2011年HD、ファイルベースのその先へ!そして、新たなトレンドも誕生したカメラの世界

2011年、ビデオカメラ市場でも様々な動きとともに、これから数年間の新しく台頭してくるトレンドを占うような大きな変化もあったように思う。まずファイルベースカメラでは、3.11の大震災時にテープメディアの供給不足といった事態が起きたこともあり、特に放送分野ではファイルベースでの有用性の理解が浸透したようだ。地方局、CATVなどもこれを機にファイルベースカメラの普及が進んだことは記憶にも新しい。さらに現在の映像産業の経済的困窮と、これまでのDSLRムービー等のスチルカメラやスマートフォンなどの携帯端末による動画機能アップの余波もあり、動画カメラに対する価格感覚が大きく変化してきたこともある。これまでの定番であった数百万といった高額の業務用ビデオカメラは軒並み販売台数を減らしているのも特徴だろう。

機材タイプから言えば、年始からはまず大判センサー搭載カメラと、3Dステレオ対応の2眼式一体型3Dカメラの台頭が目を惹いた。大判センサー搭載のビデオカメラの先駆けとして登場した、DSLRムービーからの影響を大きく受けたパナソニックのAG-AF105、ソニーのPMW-F3という大判センサー搭載カメラでは、制作分野だけでなくPVやブライダル、果てはUSTREAMやニコニコ動画などのネット放送用カメラとしても多岐にわたる使われ方をしている。特にPMW-F3の使用範囲は、劇場公開映画からTVドラマ、CMはもちろん、販売想定のジャンルを超えて使用範囲も広がって行ったようで、これまでのHDCAMのリプレース対象として、その画質や機動性、操作感も含めて広く受け入れられたようだ。

そしていよいよ実用性が問われるようになってきた3Dカメラ。HDカメラ2台による並列、もしくはハーフミラー用いた専用リグ使用による撮影方法が主流だった昨年以前から、パナソニックから発売された一体型2眼式の3DフルHDカメラAG-3DA1を筆頭に、P2HDを搭載し業務用上位機種として登場してきたショルダータイプのAG-3DP1、ビクターのハンドヘルド3DカメラGY-HMZ1、またソニーの小型ハンディカム3DカメラHXR-NX3D1Jなど多様な3Dカメラが登場。そしてXDCAM EXベースで作られたソニーPMW-TD300は、低予算でもステレオスコピック3Dの映像が撮影でき、かつ機動性の高さという点でも、これまでにない3Dコンテンツを撮影できる期待感から、今後導入が進みそうだ。

ただし11月のInterBEEを見ても3Dに関しては一通りのテクノロジー進化は収束を見せており、ここ数年のような盛り上がりは無かった。これからが実質的にも良い3Dコンテンツが出てくれば、カメラ分野としても更なる技術の方向性が見えてくるだろう。

そして今年の”第三の波”とも言える、デジタルシネマカメラの登場。NABでのソニーF65の発表は、センセーショナルなものだった。4Kをベースに広いダイナミックレンジを活かせる様々な仕様、さらには高感度によるフィルムに迫る画質と「SRMASTER」というハイエンド制作向けの新しいファイルベース・テクノロジーは、今後の新たなシネマの世界を切り開くのに充分な力量を持っている。そしてREDのEPICもついに市場投入、順次出荷が進んでいる。5Kというデジタルカメラ最大のサイズ解像度を持つこのカメラによって、元来REDが推奨してきた”DSMC”のコンセプトが、よりハイエンドのプロ市場でも明確化され、映画とデジタルカメラ、スチルカメラの関係はさらに境界が無くなったと言える。

これらのカメラの特徴でもあるLOGやRAWデータでの収録方式は、カラーグレーディングの世界にも大きく関係してくる事から、今後はRAW/LOG収録というのが日本でも主流になってくると思われる。それをさらに助長しそうな期待の新製品が年末に発表された。

DSLRムービーをこれまで牽引して来たキヤノンからは、ついに明快な回答とも言える新しいコンセプトのカメラシリーズ“CINEMA EOS SYSTEM”が発表されたこともセンセーショナルだ。今回ラインナップしたC300は、EOS 5D MarkⅡのムービー面での長所、XF305、XF105などのXシリーズと言われる業務用ビデオカメラの長所を合わせ、ローリングシャッター現象を抑え、実質4KからHDサイズを抽出する新開発のスーパー35mmサイズCMOSセンサーを搭載。最大感度ISO20000、そして何と言っても魅力的なのは広いダイナミックレンジを活かした “Canon Log”での記録機能を本体内に搭載することにより、広いダイナミックレンジを活かした映像を手に入れることができた。さらにカラーグレーディングの世界がまた一歩身近になったことで、これまでのビデオベースのカルチャーから、シネマ/フィルムベースのカルチャーへとムービーカメラの新しいトレンドがハッキリと見えて来た感がある。現にInter BEEでは、通常の放送用・業務用といったビデオカメラよりも、ユーザーの関心は明らかにこれらのデジタルシネマに向けられていた事が何よりもそれを証明しているだろう。

