オートデスク(東京都中央区)は、5月26日にオートデスクユーザー向けに、27日に映像制作関係者向けに、NAB Showを報告するイベントAutodesk NAB 2009 replayを東京・青山のカナダ大使館B2シアターで開催した。このイベントの後半で、名古屋のプロダクションであるサンデーフォークフロント(名古屋市東区)デジタルタンク事業部映像課のインフェルノアーティストである佐藤和彦 事業部長が登壇。「名古屋におけるREDワークフローの現状と課題」として、RED Digital Cinema製デジタルシネマカメラRED ONEを活用したCM制作ワークフローを解説した。ここでは、このセッションの内容をもとに、CMポスト作業におけるワークフローを紹介しよう。

サンデーフォークフロントのポストプロダクション部門であるDigital TANK!(名古屋市東区)は、オートデスク製フィニッシングシステムinferno、編集システムsmokeのほか、アビッド テクノロジー製編集システムAvid DSやSympony、Media Composer Adrenalineなど、各種システムを活用しながら制作を行っており、常に最新ワークフローを検証しながら制作の効率化を図っていることでも知られている。ポストプロ業務に加え、2008年8月からはレンタル編集室Digital TANK! Factory(以下Factory)も提供し始めている。

Digital TANK!では、RED ONEで収録したCMを昨年から数本制作している。今回、RED ONEの活用にあたり、撮影業務を行っているグラン(名古屋市東区)と協業体勢を採った。佐藤氏は、RED ONEを使用した収録について次のように話した。

「これまでのビデオカメラでは、フィルムカメラのようなイメージサークルは得られないので、被写界深度を生かした撮影はフィルムにはかないませんでした。RED ONEは、4K収録では35mmフィルムカメラと同等の被写界深度でボケ足も奇麗であること、2K収録では120fpsで撮影できることが、とても魅力的でした。ローバジェットの制作でありながらも、どう高品質な映像を生み出すかという部分で苦労していますが、RED ONEの登場で、フィルムのコストをかけずにフィルムと同等のことが出来るようになったと感じました」

2つのビル間を4Gbファイバーで直結

今回、Digital TANK!では、隣接のビルにあるFactoryと連携してRED ONEデータ編集ワークフロー構築した。FactoryにあるクアッドコアIntel Xeonを2基による8コアのMac Proを使用し、REDCINEによりProRes 422素材を作成後にFinal Cut Proでオフライン編集を行い、そのDELデータをもとにDigital TANK!でinfernoやsmokeを使用してフィニッシングを行うというのが、基本的なワークフローだ。

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「RED ONEを活用した制作を始めた昨年、Factoryには、Final Cut Proを中心に導入することが決まっていたので、ここでオフライン編集をすることにしました。オフライン編集後に、Digital TANK!のInferno、Smokeへどうやってオフラインデータを送るか、さらに大容量となる10bitの4K解像度DPX連番ファイルをどう扱うのかが課題となりました。そこで、Digital TANK!とFactoryは隣接していることを生かし、双方のビルオーナーの許可を得て壁面工事を行い、4Gbファイバーチャネルで編集環境をダイレクトに接続し、SANベースのメディア共有ディスクTERRABLOCKを設置しました」(佐藤氏)

2拠点が隣接しているとはいえ、HDDを手持ちで運ぶリスクや、作業効率性を考慮すればネットワーク接続は不可欠だったと佐藤氏は話す。このTERRABLOCKに、R3Dファイル、ProRes422素材、DPX素材など編集作業に必要な素材をすべて格納することで、Digital TANK!とFactoryでのデータ連携をスムースにしているというわけだ。データ消失を避けるために、収録時に現場でHDDにデータコピーしてもらいポストプロ用のマスターデータとし、このHDDのデータをTERRABLOCKのディスクにコピーして作業用に使用している。

