ハリウッドにおいては、デジタルインタミディエイト・ワークフローの定番となったQuantelの編集・フィニッシングシステム。RED ONEを用いた4K制作ワークフローはもちろん、ステレオスコピック制作においても活用されている。

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Inter BEE 2008のクォンテルブースで日本初公開された3ality DigitalのSIP2100

Quantelは、ステレオスコピックに関連した技術/製品開発を行っている3ality Digital(米カリフォルニア州バーバンク)と戦略的協業を行い、ステレオスコピック制作ワークフローを構築してきた。昨年9月にアムステルダムで開催されたIBC 2008(欧州放送機器展)では、sQサーバプラットフォームベースのステレオ3Dサーバーや、3ality Digitalのステレオ・イメージ・プロセッサーSIP2100を発表している。これらについては、Inter BEE 2008のクォンテルブースでも紹介されている。ここでは、Quantelのシステムを使用したステレオスコピック制作ワークフローを整理しておこう。

Quantelのシステムを使用してステレオスコピック制作をするには、HD解像度であればiQ 2K、2K解像度であればiQ 4Kで可能になる。Webサイト上で「ステレオ3Dのための」とうたっているのはPubloだが、グレーディングや複雑なカラーコレクションを行わないのであれば、Publo 2K/Publo 4Kは必要がない。クォンテルのシステムズ・アーキテクトをしている松井幸一氏は、ステレオスコピック制作に必要な製品について次のように話した。

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カラーグレーディングや複雑なカラーコレクションを行うにはPabloが必要になる。

「現在、劇場公開しているステレオスコピック作品はHD収録していることが多いので、事実上iQ 2K/Publo 2Kで制作することが可能です。クォンテルはこのほか、入出力と編集に特化したSIDという製品を提供しています。ステレオスコピック制作で肝になるのは、左右の映像のズレを正しく補正する視差調整の部分です。ステレオスコピック制作においては、正しいステレオ感を生み出す部分だけを仕事として受けるケースもあります。この視差調整をすることを目的に作られた製品がSIDです。SIDは、ステレオ編集と視差調整、そして作品プレビューをするために使用します」

収録後に、オフライン編集をして、本編集からフィニッシングにつなげるというワークフローの流れは、通常のノンリニア編集と変わらないが、ステレオスコピック制作ならではのハードルもある。実写収録は、左目用と右目用の映像を収録するカメラの出力を、ソニー製HDCAM SRポータブルレコーダーなどを使ってHD422で同時収録することが増えているが、多くのケースで、本編集に入るまでステレオスコピック環境で左右の映像を見て確認することはない。左右いずれかの映像で、オフライン編集を行い、それを元にもう片方の映像の編集しているため、フィニッシングする段階で視差調整は欠かせないのだ。Quantelは、ステレオ編集タイムライン機能により視差調整をしやすくするとともに、左右の映像を解析して調整できるデバイスを提供している、これが、3ality Digitalのステレオ・イメージ・プロセッサーSIP2100だ。

3alityのSIP2100で制作を効率化

3ality Digitalは、ステレオスコピック関連の技術/製品開発を行ってきたが販売網を持っていなかったことから、Quantelを通じて製品の販売を行う協業態勢を採った。Quantelにとっては、3ality Digital製品もワークフローの一部に使用することでワークフローを強化できるメリットもある。Quantelが取り扱う最初の製品として発表したのがSIP2100だ。ステレオスコピック映像を分析し、問題点を修正することを可能にする1Uサイズのデバイス製品だ。収録から編集、フィニッシングまでの各工程で視差調整を可能にするもので、ワークフローをよりスムースに運用できるようになる。

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3ality Digital製ステレオ・イメージ・プロセッサーSIP2100

「ステレオスコピックでは、2台のカメラを使用する以上、2つの映像の条件を100%同じものに揃えるということはできません。左右で微妙に色味が異なるということもあります。つまり、片側の映像のカラーコレクションをして、その設定をもう片方に反映させる機能を持たせていても、カメラ本体で生じた色未の違いは補正できないということになります。そのため、2つの映像を比べながら同じ色味になるように補正することが必要です」(松井氏)

撮影段階でSIP2100をカメラとレコーダーの間に配置して分析機能を使用すると、左右のカメラの色味や、高さや傾きの違いを数値で表示してくれる。カメラを2台並べて撮影するのではなく、ハーフミラーを使用して撮影した場合は、1台が上下反転した映像を記録することになる。これを正しい映像にリアルタイムで反転するような補正機能も持っている。さらにアドバイス機能を使用すれば、最終的に上映するスクリーンサイズに合わせて、バーグラフでステレオ感が得られる距離範囲を示してくれる。2台のカメラの特性を揃えるだけでなく、極端なステレオ感を再現したり、ステレオ感が得られないということがないようにもしてくれるというわけだ。

編集段階では分析機能とアドバイス機能を、視差調整段階ではアドバイス機能と補正機能を、それぞれ活用して制作をスムースに、短時間で済ませることが可能になる。

「補正機能は、上下/左右のいずれも反転できます。また、分析機能で得られた違いを補正することも可能です。ただ、等倍で反転する場合を除けば、補正することは画像処理をすることを意味しますから、できるだけ生に近い映像を扱うためには何度も補正を加えないワークフローにした方がいいと考えています。つまり、収録段階ではカメラの位置調整と反転だけに利用するにとどめ、フィニッシングの最終段階で補正を加える方法が良いのではないでしょうか」(松井氏)

SIP2100はサイドバイサイド出力も可能なほか、万が一、ステレオ感が破綻した映像が入力された場合に、片方の映像だけを使用して左右同一映像を出力する機能も持っているなど、放送用途も考慮した製品となっている。収録、編集、放送と、さまざまな制作現場で活用できるようにすることで、今後欠かすことのできないデバイスとなりそうだ。

「海外の制作動向ですが、劇場用映画での取り組みよりも、パブリックビューイングに近い取り組みで、コンサートやスポーツの中継を劇場やスポーツカフェなどでステレオスコピック公開するというものが増えてきているようです。マルチアングルで複数のカメラをセッティングしなければならないようなケースでは、SIP2100のように撮影段階でリアルタイムで分析や補正ができることは強みになりますね」(松井氏)