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3Dプロジェクションレンズユニット「LKRL-A002」

ソニーが4KデジタルシネマプロジェクターSRXシリーズを発表したのは2007年のことだ。2008年秋には、米国市場でSRXシリーズに取り付けて2K解像度のステレオスコピック3D投影を可能にする3Dレンズアダプターを発表してステレオスコピック3D上映に対応。2009年2月から市場に投入している。ソニーは7月8日、この3Dレンズアダプターを、3Dプロジェクションレンズユニット「LKRL-A002」「LKRL-A003」としてRealDに提供して、Real Dの3Dデジタルシネマシステムとして国内市場に導入されると正式に発表した。SRXプロジェクターを使用したステレオスコピック3D投影環境の国内展開の準備がようやく整ったことになる。

4Kデジタルシネマプロジェクターを販売するソニーマーケティングのB2Bビジネス 映像ビジネス推進室で、セールスマネジャーを務める末広健一氏は開発コンセプトについて次のように話した。

「SRXシリーズを市場投入してから、ステレオスコピック3D上映に関する問い合わせを映画スタジオやシアターから多くいただきました。ステレオスコピック3D上映のために2台導入するのは、4K解像度で投影するSRXプロジェクターは本体が大きいためにスタックなどによる設置は難しく、コスト面でも厳しくなってしまいます。そこで、表示に使われる”SXRD”デバイスが4K解像度であることを生かし、表示領域を2段に分けて左右の映像を同時に表示させるデュアルレンズ方式のレンズアダプターを開発することにしました」

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レンズユニット交換だけでステレオスコピック3D上映が可能

SRXシリーズのSXRDパネルは4096×2160画素。ステレオスコピック3D表示の場合、このパネルの中央部2048画素を使用して、左右の画像を上下に同時表示している。1画面に表示されたステレオ映像を、Real D製3Dフィルターが組み込まれた上下に独立した光学系を通して拡大し、スクリーン上で1画面に合成するという仕組み。レンズユニットを交換するだけで、4Kデジタルシネマにも2Kステレオスコピック3Dにも利用できることが特徴だ。

4K解像度のパネルを使用して表示するメリットは他にもある。2K解像度のプロジェクターを使用して2台スタックせずに投影するには、一般的に左右の映像を交互に表示させ、それと同期をとりながらフィルターを差し替えたり、メガネ側のシャッターを動かしたりしている。左右の映像1フレームの表示につき、交互に同じ映像を3回出力して、残像感を軽減している。つまり、片目あたり1秒間に72枚の出力がされているわけだ。これにより残像感は軽減できるが、長時間の視聴では疲労感が増してしまうことにもなった。

「レンズユニットを使用することで、フレームレートを3倍にすることなく、秒24フレームのままで上映することが可能になり、疲労感を軽減することが可能になりました。SRXシリーズは60pの映像も表示できるので、スポーツ中継やライブ中継といった速い動きのあるステレオスコピック3D上映も可能になります」(末広氏)

レンズユニットの交換はユーザーで行うことができ、1時間ほどで調整可能だという。レンズユニットは、奥行きのないシアターで広角投射タイプ(投射比1.1~1.9倍)が「LKRL-A002」、奥行きのあるシアターでの望遠投射タイプ(同1.9~4.0倍)が「LKRL-A003」となる。いずれも、投射角度に応じたシフト機構を内蔵し、プロジェクターの台形歪みのマスキング処理機構と組み合わせて、スクリーンに合わせて投影できる。

北米市場で今後数年で1万スクリーン以上に導入予定

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3DプロジェクションレンズユニットはRealDのライセンス契約映画館に提供される

RealD方式によるステレオスコピック3D上映には、3Dプロジェクションレンズユニットに組み合わせる3Dフィルターと観客用の3Dメガネに加え、反射輝度の高いシルバースクリーンが必要になる。レンズユニットだけを購入しても、ステレオスコピック3D上映はできないのだ。そのため、レンズユニットの販売はソニーで行わず、RealDがシステムインテグレーターとなり、ライセンス契約した映画館に提供する形を採った。

「ステレオスコピック3Dの上映方式は他にもありますし、地域によってはRealD以外の方式の導入が進んでいるところもあるということは認識しています。今回は、米国市場で導入が進んでいるRealD方式と組み合わせ、RealDが3Dデジタルシネマシステムとしてライセンス契約をした映画館に提供することになりました」(末広氏)

国内映画館でのSRXプロジェクターの導入実績はまだない状況だが、3Dプロジェクションレンズユニットの発売を機に米国市場では導入予定が増えて来ている。米シネマチェーンのAMCが2009年3月のShoWestで、2012年までに全米で約4,600スクリーンのソニーの4Kプロジェクターでデジタルシネマ化する予定であることを発表しているほか、5月には米Regal Entertainment Groupが3~5年をかけてすべてのシネマチェーンで4Kデジタルシネマ化を実現することを発表している。これらが実現すれば、米国で11,000スクリーンを超える導入規模となるはずだ。ステレオスコピック3Dの他社方式への対応については、今後検討していくようだ。

この実績が、日本の映画市場でどう受け入れられるかは、これからという状況だ。しかし、4K解像度に対応しつつステレオスコピック3Dにも対応でき、ライブ3Dコンテンツにも対応できるという点で、これまでよりも映画館で導入を検討しやすい段階に入って来たようだ。