4Kフォーマットをサポートする製品の台頭を見る
すでに一般化したファイルベースソリューション分野では、今年の全体的なトレンドでもあった4Kフォーマットをサポートする製品/ソリューションも次々に登場してきた。4Kは4月のNABまでは世界的にもデジタルシネマ向けのハイエンドフォーマットというイメージが強かったが、9月のIBC2012あたりから市場でもその風向きが少しずつ変わってきたようだ。すでに映画・CM業界などではRED EPICなどでOVER 4K撮影が行われているケースも多いが、実際に4K画像を現場でモニタリングする装置もない状況で、一般普及はまだ少し先の話。それでも世界の多くのキー局がポストHDを睨んでの4K制作に対して興味を持ち始めている。
国内では11月12日に総務省が『放送サービスの高度化に関する検討会』と称して、「4K・8K(スーパーハイビジョン=SHV)」「スマートテレビ」「ケーブル・プラットフォーム」の三分野について、今後のロードマップの策定、ルールの具体化など検討する初めての会合が開かれた。ポストHDフォーマットの新たな策定として8K/SHVが目標として示されており、その通過点としてまず4K普及というポイントがある。2年前に出されたNHKの今後の研究開発ロードマップを見ても、2年後のハイブリッドキャスト(スマートテレビ等の標準化)、そして8Kスーパーハイビジョンを目指す今後10年内の放送計画を見据えた更なる高画質化への順路が示されている中、4Kへの各社対応は時間の問題だ。
さらにファイルベース・ソリューションにおけるこれからのポイントとは何か?ユーザー目線で考えれば、それはやはり複雑化するマルチフォーマットへのネイティブ対応だろう。ユーザーにとって最も深刻な問題なのは、シネマカメラを含む多くの新製品カメラが登場する中、同様に様々な異なる新しいファイルフォーマットが生まれ、それによってワークフローが複雑化し、最後にはワークフロー設計の混乱により作業ロスを生じるということである。ソフトウェアやシステムの最新コーデックやフォーマットに対してのネイティブ対応は、作品の制作スケジュール設計に大きく影響するだけでなく、いまやその対応スピードがソフトやシステムを選択する重要なファクターとなりつつある。その中でAutodeskは新たな道として、これまでの同社の様々なシステムをコンパートメントにまとめたSmoke 2013を発表。しかもMacBookProなどノートPCで稼働するという機動性の良さと高性能オールインワンという魅力でポストFinal Cut Pro(7)の最右翼に躍り出ている。
アドビシステムズのAdobe CS6は、その対応も迅速かつユーザーオリエンテッドなソフトウェアシステムとして進化してきた。さらに今年は新たな販売形態としてAdobe Creative Cloudを実行。次世代デスクトップワークの新たなスタンダードを牽引している。グラスバレーもEDIUS Pro6.5では、すでにXAVCなど最新コーデックへの迅速な対応を実現しつつ、国産ソフトとしての安定感で多くのユーザーの支持を得ている。
ここ2、3年でその重要さと認知が急激に進んだカラーグレーディングシステムの世界では、映画界では世界的スタンダードと言われるFilmlight BaselightやCMなどノイズリダクションに強いNUCODA FilmMaster、カラーグレーディングとともに編集作業も行えるQuantel Pablo等があるが、日本ではまだ作業工程におけるグレーディングにおける重要性認知の低さと、それに見合うバジェットが海外の作品ほど確保できないという理由もあり、数千万する高度な機能を持ったハイエンドマシンがなかなか導入出来ないのは厳しいところだ。その中でDaVinci Resolveは、安価(Liteは無償!)でありながらも安定した性能を発揮し、今年のバージョン9へのアップグレードでも各社の最新コーデックへの対応も早く、ユーザーにとっては心強いシステムである。
PRONEWS AWARD 2012 ファイルベースソリューション部門ノミネート製品
- アドビシステムズ Adobe Creative Suite 6+Creative Cloud
- ブラックマジックデザイン DaVinci Resolve 9
- オートデスク Smoke 2013
- グラスバレー EDIUS Pro 6.5
何が受賞するのか…?
PRONEWS AWARD 2012 ファイルベースソリューション部門受賞製品発表
ファイルベース部門 ゴールド賞 |
DaVinci Resolve 9
ブラックマジックデザイン |
昨年もシルバー賞を受賞したブラックマジックデザイン社のDaVinci Resolveは、この2年でその存在感を大きく示してきた。すでに10月中旬にはキヤノンの4Kカメラ、EOS C500のRAWデータフォーマット、Cinema RAW/.rmfファイルのネイティブ読込みにいち早く対応、さらに来春発売予定のソニーPMW-F55/F5の最新フォーマット「XAVC」にもすでに対応するなど、最新カメラフォーマットのネイティブ対応も迅速。さらに無料版DaVinci Resolve Liteの普及による、その操作カルチャーとカラーグレーディングの基礎を広めた功績は大きい。その勢いはかつてのアップル Final Cut Proの存在に匹敵する勢いで、今まさにカラーグレーディングツールの代名詞になっている点を高く評価。本年度の本部門ゴールド賞に選出した。さらに今後はカメラマンやVE、照明マンが自らカラーコレクションを行うケースも増えてきており、ポストプロダクション以外でのカラーコレクション作業から『デスクトップ・グレーディング』の時代に突入したいま、今後もそのシェアは拡大して行くと思われ、これからの展開にも多いに期待したい。
ファイルベース部門 シルバー賞 |
Adobe CS 6+Adobe Creative Cloud アドビシステムズ |
Mercury Playback Engineのパワーとともに、 Premiere Pro、AfterEffects、Photoshopなど映像業界馴染みのソフトウエアが軒並み最新の映像制作環境に最適化。その勢いをさらに拡大しつつあるAdobe CS6。その注目ぶりはInterBEE2012でのセミナー集客の多さを見ても人気と実力は明らかだった。またこれからのファイルベースの肝となる最新ファイルベースフォーマットへの素早い対応と、メンバーシップ制によるソフトウエア販売(提供)方式、Adobe Creative Cloudによる定額使い放題サービスを新たに開始したことで、CS6の部分的な機能だけでも個人単位で必要なソフトだけ使用出来るなど、次世代ノンリニアシステムの新しいカタチを提示した。これからのデスクトップ作業を考慮した汎用性、拡張性、安定感など、総合的な使いやすさとその秀逸さで今年度の本部門シルバー賞に選出。
総括
次々と登場する新しいカメラと、それに伴う新たなコーデック/フォーマットが乱立する中で、ユーザーはいま、自身のワークフローデザインの模索に多くの時間と労力を費やしている。新しいフォーマットはそのほとんどがユーザーにとって新たな利便性を提供してくれるものなので、拡張性、汎用性など自由度は拡がる反面、都度のデスクトップ環境整備などプリプロダクション作業(準備)の負担は増える一方だ。予算計上されない(!)この部分のリアルな負担を、いかに軽減・省力化してくれるのかが、今のファイルベース・ソリューションの、最大のポイントだと言えるだろう。
受賞した製品はどちらもその点において優れたソリューションを提供している。また魅力的な基本性能に加えて、コンマバージョンアップなど現況対応の迅速さ・簡便さ、さらに製品版の販売方法にも、これからのソフトウェアの未来像を提示出来た点などが主な受賞の理由である。