話題に事欠かないカメラ分野でのトレンドとは
アナログ全盛期のSD時代はNTSCやPALといった放送方式の違いがあったものの、その範囲内では単一のフォーマット(NTSCであれば525/60フィールド)で、インタフェースもコンポジットを共通項にあらゆるビデオ機器は接続性が保たれていた。HD時代の現在、IT機器や映画、国別だった放送方式の枠を超え、1080/720、24/30/60、i/pなどバラエティに富んだフォーマットを許容している。さらに、1920/1440/1280も含め、マルチレゾリューションの時代ともいえるだろう。これらは放送を含めたデジタル化がもたらしたものである。
一方、映画の業界でもデジタル化の志向があり、HD機器を使った製作が始まり、映画とビデオの相互乗り入れが始まってくる。こうした現状を背景として、REDが出現するのだが、映画業界で定番と言えるPLマウントレンズだけでなく安価なスチールカメラ用のレンズを装着できるようになっており、そう言った意味でも革新的な製品だったといえよう。
もう一つの要因として忘れてはならないのは、ビデオでフィルム的な描写を求める潜在的な需要が以前からあったということである。ビデオをフィルム的な色調に変換するサービスや浅い被写体深度を得るためのDOFアダプターは現在では見る影もないが、数年前くらいまでは盛んだった。REDやEOSはこうした潜在的な需要に価格的にもうまく当てはまる製品だったというわけである。
さて、こうした流れの中で、今年のカメラのキーワードは大判センサー、4K、RAWの3つが主なポイントといえよう。こうしたキーワードは、放送で使われるフォーマットとは異なる次元のものだが、すでにHDのフォーマットもSDの時代と異なり単一ではなく、許容できる下地は出来ていたとも言える。とはいえ、個人のクリエーターからドラマやCM、もちろん映画製作まで幅広い需要があり、そうした需要に応えるべくすでに様々な製品が発表または発売されている。特に今年はミドルレンジからローエンドあたりをターゲットとした製品が多く、DOFなどを使っていた時代から見ると夢のような世界と言えるだろう。
大判センサーやレンズ交換式はDOFを使った描写を求める流れと言えるが、ソニーはセンサーも製造していることから、自社のスチールカメラ用レンズを装着可能なNEX-VG900やNEX-FS700J、PMW-F55など民生レベルから業務用まで大判センサーのカメラを数多く投入している。また、キヤノンはEOS MOVIEシリーズのエントリーモデルとしてC100を、またデジタル一眼タイプもラインナップに加えている。ここまでは、ビデオメーカーやカメラメーカーの製品で出るべくして出た製品といえるが、ここで思わぬ伏兵としてブラックマジックデザインからBlackmagic Cinema Cameraが登場した。業務用のビデオカメラは3色分解光学系が当たり前だったが、大判センサーや4Kでは単板が主流であり、マウントさえ特殊なものを採用しなければレンズも自前で用意する必要もなく、記録系もファイルベースが当たり前の今日ではセンサーさえ入手できればカメラやビデオカメラのメーカーでなくても製品をだせるということであろう。すでに、朋栄やアストロデザインもカメラを発売しており、今後もこうした動きが出てきても不思議ではない。
PRONEWS AWARD 2012 カメラ部門ノミネート製品
- SONY PMW-F55
- Blackmagic Design Blackmagic Cinema Camera
- Canon EOS C100
- JVCKENWOOD GY-HMQ10
- GoPro HERO3
- SONY NEX-FS700J
- SONY NEX-EA50
- SONY NEX-VG900
何が受賞するのか…?
PRONEWS AWARD 2012 カメラ部門受賞製品発表
カメラ部門 ゴールド賞 |
PMW-F55
SONY |
4K RAW対応のほかXAVCという新たなフォーマットを搭載。グローバルシャッターやワイドレンジのカラーガンマ、ネイティブに4Kまで対応。パラレルでマルチコーデック記録ができるほか、240コマ/秒までのスロー映像の記録が可能。XAVC、MPEG-4 SStP、MPEG HD422と3種類のコーデックから選択して本体のSxSメモリーカードに収録。XAVC は4:2:2サンプリング、10bitの諧調、イントラフレーム圧縮を採用し、HDで約100Mbps、4Kで約300Mbps(ともに29.97p時)のビットレートを持つ新たなフォーマットで、新たにラインアップされた最低書き込み速度1.3Gbpsを実現したSxS PRO+メモリーを使用することでフルスペックの記録に対応する。また、オプションのRAWレコーダーAXS-R5と組み合わせることにより16bitリニアRAWでの4K/2K収録にも対応。価格は2,887,500円で来年2月発売。HD/2K/4K収録やマルチコーデック記録への対応、スロー撮影など多彩な機能をこの価格で実現したことや新たなフォーマットの搭載など新領域カメラとして現時点で最強といえるだろう。
カメラ部門 シルバー賞 |
Blackmagic Cinema Camera
Blackmagic Design |
DaVinci ResolveとUltraScopeをバンドルして253,800円という価格は魅力的だ。特に新領域のカメラではレゾリューションだけでなく、RAWの処理が悩みどころだがDaVinci Resolveのバンドルで見事に解決していると思う。これにより、RAWを利用した作品制作がより一般的になると思われる。2.5kというイメージセンサーはHDでもなく、2K/4Kでもないという中途半端な印象だが、ユーザーがどう生かしていくかが課題となろう。レンズマウントは当初キヤノンEFマウントだったが、その後MFTマウントモデルが追加発表された。これにより、マウントアダプターで様々な各社のレンズを装着可能となり、キヤノンだけでなく様々なレンズを装着できるようになった。マニュアルのオールドレンズやPLマウントのレンズなどレンズ選択は無限の可能性を秘めている。
総括
ゴールド賞のソニーPMW-F55は大判センサー、4K、RAWという新領域カメラとしてのキーワードと、XAVCという新たなフォーマットを搭載したことを評価したい。さらに4KとHDといったマルチコーデックでの記録や最大10倍のスローモーション撮影が可能など多彩な機能を搭載している。Super 35mm相当のCMOSイメージセンサーにより、S-Log2時ISO1250の高感度と14stopの広いラチチュードを実現。F65と同等の広い色域をもつなど性能面でも申し分ない。
シルバー賞のブラックマジックデザイン Blackmagic Cinema Cameraは、価格もさることながら、DaVinci ResolveによるRAWへの対応、MFTマウントモデルの追加などユーザーが求めるオイシイ部分をうまく取り入れている。特にレンズの選択が広がるMFTマウントへの対応は評価したい。