した多機能デジタルウィジェットプレーヤーで、Linux OS上でFlash Liteプラットフォームを採用し、自由にウィジェットを追加して楽しめる小型表示デバイスになっている。現在はテレビ状の縫いぐるみにタッチパネルをつけた形状をしているので、テレビの延長線上で映像コンテンツを表示させて楽しむデバイスと見れなくもない。しかし、Flash Liteにより、インタラクティブ性をもったコンテンツを追加できる表示デバイスであり、コンテンツを開発し、Webサイト上で公開することも可能という点では、単なるプレーヤーの域を越えたデバイスともいえる。
「chumbyは、外側の形状を変えながらも、タッチパネルディスプレイによるインタフェースを有効に活用していこうという考えです。こうしたウィジェットによる機能追加などは、今後のデジタルサイネージのアプローチの1つになるのではと考えています。Flashでは、H.264などの高精細なビデオも扱えるようになりました。映像制作をしている人に対しては、テレビやスクリーン、あるいはブラウザでのストリーミングという形だけでなく、もっと幅広いデバイスで作品を見せられるようになってきているということを知ってもらいたいですね。プロモーションでの利用など、活用範囲が広がっていくはずですから」(西村氏)