Txt:安藤幸央

研究成果が実務に生かせるようになるまでには?

コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の SIGGRAPH、本分は学会であり、華やかなイベントの中で、論文発表も次世代を担うテクノロジーのプレビューとして、注目を浴びる。SIGGRAPH の論文の採択本数は厳格には規定されておらず、良い論文は採択されるのだが、それでも投稿数のうち採択率 15%と、狭き門であることに変わりは無い。

近年のSIGGRAPHの論文発表の特徴としては、近未来を夢想した技術ではない事だ。CG制作の現場で試行錯誤したプロダクションの研究開発の成果が発表されるものや、大学の研究室と、プロダクションの実務を行き来したような人材が、現場のニーズを組み入れた、実務に生かせる研究を大学で行なっているようなものが多い。また、Microsoft Research や、NVIDIA など、研究開発に多額の資金を投入し、成果を挙げている企業の論文発表も数多く見受けられた。

ここで紹介する技術は、紙の上でだけ考えているものではなく、既にリファレンス実装済みであり、デモとして動くものが存在するものばかりだ。現在の画像編集ソフト、映像編集ソフトの機能の中には、過去の SIGGRAPH の論文で発表された技術が元になったものも少なくない。今回論文発表された最新技術も、1年後~数年後には、市販の映像編集ソフトの一機能として使えるようになることはいうまでもない。

今回は、PRONEWS の読者にも興味を持って頂けるような、映像系の技術論文からいくつかピックアップして紹介していこう。

Parametric Reshaping of Human Bodies in Images

写真に写っている写真を太らせたり、やせさせたり、自然にする技術。単に画像の横幅を縮小するだけでは、不自然にやせてしまう。人間の骨格を解析した上で、拡大縮小の効果を反映させるもの。ダイエット食品の Before / After が、スライダーバー1つで実現する。

http://sweb.cityu.edu.hk/hongbofu/projects/ParametricBodyReshaping/

GradientShop: A Gradient-Domain Optimization Framework for Image and Video Filtering

動画素材を活用し動いているものの画像や動画像の鮮明度をあげるフィルタリング技術。



Unstructured Video-Based Rendering: Interactive Exploration of Casually Captured Videos

複数カメラの映像をインタラクティブに切り替える技術。



Dynamic Video Narratives

動画のサムネイルのダイナミックな(動く)サムネイルダイジェストを作る技術。 旧来、動画のサムネイルは、動画像の1ショットを切り取っただけのものでしたが、 Dynamic Video Narratives は映像の流れそのもののを要約して一覧することができる。

http://vis.cs.ucdavis.edu/papers/SIGGRAPH2010/

Video Tapestries with Continuous Temporal Zoom

ビデオ編集のポイントを探る時に用いられる巻物のようなサムネイル。 複雑なシーンが組合わさった動画像の編集が革新的に便利になりそう。

http://www.cs.princeton.edu/gfx/pubs/Barnes_2010_VTW/index.php

Apparent Display Resolution Enhancement for Moving Images

小さい画面用に単に解像度を落とすのは良くないアプローチだ。一見静止画に見えるが細かい動画再生で見た目に細かいレゾリューションを表現。

http://www.mpi-inf.mpg.de/resources/ResolutionEnhancement/