すでに使い慣れている方々はご存知のように、デジタル一眼レフカメラ=DSLRは音声が弱点だ。これだけDSLR動画が普及しても、やはり基本は静止画撮影の為のカメラであり、動画機能は二の次、その為の音声機能は三の次!なのは仕方のないところだろう。そこをすっかり諦めてしまい、実際DSLRが流行ってからというもの、音の悪い作品が目立つのは嘆かわしい。せっかくの美しい映像が台無しだ。ここはなんとか他のサウンド収録機材を補って、音も美しく収録をしようという指向がここに来て少しずつ広がっている。

そこでまず知っておかなくてはいけないのがDSLRの弱点は何か?ということ。ただ単に「音が悪い」というだけでは何をどう補っていいのかも分からない。DSLR機の弱点とは、一言でいうとアナログ部分が貧弱なのである。一流の音響製品を作っているメーカーであってもやはり製品の価格には限度がある。その範囲内で本分である静止画撮影の為の機能に重点を置くのは当たり前の事であろう。それがデジタルのソフト部分であれば上位機種で開発した物をそのまま搭載するのに大した費用はかからないが、アナログ部分の電気部品となると話は別だ。

sound_02_01.jpg

まずはマイク。最近では動画撮影のためにDSLRを買う人も増えている状況で、三の次にしては良いマイクを搭載しているカメラも増えてはいるが、それにしても音のプロからすれば申し訳程度のクオリティであることは間違いない。また、本体内蔵のマイクでは、カメラをいろいろ操作する時にもノイズを拾うし、前ページでお話ししたようにマイクの位置を動かす事もできない。なのでここはきっぱり諦めよう。しかし、ならば外部マイクを!という所でDSLR機には大きな弱点がある。まずはアースの付いたバランス入力が付いていない。従って、バランス出力の高性能マイクはこのままでは使えないという事だ。詳しい説明は省くが、”バランス”と”アンバランス”でどう違うかというと、マイク位置をカメラから離す時に長いケーブルを使いたくなるだろう。その際とたんにノイズ量が増えてしまうのが”アンバランス”なのだ。

そしてもう一つ忘れてはならないのが”マイクアンプ”と言われるマイクの音を受け取り、デジタルに変換する部分だ。これはプロ用音響機器の中には単体で数十万円する物もあるくらい、部品のクオリティによって左右される部分。DSLR機にそんないい部品が使われている訳がない。その後、デジタルに変換されてからは実はそんなに差は出ない物なのだが、マイク、外部マイク入力、そしてマイクアンプの3カ所はアナログであるため、ここのクオリティの低さはそのまま音質の悪さに繋がってしまう。ちなみに業務用ビデオカメラとの大きな違いもそこにある。確かに価格は高いが、音にこだわる為に大判センサーの業務用ビデオカメラを使う人も多い。

外部機器でDSLRの弱点を補う

sound_02_02.jpg

こうした弱点を補うとは言っても完全には難しい。まずマイクだけでもなんとかしようとアクセサリーシューに付けられるようなマイクを買われた方も多いと思うが、ここですでに問題が生ずる。”アンバランス”のマイク入力というのは、民生規格で厳密に入力インピーダンス(抵抗)が決められている物ではない。つまり、ジャックとプラグの形が同じでも、出力と入力のインピーダンスが合ってないと音がかえって悪くなる事があるのだ。つまり相性の問題が多々あると言える。例えばマイクの出力が小さ過ぎると、オートゲインコントロールが働いて音を大きくしようとするが、ここで前述の貧弱なマイクアンプのボロが出てしまい、とたんにノイズが大きくなる。逆にマイクの出力が大き過ぎると音が入った時点で歪んでしまっているのでそれを小さくしても、歪んだ音が小さくなるだけでどうしようもない。むしろインピーダンスマッチングがしっかりとられている内蔵マイクの方が良かったりする。

私の知る限りでは、マイクの場合は出力が小さ過ぎる事が多いので、これにはマイクとカメラの間に別のアンプを繋いで増幅してやらなければならない。また、後述する外部フィールドレコーダーから音を送ってきた場合には出力が大き過ぎる事が多いので、抵抗を挟んで抑えてやらないと歪んでしまう。抵抗入りのケーブルもいろいろ発売されてはいるが、ベストのマッチングを探すには抵抗値を無段階に変えられる可変アッテネーターが便利だ。これは地元では映像制作業務も行っている群馬のスガヤ電気というところがちょうどいい製品を発売してくれているのでぜひ手に入れてほしい。

