txt:石川幸宏 編集部 構成:編集部
変わりゆく時代に合わせて変容するために
2日間の展示会開催だけに両日とも会場は大盛況(カンファレンスを含めると4日間)
今年4月のNAB以降、4Kフォーマットのカメラが当たり前のようになってきたデジタルカメラの世界。ラージフォーマットの大型センサーによる高解像度化への道筋は、明らかに汎用化・多様化している。しかしその多くはテレビ業界系の話がほとんどだ。
その一方で、映画関係者の間では解像度よりもその他の要因が重要とする説を唱えるものが多いのも確かな状況。高輝度・高コントラストで実現するワイドダイナミックレンジ映像(HDR)やITU-R BT.2020などの広い色域、そして10bit、12bitなどの高量子化に対応することで本来の意味での高画質が実現されるわけで、とりわけ映画界はこちらへの関心が高そうだ。
またデジタルシネマを取り巻く環境も少しずつ変貌しつつある。ハリウッドの映画制作の全ての高騰化が招いた、いわゆる“ハリウッド離れ”はロケ地どころかポストプロダクションのハリウッド離れを引き起こし、VFXやCG業界においては一時期深刻な状況にまで陥った。しかしその危機感からか税金還元など少しずつ緩和政策も取られており、その成果もあってハリウッドにも少しずつ映画制作の波が戻っているという。
20周年を迎えたCienGearExpo
今年ハリウッドでの開催20周年を迎えた
さてそんな状況の下、今年もハリウッドでは映画撮影機材の専門展示イベント「Cine Gear Expo」開催時期を迎えた。今年はいみじくも開催20周年の節目を迎えたCine Gear。4日間のカンファレンスと中2日間の展示会という小規模なエキジビションではあるが、毎年50カ国から約13,000人の映画系の撮影関係者を集めて行われる、ハリウッドで行われる本格的な映画撮影機材専門イベントである。このところの撮影の多角化、ダウンサイジング化などにより、参加メーカー、参加来場者の規模は毎年拡大している。
例年ハリウッドのパラマウントスタジオ内のオールドニューヨークの街並みを模した“NY Street Backlot”での屋外ロケーション(屋外に各社のテントを貼ってそこで機材を露天に展示)を中心に、2つの大きなStage(スタジオ)31、32を使用して機材展示が行われていた。
パラマウントスタジオのメルローズ通り沿いの正門。Cine Gear Expoはいつも正門から入場出来ず、今年は東側のVan Ness通り側の入場のため、広い敷地内を延々と歩かされる
毎年訪れているCine Gear Expoの開催仕様も毎年少しずつ変化があり、それによって行ってみないと分からない思いも寄らない状況が待っていたりする。金曜の午後と土曜日の昼間の計2日間で展示会は行われ、今年は初日の開催時間が12:00pm~8:00pmと少し開催時間が繰り上がった(例年は金曜が2:00pm~9:00pm、土曜は10:00am~5:00pm)。
これは屋外にしか設置出来ない大規模な照明関係の展示が減ったこと、そしてドローン関係の展示が大幅に増えた一方で、パラマウントスタジオの敷地内でのドローン飛行が規制されるようになり、それによってStageを使った室内展示スタジオが増えたこと、そのスタジオ内にライティングメーカーの多くが出展していたことなどが理由かと思われる。今回は天井の高いStage14が新たに増設・開放され、ドローン関係、照明関係の展示を中心に行われていた。
レジストレーションも例年になく効率化。前方にはセキュリティエリアも設けられた
また入場に際しても、今年はいつものGowerストリート沿い(通称:裏口)の入場ではなく、レジストレーションが真反対のVan Nessストリート側に変更。また手荷物検査(便宜的・簡易的なものだったが!)なども行われる等、ある意味で“緩さが楽しいCineGear”も、少しずつ規制の檻に囲まれつつあるようだ。また初日の金曜は大きな撮影が入っていたためか、スタジオ内を含む周辺の駐車場がほとんど空いておらず、我々取材班も2ブロック先のスーパーマーケットに駐車して15分ほど歩いて会場に向かうなど、異例な展開も多かったCine Gear参加になった。
ドローン出展際立つ
会場入り口の脇にあるStage14は、今回新たに主にドローン用に設けられたスタジオ
展示概要については次頁からフォトダイジェストとしてレポートしていくが、今年はなんといってもやはりドローン系の展示が大きく増えた事だろう。しかも驚かされたのは、Cine Gear Expoのオフィシャルパンフレットの表紙までもが、ドローンをモチーフにしたデザインになっていたことだ。そもそも映画撮影機材展であるこの展示会ではあるが、毎回新しいものをいち早くキャッチアップする姿勢は素晴らしい。
実際アメリカではドローン規制もますます厳しくなり、パラマウントスタジオ内でも昨年までは屋外でブンブン飛ばしていたのが、今年は一挙に規制がかかり全てStage14内の限られたエリアだけで試験飛行が行われていたりした。
しかしドローンの存在価値自体は撮影業界でもますます大きくなり、結果として出展も増えている。ハリウッドでも特機としての価値を充分に見いだしている現れだろう。展示会場内にもドローンデベロッパー専用にドローンゾーンがStage27に設けられ、そこでは各社が決められた時間だけテストフライトが許可されるといった飛行展示も盛んに行われていた。
デジタルシネマの今とは
オフィシャルパンフレットの表紙はドローンのプロペラがモチーフに!
さて今年のDigital Cinema Bulow IIIでは、例年通りのCina Gear Expo 2015のレポートをお届けするとともに、近年注目されているNetflixなどのOTT(Over The Top)の現況によってアメリカの映画制作状況に変化が生まれて来ていること、そして話題のHDRなどを中心に、デジタルシネマのいまを探ってみたい。
txt:石川幸宏 編集部 構成:編集部