成熟の4Kワークフロー

江夏由洋

大勢に人で賑わうAdobeブース。今年はPremiere Proが主役

注目を集めるような新しいカメラこそなかったものの、4Kプロダクションのワークフローをより効率的に進められる時代になりました。毎年山のような人で賑わうAdobeブースではPremiere Proのアップデートが注目を集めていました。プログラムパネルから直接タイトルを作れるようになり、多くのエフェクトコントロールをシンプルに行えるようになったり、リバーブやオーディオのエフェクトも同様に別パネルで直感的に調整が可能になったのはとても便利ですね。その他にも4K60pの再生機能や、VRやHDR機能が大幅に強化されています。事実上NLEナンバーワンのPremiere Proの勢いは衰えるスキを見せません。

3万円台まで価格が引き下げられたDaVinci Resolve Studio

同じく、ブラックマジックデザインのDaVinci Resolveも大幅にリニューアル。バージョンが14になり、「エンジンが約10倍速くなった」とうたわれていました。顔認識を使った大胆な肌補正や、ディティールの調整、オーディオ編集機能の強化など、カラーコレクションソフトウェアだったDaVinci Resolveは、いよいよ「ノンリニア編集ソフト」として大きな進化を遂げたと言えます。Studio版の価格も従来の約三分の一に改定され、ユーザーの数も一気に増えることでしょう。データ量の大きい4KやHFRの素材を「ガンガン」編集するための環境は、誰でも手にすることができる時代になりました。

いよいよクラウド編集の時代へ。AWSを使ったフローはいよいよ現実的に

クラウドを使った編集フローもかなり熱いトピックです。アマゾンやグーグルがNAB出展を果たし、クラウド編集のソリューションなどを現実的に展開していました。HPのブースで紹介されていたRGS(Remote Graphic Software)を使ったリモート編集のフローも面白かったです。時間や場所を選ばず、高度な編集を行えるなんて!今まで以上に様々なことを要求されるようになるのが、ちょっと怖いですね。

地味にすごい製品群

岡英史

NAB三日目にしてようやく体調を戻しつつ、溜まっていたタスクを片づけるのに必死。夕方最後の時間で見回れなかった気になる部分をピンポイントに確認と言う感じ。3軸ジンバル系の元祖と言えばFreeFlyのMoViシリーズ。ここの展示はジンバルを単体で運用と言うより何かと組み合わせてのスタビライズド・リモート雲台的な発想が非常に気持ちがいい。RCカーや大型マルチコプターと組み合わせたり、ジブクレーンとの組み合わせで風や外部からの振動を打ち消しているので、外用的なNGカットが非常に少なくなるのが特徴だ。

Facebookでも一部話題になっていたDPAマイクロフォンのiPhone用マイクアンプが秀逸。マリモレコーズ江夏(兄)に「すんごいのあるよ!」と連れられて行ったブースがここ。特殊なミニプラグを持つ高級マイクをライトニング変換をさせてiPhone内の録音アプリで収録する物で、流石にマイクが良いとこれがiPhoneでの録音と言うことは中々解わからないだろう。

こちらも一部のレコーディングエンジニアには大注目のサウンドデバイス社の小型機種。元々同社のアンプ部分には高音質の定評があるが、それなりの値段がしてしまう物を、機能を割り切って小型軽量にいる物のサウンドマンとカメラの距離感を考えればノイズ等の問題は無いだろう。勿論接触不良と言う要因は無しと言うのが条件だが、高級ミキサーがこの価格で手に入るのはすごい!

毎度お馴染みの世界各国の放送系展示会に一人で乗り込む孤高のメーカーがLancerlink。いつも一人でトイレもご飯も行けず困っている印象が強いが取り扱っている製品は個性的な物が多い。今回は新製品が無くInterBEEで発表した製品の練り直しで小型4K伝送を展示していた。流石に遅延が1秒位あるのでリニアな部分で使うのは難しいが、単純な収録で良いなら4Kを撮れるのは魅力的だろう。

もう一人の孤高のメーカーはNEP。ここの社長は言えば何でも作ってくれるというので有名な方。筆者もNP-FからVマウント変換を作って貰い重宝している。基本はオーダーメイドが得意なメーカーだが今回はLEDライトの参考出品。3200と5600の2種類の色温度を持ち、光量とスポットワイドを調整できるENGの現場では見慣れた物で駆動はVマウントバッテリー1本でOK!筐体も軽い金属製なのでゴチャ付いた現場で使っても安心感があるはずだ。

今年のNABは大手メーカーの新製品が無くその代りに差分を埋めるようなアップデートが多かった。昨年盛り上がったIP伝送は確実にその先の運用を見初めたワークフローの展示が増え、更にVRも技術系の発表ではなくコンテンツや出力系の話がされる様になっていたのがトレンドとなっていた。それとは別に低価格帯のシネズームが数多く出展されているのも特徴だ。さてイマイチ地味目な今年のNAB Showだったが、来年は今年の分も含めて各社かなり貯め込んだパワーを吐き出す様な言葉も聞く事が出来た。来年のNAB会期は、元に戻って4月初旬のスタート。是非また同じ場所に戻りたいと思う。

