最大4Kフォーマットを実現し、シネマカメラの機能を踏襲したRED ONE。その利用方法は幅広く、ポストプロにおいても、さまざまな環境に対応して制作が行える。RED ONEの特徴を生かしたワークフローをいくつか紹介していこう。

フィルムカメラのデジタル化を目指したRED ONE

redone_1.jpg

RED ONEをカメラとして捉えた時、ビデオカメラと言うよりはフィルムカメラに近いと考えてよいだろう。ビデオカメラマンが利用できないという事ではないが、フィルムカメラの特徴を把握して利用すると、より豊かな映像表現を得る事ができる。例えばレンズのチョイス。RED ONEでは一般的にPLマウント対応のシネレンズを利用するが、フィルムカメラに馴れたカメラマンであれば、レンズにおける特性の知識をそのまま活かして収録する事ができる。

しかし予算にシネレンズを加える事ができないこともあるだろう。そのためにREDではニコンレンズやキヤノンEFレンズを取り付ける事のできるレンズマウントを用意している。これにより、35mm一眼レフレンズの被写界深度や光学品位を活かした撮影を安価に行うことができる。B4レンズアダプターを使えば、B4マウントのレンズも利用できるため、ビデオカメラマンが馴れたレンズでRED ONEを使って撮影することもできる。つまりビデオカメラマンにとっては、RED ONEはP2 HDやCine Altaがより発展した物だと考えれば分かりやすい。

筆者は、Hi8、DV(XL1)、HVR-FX1という順番でビデオ制作の質を上げていった。映像表現を使いこなしていく段階で、ハイスピードや映像フォーマット自体の選択という面で、自分のやりたい事はビデオではなく、映画なのではと思い出した。パナソニックがAG-HVX200を発売した頃だったが、ビデオカメラでシネマ制作を意識したフォーマットや機能を使って映像制作をしてみると、やはりその方向が適していると分かった。ビデオカメラをシネマ制作に利用していた先駆者達は、空間表現に於いてもフィルムカメラの世界を欲するため、そこから各種35mmレンズアダプターが生まれてきた。ビデオカメラの模擬的な対応よりも、抜本的にフィルムカメラのデジタル化が可能ならということから開発されたのが、RED ONEなのだ。

データバックアップを確実にとろう

RED ONEの制作ワークフローは、全体的なシステムとしての理解を深めておくと、より効率よく、かつ高品質な映像を制作できる。特にRED ONEは、RAW記録(撮像素子が写したままの映像)に、ルックなどを決めるメタデータを一緒に記録するため、その理解が一番必要だ。RAWデータは12bit相当のデータで、一般的なビデオ界には存在しないデータ量である。このRAWデータを”視る”時は、そのステージによって必要な品質や形態を柔軟に選択できるようになっている。ここがビデオカメラやデジタル一眼でのムービー記録と一線を画す部分である。

撮影時には、RED ONE本体がRAWデータを再生する段階で、メタデータ部分の設定を介して提供してくれる。ここで色温度、感度などのメタデータを決めておけば、カメラを使ったモニタリング(ビジコン)、撮影後の再生(監督確認、クライアントビュー)だけでなく、その後のポストプロダクションにおいても、効率よく、かつ撮影監督が欲した映像で素材を見たり編集したりする事ができる。しかし、(ここがポイントになるのだが、)RED ONEはRAW形式で記録しているので、撮影時に決めたメタデータの設定に捕われる必要も”実は無い”のだ。

撮影を終えたら、あるいは撮影中に、撮済みの素材ファイルは確実にバックアップしよう。これは手軽だからといって馬鹿にしてはいけない。テープを扱うよりも慎重に扱う必要がある。バックアップに利用するハードディスクは、必ずメディアチェックをしたものにしよう。メディア不良でコピーした先でファイルが働かないこともあるからだ。筆者の場合、コピー形式も、単にドラッグ&コピーではなく、MD5チェックサムを利用した方法や、カーボンコピーを使う方式にしている。特に長尺の撮影をしたファイルには気を遣っている。

ブック型コンピュータなどを現場で利用する際は、設置する場所にも気をつける様にしたい。電源を安定させたいという思いから、ジェネレータから電源を取りジェネレータの横で作業をしていたら、コピーがちゃんとできなかったというレポートも聞いた事がある。電気的ノイズや、温度、湿度などの問題が無い場所でコピーするようにしよう。普段あまり気にしないで利用しているFirewireやUSBのケーブルでも、ノイズが乗ってしまうこともある。接続部分が摩耗して接触不良になっていることもある。メディア類の定期的な検査は、必ず行っておこう。

現像処理が必要なポストプロダクション

撮済みのバックアップをハードディスクなどで受け取ったら、まず編集する環境にワークコピーを作ろう。受け取ったハードディスクを使って直接読み取ってもいいが、これがマスターコピーである場合は、ワークコピーを作った方が安全だ。

