制作用のシネ系レンズに新たなメーカーが参入

VRという新しい潮流がある一方、レンズもここ数年で新たなメーカーの参入や新製品が毎年のように出てきている。その数が最も多いのは、制作用のシネ系レンズだ。国内ではフジノンおよびキヤノン、トキナーが積極的だったが、シグマがこの戦列に加わった。海外勢はSchneider、Angénieux、Cooke、ZEISS、ライカといった老舗のほか、中国などからも安価な製品が出ている。

FUJINON PLマウントズームレンズPREMERシリーズ。24-180mm T2.6と75-400mm T2.8

Schneider Xenon FF-Prime Cine-Tiltレンズ25mm T2.1。XenonのシリーズはすべてT2.1に統一されており、25、35、50、75、100mmがラインナップされている

AngénieuxのOptimo Styleのラインナップに今回新たに加わったOptimo Style 48-130 T3

シネレンズは35mmシネカメラ用の、いわゆるスーパー35mm対応を指すのが一般的だったが、REDに代表されるデジタルシネマ用のカメラが登場し、その後キヤノンのデジタル一眼レフカメラEOSの動画撮影機能が注目され、一気に価格的な敷居が下がってきた。

背景には経済的な問題や、センサーをはじめとしたデバイスやメモリーなどのテクノロジーの進化もあるが、ユーザーがこうした機材を渇望していたということだろう。カメラメーカーもこうしたユーザーに向けたデジタルカメラを多数市場に投入してきており、勢いレンズの需要も増えてきた結果といえる。

Eマウント仕様のFUJINON MK18-55mm T2.9。価格を抑えた新たなレンズラインナップのFUJINON MKシリーズ

シグマのデジタルシネマカメラ用ズームレンズ。スーパー35mm対応のレンズ18-35mmT2と50-100mm T2の2本と、フルサイズ対応の24-35mm T2.2FFの計3本がある

シグマのデジタルシネマ用レンズSIGMA CINE LENSシリーズ。単焦点レンズは、20mm T1.5 FF、24mm T1.5 FF、35mm T1.5 FF、50mm T1.5 FF、85mm T1.5 FFの5本でいずれも35mmフルサイズ対応

ただ、従来スーパー35mmといえばPLマウントという常識から、カメラメーカー各社が採用しているマウントへの対応もあり、勢いレンズの種類が増えるという状況になっているという感もある。いずれにしてもいえることは、デジタルシネマ用のレンズは、1インチクラスのセンサーに対応したものでマニュアル操作を基本としている。

トキナーVistaシリーズはすでに18、35、50、85mmとズームレンズ16-28mm T3があったが、今回25mmがラインナップに加わった。単焦点レンズはすべてT1.5に統一されている

マウントはPLのほかEF、MFT、Eがあり、1.6倍リアコンバーターとしてPLマウントのものとPLからEマウントというマウント変換を兼ねたものがある

逆の見方をすれば、古くからある35mmスチルカメラ用のレンズ光学系にそれほど大きな変更を加えなくても作ることができ、マニュアルが基本なので、オートフォーカスや手振れ補正機能、電動ズームといった電気系を組み込む必要もない。ただし、シネ系の制作に特化した外装やT絞り表示などデジタルシネマ撮影に適した設計にする必要はある。

Cooke PANCHRO/i Classic。iシリーズはREDやソニー、ブラックマジックデザインのカメラへメタデータのやり取りができるが光学系は往年も設計を採用したモデル

Cooke S7/i,T2.0 Full Frame Plusシリーズには18、25、32、40、50、75、100、135mmがラインナップされており最新の設計により8K対応となっている

一方、放送系では4K/8Kカメラがカメラメーカー各社から発売になり、SD/HD時代から続いている2/3インチ光学系B4マウントに対応したレンズがキヤノンやフジノンから発売され、ショートズームを含むENG用から中継などで使われる高倍率ズームまで、ほぼラインナップがそろった状況だが、フジノン、キヤノンの2社のみで、ほかのレンズメーカーからは4Kに対応した2/3インチ光学系のレンズラインナップは出ていない。

キヤノン4K/UHD用2/3インチレンズラインナップ。CJ20e×7.8B IASE S、CJ12e×4.3B IRSE S/IASE S、UHD DIGISUPER 90、UHD DIGISUPER 86のラインナップに今回UHD DIGISUPER 27が加わった

これは、2/3インチというイメージサークルのなかで、4K解像度をクリアし、HD/SDと同等な高倍率ズームやショートズームをラインナップをそろえるのが非常に難しいだろう。今までの実績や、事実上ほとんどの放送用カメラメーカーが日本にあるということも関係していると思う。実際SDの時代にニコンが放送用のENGレンズの発売やHD聡明期(まだHDという名称はなく、高品位テレビなどと言われていた)にレンズの試作品を発表していたが、結局撤退してしまったことからもこの分野への参入の難しさが垣間見れる。

ライカの新シネレンズ、M0.8シリーズラインナップ。21、24、28、35、50mmの5本で35mmフルサイズ対応

ENG撮影スタイルで、デジタルシネマ系カメラの使用という現場向けに、コンパクトサイズのレンズに電動ズームを組み合わせるというタイプのレンズはAngénieuxやキヤノンから発売されている。

すでに現場では、ニュース取材などで小型ビデオカメラを利用するのが一般的になり、従来型のショルダータイプのENGカメラは、スタジオや中継用に主に使われている。ソニーや池上通信機、日立国際なども今までのような箱型カメラはすでにラインナップにはなく、ショルダータイプのカメラがスタジオ用や中継用として使えるような仕様になっている。

今までのように、スタンドアローンでこうしたカメラを運用することは少なくなるだろう。従来型のENGカメラの時代は終焉を迎え、各社からのシネマレンズ登場は、新しいカメラの時代が始まるのだろう。その明確な答えを求めて引き続きを取材続けたい。


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