ハイクオリティ・サウンドプロダクションへの回帰〜
2020年の東京オリンピック開催招致も成功し、国内での映像界での2013年度後半のキーワードとして、さらに際立つ存在になった「4K」、そして更に高解像度ロードマップの目標とされているスーパーハイビジョン=「8K」という高解像度の世界。こうした高解像度化への進展は、この日本では映画の世界というよりはむしろ、この2020年の東京オリンピックを目指して、テレビ放送を中心とした方向から急速に進化しそうだ。また国家(=総務省)主導ということもあり、今後は高解像度放送へ向けて本格的な研究開発、現場への実機投入、ソリューションの強化が行われていくことは明白。また今月オランダで行われた”IBC2013″では、ソニーから業務用ハンドヘルドタイプの4Kカムコーダー「XDCAM PWX-Z100」そして姉妹機の民生カメラ「FDR-AX1」が発表されるなど、4Kが一般化する土壌が固められ、業務用、民生用の世界でも4Kは2、3年後にはスタンダードに使用されるような気配が濃厚になってきた。
ところで…映像の高解像度化が進むきっかけとなったデジタル。すっかりデジタル制作ワークフローが一般化された映像制作の世界。これまで多くのカルチャーがデジタルテクノロジーを取り入れて(というよりむしろ呑み込まれた)以後、必ず通る道筋というのは決まっている。それはダウンサイズと効率化(=簡素化)による作業の集約化だ。現に映像制作の世界がデジタルに飲み込まれて10年以上、いまは制作スタッフ一人ひとりの役割が徐々に大きくなり、テレビ放送などの現場ですら、ワンマンオペレーション、スモールプロダクション化が浸透しつつある。こうした制作様式の簡素化、効率化が進むと何かがどうしても削られがちになるのが通例だが、映像制作の中でもっとも軽視されがちで、しかも最も出来上がった作品のクオリティに大きく関わってくるものとして重要なのが、今回取り上げる音=『サウンド』である。
映像にとって”音”は重要な要素であることは周知の通りだが、ビデオ、CG、映画という切り口から入って来た多くの映像制作者が、実は一番不得意とする部門であり、さらに制作プロダクションにおいては、真っ先に予算を削られたり、省力化されたりする対象も”音”である。これは悲しい事実でもあり、まだまだ理解が低い部分として問題視もされている。さらに音の世界でも、映像制作のデジタルワークフロー改革によって、次第に変化が表れるようになってきた。これまでの慣例としての分業体制や担当分け、たとえば音声、PA、サウンドミキサー、フォーリー(効果音)、サウンドデザイン、サウンドエディターといった映像の音に関わる様々な分業が、仕事全体がダウンサイズすることでその境目がなくなってきた。またネットライブ配信などの新しい分野が出て、それが主要メディアと混在して、むしろ重要視されて来たことで、既存のそれぞれの現場の専門家をつなぐ、新たな役割のサウンド担当人員が必要な現場も誕生して来た。
ハイクオリティ・サウンドforスモールプロダクション
DSLRムービーやGoProなどのアクションカムの流行、そして大判センサー搭載の比較的低価格なデジタルシネマカメラの登場で、映像制作自体の敷居が下がり多くの参入者が加わった。こうしたビギナーやミッドレンジ以下の業務ビデオの世界では、デジタルカメラとノートPCでの編集環境の一般化、さらにPC視聴のみならずモバイル&タブレットデバイスの普及と、YouTubeやVimeoなどの配信と視聴スタイルの慣習化によって、その裾野はインハウスビデオ(企業内制作ビデオ)などにも広まり、プロパー(一般)社員がその裾野は広がったが、サウンド面はその作業省力化、効率化、そして汎用化とともに軽視されて来た経緯も否めない。
しかし、実際に作ってみれば解るように、映像の品質はサウンド面のクオリティによって大きく左右される。ハイエンドプロの世界では、ラウドネスなどのデジタル基盤整備も進み、今後4Kなどの高画質化に伴い、更なるサウンド面強化も当然だが、メディアミックスによる新たな方法論が生まれ続ける中で、サウンド分野でも新しいアプローチや、専門分野を超えた取り組みが必要になってきている。今回の特集では、DSLRなどを主体としたビギナー向けの基本的なサウンドアプローチをもう一度簡単に紹介しつつ、音の現場で起きている新たな変化を見つめつつ、サウンドのプロ視点ではなく、あくまで現在の映像制作者の視点から、これからのサウンドプロダクションへのアプローチを今一度見つめ直してみたい。