ワークコピーを作ったら、そこからすぐに編集が可能だ。よく「変換しないと編集できないんですか?」という質問を受ける事があるが、それはRED ONEに対応していない環境で編集する場合の話だ。編集システムさえ対応していれば、撮済みの素材ファイル、即ちR3Dファイルはすぐに編集が可能だ。編集している状況に応じて品質やリアルタイム性を変えられるため、通常のオフライン/オンライン的なくくりでは表現しきれない。

R3Dファイルを使って編集する段階で、ネイティブで記録されたRAW素材に対し、解像度(現在の上限はもちろん4Kだ)や色処理、メタデータなどを任意に設定(現像処理)して、非破壊編集が可能である。これを「R3D非破壊編集」と呼んででおくことにしよう。

それでは、編集ワークフローについて、アフォーダブルな環境を中心に紹介していこう。

Final Cut StudioとPremiere Pro

Final Cut Studioでは、Final Cut ProとColorがR3D非破壊編集におおまかに対応している。「おおまか」と書いたのは、Final Cut ProはR3Dネイティブファイルの解像度を下げて編集できるリファレンスファイルを使用したプロキシ編集に対応してはいるが、メタデータにはネイティブ対応していないからである。外部ユーティリティ(Clipfinderなど)を使えば完結可能で、最終的にColorへと編集タイムラインを非破壊で移行できる。このグレーディング専用アプリケーションColorが含まれている事がFinal Cut Studioの最大の特徴だ。最終的に映画を仕上げるには少々窮屈ではあるが、ビデオ映像として仕上げる場合には、Motion、LiveType、Soundtrack ProやDVD Studio Proなどとの連携により、かなり柔軟で豪勢な制作が可能となる。

Adobe Premiere Proは、CS4のアップデートでR3D非破壊編集にフル対応した。そのため、非常にシンプルなワークフローを構築できるようになっている。Apple Final Cut Studioも、今後のバージョンアップでフル非破壊編集に対応になると予想されるが、現時点ではAdobe Systemsの対応の良さに水をあけられた感はある。

Final Cut StudioとPremiere Proの実際の編集環境を比べると、それぞれに利点が有り、かつ不都合もあるというのが筆者の感想だ。筆者お薦めのワークフローは以下の通りだ。

●Final Cut Studioの場合

ClipFinder.jpg

マトロックスのMXOを使用し、Clipfinderをマスモニ出力して確認

1)先ずClipfinderで素材を読み込む。
2)Clipfinder上でグッドクリップを探す。
3)Final Cut ProのビンウインドウにGoodクリップをドラッグ&コピーする。
4)編集する。
5)色設定が気になるクリップは、Clipfinder上でそのクリップのメタデータを調整し、ルックを保存する。

その後Colorを直接使う場合(Optical Low Pass Filter無し)
6)編集したタイムラインをColorに送信する。
7)Colorでカラーグレーディングを行う(この時初めてR3Dを本現像する)。

Color.jpg

5の後でOptical Low Pass Filterを施した現像を行う場合
6)編集したタイムラインをXMLで保存する。
7)Monkey ExtractでそのXMLを開き、1080などターゲットのフォーマットに変換する(本現像)。
8)現像結果と現像XMLをFinal Cut Proで読み込む。
9)Colorに送信し、本現像された映像をさらにカラーグレーディングする。

MonkeyExtract.jpg

●Adobe Premiere Proの場合

1)自分が使っているコンピュータでスムースに編集できる解像度を選択し,Adobe Premiere Proで直接R3Dを読み込む。
2)編集時に色調整をしたい場合、素材のメタデータを開き編集する。
3)Premiere Proで利用できるプラグインなども非破壊のまま利用可能。(Final Cut Studioの場合は、非破壊編集に対応していない)
4)ターゲットのフォーマットで出力する。

個人制作から映画制作までワークフローが拡大

デスクトップ編集ソフトウェアでは、Final Cut StudioとPremiere Pro以外にも、Sony CreativeのVegas Pro 9もR3Dに非破壊編集対応をしている。もう少し価格が高くなるが、Assimilate ScratchやScratch Cineが利用できるのであれば、最もネイティブに非破壊編集に対応をしていたりする。

Vegas Pro 9は、きちんとモニタリングしてカラーグレーディングするという作業が、外部環境になってしまうのが難点だ。これはAdobe Premiere Proも同様だが、プラグインで対応できない事もない。Scratchは個人で購入するには高価過ぎる。

ポストプロダクションに目を向ければ、パナソニック映像やオムニバスジャパンの様に、Quantel iQ PabloをアップデートしてR3Dに直接対応したスタジオもある。また映画制作であれば、IMAGICAでは既に2本の劇場公開映画の処理を行っている。RED ONEで撮影した映像は、個人仕上げから映画制作まで幅広く対応できるフォーマットへと成長してきたということが計り知れる。

────

RED Digital Cinemaでは、RED ONEに続くEPICやSCARLETを開発中だ。これらが発売されれば、プライベート(かなり高品位だが)から劇場公開映画まで対応できる幅がさらに広がってくる。ワークフロー的には各編集環境メーカーもさらなる対応をしてくるだろう。

(RED ONE制作スペシャリスト 伊藤 格)