創設者Jim Jannardのクリエイティブ精神が裏付けるREDの魅力
2007年には、実機がお目見え。2006年時とは打って変わって、アップルとのアライアンスも発表され、ブースを見るために2時間待ちという長蛇の列。 |
DSMC(Digitla Stills and Motion Camera)コンセプト。ユニットの組み合わせ方によってはまさに一眼カメラにも…。 |
映像制作業界全体に大きな波紋を投げかけているRED Digital Cinema(以下RED)。この魅力あるクリエイティブ・アイコンの登場は、これまでの業務用、放送用、そして映画用の=プロ仕様=というあまり飾り気のない、機能&スペック重視の…悪く言えば野暮ったいものだった映像制作ツールのイメージを塗り替えた。
目覚ましいスピードで進化を遂げるRED。RED ONEの次にラインナップされるEPICやSCARLETは、ビデオカメラではないという。提案するのが、DSMC(=Digital Stills and Motion Camera)だ。近頃のデジタル一眼で動画も撮れるようになってきたが、そんな自由なアプローチが今映像業界を席捲している。それは、2007年の市場参入以来変わらない時代を変える赤い衝撃にほかならない。
我々の前に初めて姿を現したREDは、その思想だけで、カタチも何もない状態でブースのみNAB2006に出展したのが始まりだ。そのブースでは、1万ドルの予約金を支払うことだけだった。「限りなく商品化は眉唾ものだ!」と多くの映像関係者は思っていた…。
あれから3年。映像カメラの存在だけではなく、その在り方まで変えてしまったREDに我々は魅せられている。何かドキドさせてくれる期待感とともに、新しいデザインスタンダードをもたらした。それは黎明期から拡大期にかけてのApple Macintoshを彷彿させる。すでに世界各国に多くのREDファンを生み出し、魅了し続けているその要因とは一体何なのか?
そこには創業者であるジム・ジャナード(本名:James Henry Jannard)氏が自身の残りの半生を掛けているという、このカメラプロジェクトへの思いと、彼がこれまで追い続けてきた、大いなるクリエイティブ・マインドに由来するようだ。なぜRED ONEのようなカメラが生まれたのか? その辺をジム・ジャナードのマインドを探りながら考えてみたい。
$300で起業したOAKLEY
イチローをはじめ著名人も数多く使用する Oakleyのサングラス ©2009 Oakley, Inc. All Rights Reserved |
デザインとは別に、センサーと光学技術部分を検証中の RED ONE初号機。 |
1999年に設立された、RED Digital Cinema社の創設者であるジム・ジャナード氏は、サングラスやスポーツギアの世界的トップブランド『OAKLEY(オークリー)』の創業者であることは有名だ。マッドサイエンティストの異名を持つジム・ジャナード氏は、1949年6月8日、ロサンゼルス生まれというから、今年6月で61歳になる。
このオークリー社の成功までの道のりは実に興味深い。1975年にわずか300ドルを元手に、水分を吸収することでさらにグリップ力が増すUnobtainium®(アンオブタニウム)という素材でモトクロス用のハンドグリップを開発した。これはライダーがハンドルを握った時の手にぴったりフィットする独特なトレッド(溝形)がついたプロダクトで、特許を取得し、絶大な支持を受ける。また、会社名は、愛犬の名前”Oakley”が由来だ。
その後、モトクロス用ゴーグル開発を経て、80年代にサングラスを主としたアイウェア業界に本格参入する。高い機能性を備えたレンズと斬新で近未来的なデザインによりスポーツサングラスのトップメーカーとしての不動の地位を築いて来た。90年代にはアパレル、フットウェア、リストウォッチ市場へも進出。機能とデザインの双方を融合させたプロダクツは高い評価を受け、米軍特殊部隊のSEALsや、デルタフォースでも正式採用、ブランドアップに更なるパワーを加えた。ここで軍との大きなパイプが出来たことで、実はRED ONEも多く米軍に納入されていると聞く。
しかしオークリーは、単なるファッショングラスブランドではなかった。高度な技術に裏付けされた確かな製品とそれを包み込む、人をワクワクさせるような機能とデザインの融合という、オークリー社で培われてきたメインコンセプトは、そのままREDにも受け継がれている事は言うまでもない。
REDデザインのリソースがここに!
オークリー社のヘッドクォーター『One Icon』 |
デザイン面では、オークリー社のヘッドクォーター『One Icon』のデザインは、まさに映画「ターミネーター」に出て来そうな、メタルゴシック風で、まさにREDカメラの母体となったデザインだと納得できる。ちなみにデザインはオークリー社長でデザイン部門統括のコリン・バーデン氏。REDのデザインにもおそらく彼が関与していることを容易に想像させる。
オークリー社のサイトによれば「Technology Wrapped in Art」(アートによってラッピングされた技術)というメインコンセプトは、まさにREDにも共通する。単なるカッコ良さだけでない、裏付けされた優れた技術がそこにある。
例えば、サングラスにおいて「あらゆる有害要因から眼をプロダクトすること」をテーマに技術開発を続け、全世界で575を超えるパテントを取得している。またこれを実現化するためにひとつの目安を設定している。それは、米国規格協会ANSIが提唱するアイウェアの工業規格ANSI Z87,1であり、高圧衝撃、高速衝撃、光拡散力、不均衡分光、屈折力、非点収差、解像パターン、UVプロテクションテストの、8つの部門によるテストをクリアにする必要がある。
オークリーの製品は、このテストでその基準を倍近く上回る結果を出している。たとえば高速衝撃テストの場合、レンズに向かって直径64mmの鉄球を時速160kmで撃ったとき、鉄球が貫通したりレンズがフレームから外れたりしないことが求められるという。そして何よりも驚かされるのは、オークリーのアイウェアが上記8部門のテストをすべてクリアしているということ。一つのモデルで8部門すべてクリアしているのは、オークリー製品だけだという。
これらの事実から察するに、今後のREDの製品群に装備される品質やその方向性は計り知れないものがある。
いよいよ世界を変える気のJim Jannard!
ジム・ジャナード氏は、2007年11月にレイバンなどを傘下に抱える世界最大の眼鏡メーカーLuxottica Group(ルクソティカ・グループ)に21億ドルでオークリー社を売却している。ジャナード本人は「余生はデジタルカメラビジネスに集中する」と発言している。これまでサイドビジネスだったREDの研究開発とビジネスに集中すると公言しているわけだ。技術とデザイン、その双方を高い次元で集約したオークリーで培ってきた精神や考え方が、RED Digital Cinemaへそのまま受け継がれて行くことは明白で、これからもユーザーに高次元での期待感を与えてくれるに違いないのだ。