普及タイプのビデオカメラ分野では、アフォーダブル化、小型化が進み、実質的な市場では小型ハンディカメラが主流を占めたように思う。またスタジオカメラ分野でも池上通信機からは16bitフルデジタル 3GHDTVカメラシステムHDK-H97、ソニーからは3G光ファイバー伝送と標準で1080/119.88iの撮像に対応したHDC-2500/2400といった、数年ぶりとなるスタジオカメラを発表。こちらも新たなトレンドテクノロジーを搭載している点で興味深いところだ。池上通信機は今後の展開としてNABで、4/3大判センサー搭載、PLマウントのGFCAMカメラHDS-F90なども参考展示している。

PRONEWS AWARD 2011 カメラ部門ノミネート製品

  • Canon C300
  • SONY PMW-F3
  • SONY HXR-NX3D1J
  • RED EPIC
  • SONY PMW-TD300
  • SONY F65

何が受賞するのか…?

PRONEWS AWARD 2011 カメラ部門受賞製品発表

カメラ部門
ゴールド賞
PMW-F3

SONY

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やはり今年一番の普及カメラとして、またスーパー35mmサイズという大判センサー搭載というトレンドも含めて、2011年はPMW-F3の存在無くしては語れないだろう。ソニーのデジタルシネマカムコーダー『PMW-F3K』と『PMW-F3L』は、新開発のスーパー35mm相当単板CMOSイメージセンサーを採用、PLマウントでのレンズ対応で浅い被写界深度での撮影を可能した。さらにF11(ISO 800)の高感度、S/N比63dBの高感度・低ノイズを実現、低照度環境下での撮影でも情感豊かに映像表現が可能だ。映像の圧縮フォーマットと収録メディアはXDCAM EXを採用。映像圧縮はMPEG2 Long GOP方式、収録メディアには”SxS”メモリーカードを採用して、従来のビデオファシリティを有効活用できるワークフローで運用出来る点が一番の魅力だろう。

カメラ部門
シルバー賞
HXR-NX3D1J
SONY
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実勢価格30万円台という低価格ながら、1/4型CMOSセンサーと光学10倍レンズを左右2組搭載した小型二眼式3Dカムコーダー「HXR-NX3D1J」。レンズの基線長31mmの間隔で平行にセッティングすることでコンパクトサイズを実現、光学10倍ズーム、手ぶれ補正機能を3D映像撮影搭載で3D撮影に気軽さを持ち込んだカメラである。3D記録モードには新たに28Mbps MVCフォーマットを採用、BDディスクとの親和性も高い。本格的な3D放送、3D中継でのサブカメラとして使用する以外にも、ウェディング、PV、イベント映像などでの3D Blu-ray制作やアミューズメント施設向け映像制作など、3D映像の様々な用途を拡げた。

総括

やはり大判センサーカメラ、そしてデジタルシネマというキーワードが今年の大きなポイントだったと考えたい。大判センサーの登用は、DSLRムービー映像の感動をなんとか業務用/放送用ビデオの世界へ取り込もうとした結果である。よって生まれて来たソニーPMW-F3は、やはりビデオベースでありながらもシネマを強く意識したハイブリッドな設計思想が随所に現れ、しかもプロ業務用としての堅牢製などにも配慮されている逸品だ。またソニー自らが自社ブランドとしてPLレンズのラインナップを発表したことも、今後のこの分野への市場拡大の意欲が伺われるというものだろう。現状ではメモリーレコーダーなどのオプションもかなり充実して来ており、オールマイティな分野でのこれからのスタンダードカメラとして、これからのF3ワールドの広がりにも期待したいところだ。

そしてここ数年の3Dブームを一般業務で活用できるような機材が出て来たことにも注目だろう。「HXR-NX3D1J」はその中でも小型ハンディでありながら、様々な用途に使用出来、かつ業務用として様々なポテンシャルを持っているカメラである。こうした機材の普及により、今後の3D市場がどのように成熟して行くのか?手軽に撮れるステレオ3D映像から始まり、いよいよ来年からはコンテンツの質を問われる時代に突入した3Dカメラは、これからまた新たな過渡期を迎えるだろう。


Vol.00 [PRONEWS AWARD 2011] Vol.02