LEICAのシネレンズ

栁下隆之

LEICA-Sシステム用のグラスエレメントを用いたイメージサークル60mmのレンズが登場写真業界では少し前から、対角68mm近い大判センサーのデジタルカメラバックが持て囃されていたが、LEICA-Sシステムの対角54mmのセンサーから出力される高精細な画像に、大判センサーへの価値観が変化して来ている。

その価値観の変化の根底は、センサーに最適化されたレンズシステムのマッチングが大きな鍵となっている。そのLEICA-Sシステムのグラスエレメントを応用したのが、LEICAのシネレンズを手がけるCW SONDEROPICが製造する「THALIA」のシネレンズセットだ。

60mmのイメージサークルを持ち、ARRI社のALEXA65のセンサーサイズをカバーすると同時に、コンパクトが外観を維持。95mm径のクランプオンマットボックスが使えるというのは驚異的なコンパクトさだ。15枚羽根の円形絞りを備え、開放から最小絞りまで、綺麗な円形を保っている。

それだけでもワクワクするレンズであるが、ハリウッドでは既に何本かの映画やCMに採用されて、実際に撮影が進められているとの事。それらの作品を目にする日が来るのが今から楽しみで仕方ない。

あっという間の3日間

猿田守一

あっという間の3日間を終える事になった。今回のラスベガスは例年に比べ気温が低くとても過ごしやすかったのが印象的だった。NABに訪れる毎に毎回違うトレンドを垣間見ることができる。今年はHDRが日本のメーカーではトレンドだったようで、各社ともカメラやディスプレイなどこぞってHDRを打ち出していた。既にコンシューマーの世界では大型テレビにはHDR対応の機種が店頭で並べられている光景を目にする。しかしながら実際には日本の放送ではHDRに対応した放送がまだまだ一般的ではないのが現状だ。SD放送からHDに切り替わった時は誰もが驚きを感じた事だろう。HDRもこの時のインパクトにとても良く似ていると感じる。

今回訪れたSonyではHDパネルを使ったモニターでHDR再生を実現させていた。これが実に綺麗に見えるのである。これだけ綺麗に見えるのだったらなにも4Kではなくてもいいのではないだろうかと思うほどである。今後の展開を注目していきたいと思う。

重要なアップデートが目白押し

宏哉

今年は、自分の興味関心のある分野では、期待の新製品やエポックメイキングなソリューションは少なかった気がする。かといって、今年のNABは薄かったのか?と言えばそうでもなく、細かなアップデートやマイナーチェンジが目白押しの、バタバタして盛りだくさんな展示会だったと思う。

インスタントHDR対応のPXW-FS5の映像は鮮烈だった

SonyのPXW-FS5とPXW-Z150のインスタントHDRは、グレーディングを必要としないHDR的手法の提案だ。HDRとグレーディングは切っても切れないような関係だと思っていたが、HDRを日常化するには必要なアプローチだろう。また、既存機種に対してのアップデートで実現可能な点も、HDRが直ぐそこにある事を実感させてくれた。

RM-LP100でGY-HM850/660の2台を制御。最大99台まで制御可能

JVCケンウッドの、リモートカメラコントローラRM-LP100は同社お得意のIPを使ったシステムで、ENGカメラを制御する。RM-LP100は、元はPTZカメラ制御用の遠隔操作コンソールだ。それを用いて、HM850やHM660などのアイリスやホワイトバランス、さらにズームやフォーカスまで遠隔制御する提案だ。フィジカルな制御卓を使うことで、物理的なボタンやダイアルによる直感的な操作が可能になる。

DaVinci Resolve 14とMini Panel。低価格化が加速している

今回、機能的にも金額的も食指が動いたのが、Blackmagic DesignのDaVinci Resolve Version 14だ。単機能的なカラーグレーディングソフトの位置づけから、ここ1~2年で汎用のNLEソフトとしての機能と立場を確立しつつある。同社は、優れた技術や製品を持つ会社を買収しては、それを自社製品に組み込んで、しかも安価に再提供し直すような事を繰り返してきたが、今回のバージョンアップでは昨年秋に買収したFairlight社のオーディオ・ポストプロダクション機能を統合してきた。正直私は、オーディオ編集には疎くて勉強する必要のある分野でもあるのだが、その⼀歩を踏み出すには贅沢すぎるほどの、しかし過不足のないオーディオ編集ソフトではないかと思い、注目している。そして、従来10万円前後だったStudio版の価格が、33,980円という目を疑うような低価格で提供されようとしている。Studio版には、カラーグレーディングで定評のあるノイズ除去機能なども搭載されているため、いよいよ本気で導入したいノンリニア編集ソフトとなってきた。

とにかく、今年も殆ど会場内を見て回れない3日間だった。特にアップデート系は地味で目立ちにくい。しかし重要なものも多く、市場やユーザーがどういった方向性を求めているか、メーカーに見えている需要への回答でもある。帰国後、更に情報を整理して、大切なアップデートを見落とさないようにしたい。


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