txt:小寺信良 構成:編集部
会場に散らばる映像ビジネスの興味深い技術
1月3日からスタートしたInternational CES 2017も、プレスカンファレンス2日、エキジビション4日の日程を無事に終えた。50周年を迎えた今回は会場内で周年にまつわるイベントやモニュメントが見られた。今年の総括はまた別途行なうとして、今回は映像をビジネスにする側から見て興味深い技術をいくつかご紹介したい。
安全なドローン?パナソニックのバルーンカム
昨年発表はされていたが、実物を見る機会がなかったパナソニックのバルーンカムの実物を初めて見ることができた。直径およそ3m、高さ1m、重量2kgの巨大なバルーンで、中央部と四方に穴が空いている。中心の穴部分にはカメラを搭載することができ、この時はInterBEEでも展示されていた、自社開発の360°カメラがつり下げられていた。
安全に空撮ができるバルーンカム
つり下げられていたのは同社で開発中の360°カメラ
周囲の4つの穴にはドローンのようにプロペラが仕込まれており、その下にラダーが付いている。基本的にはバルーン内のヘリウムガスによる浮力で浮いているが、ドローンのようなプロポを使って動きをコントロールできる。連続動作時間はおよそ1時間。
ローターの下にラダーがあり、方向も変えられる
内部にプロジェクタを搭載すれば、内側からバルーンの表面に向かって映像を投影できる。ただし今回の展示では、外側3方向からプロジェクタを使って、360°カメラで撮影した映像を投影していた。
スタジアムでの空撮では、広告スペースとしても使えるだろう。ワイヤーカムのように素早い動きには対応できないだろうが、安全に安定した空撮映像を得る方法としては、ドローンよりも市民権を得そうだ。
レガシーに見えるデジタルサイネージ
デジタルサイネージとしても使える技術が、フラッグマッピングだ。よくスタジアムやイベントホールのコンコースに、広告用の旗が沢山下がっているのを見かけたことがあるだろう。あれは布製の旗に広告を印刷したものを吊るしているだけなのだが、取り替えるのは結構な手間がかかる。もちろん、時間帯に応じて取り替えるというのもなかなか大変な話だ。
そこでそういった広告を、プロジェクションマッピングでやるという技術である。実際に動画を見てもらうとおわかりかと思うが、一見まったく普通に広告が印刷された旗のように見えるが、実は旗の動きに合わせてマッピングする形をリアルタイムで変形させて、旗にぴったりのサイズで投影しているのだ。
一見普通の旗に見えるフラッグマッピング
仕組みとしては、つり下げられた白い旗の4隅に赤外線LEDが仕込まれている。これをカメラで撮影、それで4隅の位置を検出し、旗の形の歪みをリアルタイムで演算し、投影している。
同時に広告に応じた音もプロジェクタ側から流す事ができるため、レガシーな手法に見せかけて高度な広告が打てるわけだ。見ている人は、何が起こっているのか謎のままだろう。
新技術で生まれ変わるTiVo
ラスベガスのメインストリート沿いにあるシーザーズパレスのボウルルームで、新生TiVoの技術を拝見した。TiVoについては若干説明が必要だろう。TiVoとは2003年頃から米国でかなり普及したレコーダーである。自社では工場を持たず、OSとソフトウェアをハードウェアメーカーにライセンスして、TiVoレコーダとして販売するというモデルをとっていた。いわゆる「全録」の走りである。
ただし、Netflixといったインターネット系の映像配信サービスが盛況になるにしたがって、レコーダとしてのTiVoは業績を落とし、近年はCATVのSTBとネット配信が同時に見られるといったスタイルの製品を中心に展開してきた。
そのTiVoが昨年Roviに買収されたのをきっかけに、Roviは社名をTiVoに変更した。買った会社の名前に変えたのは、やはり全米では圧倒的にTiVoのほうが知名度が高いからである。
そもそもRoviも複数の会社の買収によって出来上がった会社で、元の社名はMacroVision。アナログ時代のコピーガードを作っていた会社である。これが番組情報データベースのTV Guideをはじめ、複数の会社を買収合併していった結果、Mac“roVi”sionの真ん中のところをとってRoviという社名になったという経緯がある。
さてそのTiVoだが、旧来のインタフェースはテキストベースで、階層が深かった。10年前は、高速に動作する画期的なUIだったが、今となっては見劣りする。Roviでも番組情報データベースが利用できるSTB向けのUIを開発・提供してきたが、今回TiVoにもその技術を応用し、新しくグラフィカルなUIとなる。Hydraと呼ばれる新しいUIは、今年からスペインから最初に導入され、米国ではQ3かQ4あたりで導入されるという。
TiVoが今年導入する新UI「Hydra」
「賢さ」を求められる事業者
そもそも多くのSTBやVODサービスでは、いわゆるレコメンドを示す部分が重要になっている。ユーザー自身の好みを学習して賢くなっていくのは当然として、さらにオペレータ側がより細かく情報をフィッティングさせていかなければ、他サービスとの競争に負けてしまう。
これを解決するのが、同社が提供するSeamless Insightという分析ツールだ。元々STBからは、ユーザーがどのような番組をどれぐらい視聴したかのデータがオペレーター側に上がってくる。これまでも各オペレータは、それらの情報分析はしていたが、では具体的にその情報を元にどのような手を打てばいいのか、決め手に欠けていた。Seamless Insightは、経営者、プロダクトマネージャー、マーチャンダイジング、エンジニアという4つのレイヤーに分けて、分析した情報を表示する。
例えば経営者向けツールでは、レコメンドのヒット率を表示する。STBだけでなく、モバイルアプリではどうだったか、あるいは新しいSTBと古いSTBの違いなど、デバイスごとのヒット率もわかる。
デバイスごとのヒット率を分析
デバイスが違うということは、ユーザー層も違うということだ。古いSTBでヒット率が低ければ、保守的な層に対しては何らかの別の手が必要ということがわかる。様々な切り口でざっくりとした傾向を見せてくれるわけだ。
マーチャンダイジング向けツールでは、ユーザーが何時にどんな番組を見る傾向があるといったものをグループでまとめることができる。○が大きいほど、特定の傾向が強いグループだ。
ユーザーの試聴傾向を分析し、自動でグループ分けが行なわれる
例えば「朝はニュースを見て、昼過ぎからはドラマを見て、夕方は子供番組にシフトする層」のような形で、ユーザーがグループ化されていく。傾向が強いグループのサービス加入者に対しては、時間帯に応じてより的確なレコメンデーションを行なう事ができるようになるわけだ。
このようなツールの存在は、SVOD事業者だけに留まらず、CATVオペレータのあり方や意味付けも大きく変わらざるを得ない、米国の厳しいコンテンツ事業の現実を表わしている。これまではメディア対メディアの競争であった。例えばCATV事業者とSVOD事業者との競争だったわけだ。しかしこれからはサービス品質の差別化により、同メディア内のパイの取り合いが勃発する可能性を示している。
txt:小寺信良 構成:編集部