フィールドレコーダーを活用する

マッチングがとれたからといって”アンバランス”のケーブルのままマイクを遠い所まで引き延ばすのは禁物だ。いくら”バランス”から”アンバランス”の変換ケーブルを使ったからといって、それは”アンバランス”と考えなくてはいけない。カメラの音声入力が”アンバランス”である限り、ある意味ここが一つの限界だ。

そこで音声収録自体はカメラ本体を諦め、別のフィールドレコーダーで収録する事をお勧めする。これもピンからキリまであるが、最近では動画制作者のニーズを意識してカメラのシューに取り付けられるような安価で魅力的なフィールドレコーダーが各社から発売されている。その中でも絶対必要な機能としては、今までの話からお分かりのようにバランス入力を装備している事だ。それでも4万円前後でいろいろあるし、安価とは言え、音響機材ではあるので、マイクアンプやその他のアナログ部品にはDSLRに付いている物と比べて大きな差がある。これでバランスケーブルとプロ用マイクが使え、更に業務用ビデオカメラにも装備されていない96KHz/24bitでの高サンプリングレートが可能になる。それにほとんどの機種にステレオマイクや無指向性マイクが装備されていて、もちろん単体マイク程の品質は望めないのだが、これがなかなか優れた物が多い。

そんな中で私の最近のお勧めは、新しいZOOM H6。これは完全にビデオ収録を意識したモデルで、アウトプットもヘッドフォン用とラインアウトが別々にあり、ここからカメラへ音声を送ることによって本体とカメラとの同時録音も可能だ。ただし、カメラによっては前述の可変アッテネーターが必要になるので注意してほしい。チャンネルも最大6つあり、それぞれに別のマイクやラインも繋げるのでコンサートの収録等には重宝しそうだ。また、今までのZOOM製品はちょっと耐久性にかける部分もあったが、なんとなくしっかりしているように感じる。特筆すべきはマイクがカートリッジ式になっていて、標準でステレオマイクと無指向性マイクが付属している他、間もなくガンマイクやバランス入力を二つ増やして6チャンネルの外部マイクを使えるようにするモジュールも発売される予定だ。

もう一つのお勧めは、マイクは装備していないがかなりコンパクトにまとめられたTASCAM DR-60D。これはカメラ側に同時に音を送る為の機能が素晴らしく、ラインアウトの出力レベルが調節でき、前述のアッテネーターも不要だろう。更に録音の開始時/終了時にカチンコの役目を果たすトーンを送ることができ、後の編集の時に波形を見れば簡単に音声の同期がとれる。もちろんこれを使うにはバランスマイクを別に買う必要があるが、何もプロ用にこだわる必要はない。始めは安い物でもバランスにするだけでかなりの差が期待できるだろう。特にワンマンオペレーション仕様が多い人は、ガンマイクよりも指向性の広いコンデンサーマイクを手に入れておくと便利だ。前ページでお話ししたように、置く位置と向きにこだわればきっといい結果が出るだろう。

繰り返すが、こういったレコーダーからカメラに音声を送り、同時録音しておく時には前述の可変アッテネーターが必要になることがある。ここの繋ぎは当然”アンバランス”になるのでケーブルは極力短めに抑えた方がいい。さらに、レベルはカメラに入るまでを歪まないように注意しながらできるだけ大きくし、カメラ側の入力レベルを極力抑える事によって、カメラの貧弱なマイクアンプにできるだけ仕事をさせないというのがコツだ。

この方が音質も良く、ノイズを抑える事ができる。ただし、カメラ側で入力レベルがオートになってしまう機種だと話は変わる。大きな入力だとオートレベルコントロールというコンプレッサーが働き、後々音を整えにくくしてしまう。この作用については話しだすともう一つ記事が書けてしまいそうなくらい複雑なので、また改めて解説しよう。とにかくDSLRに付いているようなオートレベルコントロール機能はできれば使わない方がいい。そのあたりのマッチングはご自分の機材でいろいろ研究してほしい。

txt:ふるいちやすし 構成:編集部


Vol.01 [SoundScape2013] Vol.03