txt:江口靖二 構成:編集部
CES2017、テレビを巡る空気感とは?
まずは今年のCESにおけるテレビ周りの状況を紹介したい。CESはコンシューマーベースの展示会であるので、放送業界、放送機器メーカーの思惑よりも、よりコンシューマーに近い状況がとてもよくわかる。
テレビそのものに関して言うと、ソニーがついに4K OLEDの市場投入機を展示。確かにその筐体のデザイン性も含めて完成度は高いが、それ以上ではない。映像品質だけで言えば、4K HDRプロセッサー「X1 Extreme」や、薄型バックライト技術「Slim Backlight Drive+」を搭載したLCD機の画質向上が目覚ましい。プレスカンファレンスで平井CEOは今年も「KANDO(感動)」というキーワードを何回か口にした。それに匹敵するような画質ではあるかもしれないが、テレビを取り巻く時代の空気は、CES全体を通して見るとそこではないような気がしてならない。
パナソニックの展示の主役はここ数年を継承してエアラインやモビリティ(クルマ)、リテールといった完全にB2Bである。テレビに関してはやはり4K OLEDを展示したが、よく探さないとどこにあるのか気が付かないような展示だ。あくまでも4Kブルーレイプレイヤーとコンテンツのデモ表示装置という位置づけでしかない。これは製品に自信がないという話ではまったくなく、テレビというハードウェアそのものは主役ではないという話である。
LGのOLED
韓国勢はLGだけがOLED TVを全面に打ち出しているが、「そうですか」といった印象。サムスンは例のバッテリー問題を引きずっているのかわからないが、重たい雰囲気が隠せず、かつてのようなスマートTVを全面的にプロモートしていた頃とは隔世の感すら感じる。
中国勢のTCL、Hisense、Haier、Skyworthはどれも広大なスペースを構えてはいるが、新しい提案はなく、技術的にもまだまだ日韓メーカーには追いつけていない。
どのメーカーにも共通して言えるのは、スマートTVを主軸においている会社がひとつもないということ。これはスマートテレビ=NetflixとAmazonというのが結局の結論だからだ。さて、ではトレンドは何なのか。それはVRである。と言うとたぶん誤解をされると思うので続きを読んでいただきたい。
さらに今年のトレンドを紐解く
Insta360 PROという製品を例に説明しよう。これは360映像をカメラ6台で最大8K(7680×3840)30fpsでHDRとRAWで撮影できる。また4K解像度ではなんと100fpsを達成している。さらにハードウェアによるリアルタイムスティッチング(合成)が可能で、USB経由にSSDなどをつなげば録画ができる。スティッチングはズレや遅延を発生させないためにあらかじめセットされたテンプレートによる合成パラメータではなく、オプティカルフロー、(見た目優先ということ)で合成している。今年の4月に3000ドルで発売される。詳しいスペックはこちらを見ていただくとして、最低限プロユースにも耐えられるスペックであろう。
6台のカメラが配置されたInsta360 PRO
リアルタイム出力された映像
この製品は3,000ドルで8Kカメラの登場という点も驚きであるが、4K/30fpsでライブ配信が可能だ。他にも同社のInsta360 Nano、GIROPTIC社のGiroptic iO、リコーのTHETA SやRなど、続々と360のライブに対応できる製品が登場してきた。写真や録画された360映像では足りない、リアリティやリアルタイムがこうした製品で壁を乗り越えていくのではないか。
壁というのは、マウスをグリグリ動かしたり、スマホの向きを変えたり、HMDを装着するといったような面倒くささを克服する決め手は、「今」であることだ。今しかないから、今この瞬間だから、こうしたVRの「R」の部分を補足し、カバーする。これらはソーシャルメディアにポストされ、もちろん後から見てもいいのだが、今を共有できるところがポイントであると考える。
Netflixなどに代表されるような完パケモノのライブラリー映像は、好きなときに完成度の高い作品を見られるという点で、従来の放送にはできない部分を一定数カバーしている。しかしこうした完パケモノの嘘くささというのが時代の空気感だ。今年はLINEライブが縦動画に移行する。これは大きな意味を持つ。縦以外のポジションがあり得ないスマホでのライブストリーミングが徐々に主流になり、数年後にはこうした360リアルタイム映像に拡大していくのではないだろうか。だがこれが従来の放送局の、将来の仕事なのかどうかはまだよくわからないが。
txt:江口靖二 構成:編集部