Final Cut Proでは、リファレンスファイルを使用してオフライン編集を行い、Inferno用にEDLファイルを書き出し、Infernoで扱うDPXファイル生成を行うREDCINE用にXMLファイルを書き出している。Final Cut Proが書き出したXMLファイルをREDCINEで読めるようにするために変換ソフトウェアのCrimsonを使用している。Crimsonで変換したXMLファイルを基にして、REDCINEでR3DファイルからDPX連番ファイルを作成し、これをInfernoで使用していたわけだ。

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このベースとなるワークフローを、より効率的にスムース運用するためには、撮影現場のカメラマンの意図をより反映させやすくする必要が生じた。

「名古屋という地域性もあって、オンライン/フィニッシング段階で、カメラマンに東京や大阪から確認のために何度も足を運んでもらうというわけにはいきません。そこで、色味を最低限確認できるようなDPXファイルを現場で作ってしまおうと考えました」(佐藤氏)

撮影時の1stグレーディングで撮影意図を残す

撮影現場でセンサーのREDCODE RAWを出力すると、中間調しかない暗い画面となるため、制作会社や広告代理店、クライアントが確認できるマスターモニター出力も必要になったという。

「フィルムであればテレシネの段階で1stカラーグレーディングをしているので、オフライン編集段階でも最終段階に近い色味を見せることができます。しかし、REDワークフローはオフライン編集段階ではカメラで設定したガンマカーブだけが反映されたものであり、Final Cut Proでカラーコレクションをしても、最終段階に反映されるとは言い切れないんです」(佐藤氏)

そこで、MacBook ProにREDCINEとオートデスクのCombustionをインストールして持ち込み、R3Dファイルの現像処理と1stグレーディングを行って、マスターモニターに出力した。このCombustionによるカラーコレクションデータを、Digital TANK!のinfernoで使用して撮影現場の意図を反映させている。FactoryでのFinal Cut Proによるオフライン編集時にはカラーコレクションは反映されないが、別のCombustionを用意して色味を確認しながら作業をすることで、オフライン編集段階でもプレビューを可能にした。

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R3Dファイルを直接扱うことで柔軟なフローに

今春、オートデスクの各製品がR3Dファイルへの対応が進んだことで、オートデスクのメディアエンコードソフトウェアWiretapCentralを使用してR3Dファイルの現像・カラーグレーディングを行うことが可能になった。今後は、CrimsonによるXML変換とREDCINEによるDPX書き出し部分がなくなって、よりスムースなワークフローになる。

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「変換する段階が多くなると、変換する時間もかかるため、クライアントが立ち会っているオンライン/フィニッシング段階ではパラメータを変更して変換し直すということは難しかったのです。InfernoからWiretapCentralをつかえるということは、R3Dファイル本来のデータを有効に扱えるようになり、ワークフローがより柔軟に構築できると思います。変換には多少時間がかかりますが、Burnを使えば、バックグラウンドで変換を行いながら先に編集作業を進めていくということが可能です」(佐藤氏)

Final Cut ProのXMLデータを使用して、WiretapCentralでInferno用のデータを作成しながら、Combustionでこのデータを読んでオフライン編集の参照用にするという流れもスムースになるメリットがあるという。

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佐藤氏は、REDワークフローの構築のポイントについて、撮影段階からモニターできる環境をどう構築するかだと話した。

「ビデオカメラで収録している時には、制作会社やクライアントも含めて、構図や色味を何気なくマスターモニターでプレビューチェックしていました。こうした何気ない作業がRED ONEを使った収録においてはできないという現実を、制作側がどう捉えるかではないでしょか。RED ONEの良さを引き出すためには、カメラマンの意図をどう反映させるか、制作会社やクライアントの安心感をどう得るか、ポストプロでカメラマンの意図をどう確認して反映するか。モニタリング環境をどう構築するかで、バジェットも含めて、安心感のあるコンパクトな制作が可能になるのではないでしょうか」