txt:西村真里子 編集部 / 構成:編集部

五感を研ぎ澄ませば見えてくること

GoogleがCES2018特設テントやGoogle Assist採用プロダクトブースへのスタッフ派遣、ラスベガスの街中を「Hey Google」ジャックしていた件はすでにレポートしたが、Googleが巨額予算を投下してCES2018に音声認識分野に臨むほどに音声認識が家電、車、様々なプロダクトの中心に位置する印象を受けるCES2018だった。トイレからコーヒーボトルまであらゆるプロダクトが声でコントロールできるのだ。その状況を見たある方が「日本人は人前で声を出すのが苦手だから音声認識プロダクトが普及するの難しいよね」と言っていたが、そのように逃げていたら音声認識が世界のデファクトの時代に乗り遅れてしまうのでは無いか?という危惧も同時に芽生える。日本人の美徳も大事だが、ことテクノロジー領域では世界の潮流に乗っていく必要があるだろう。

さて、音声認識コントロールが当たり前の世界を想像すると、その世界では視覚情報の優位性が私の中で薄れていく。20世紀後半の我々は目から訴えられる情報が主流だったが、これからは声でコントロールし、耳で聴き、鼻で嗅ぎ、皮膚で感じることが視覚情報と共にデファクトになって行くのでは無いか?と考える。すでに私が論じるまでもなく、ハプティクステクノロジーは注目されており、嗅覚に訴えるプロダクトも市場に出ているが、音声認識の普及により消費者サイドも「視覚以外の情報入手、コントロール」に慣れて、五感を活かすプロダクトが市民権を得る速度が加速するのでは無いか?

今年のCESではハプティクスや嗅覚に訴えるプロダクトが展示されていた。フランスのスタートアップhap2Uは2年連続のCES登場だが、スクリーン上に様々な触感をデザインすることができる。デモとして触感で楽しむゲームを紹介していたが、生活に役立つ活用方法としては、車のハンドルに適用すると触感を通じて行き先を教えてくれるそうだ。ドライバーの視覚を奪うことなく行き先を示せるようになる。

フランスのSNIFFY MARKETが展示していたプロダクトに注目した理由は、視覚情報に合わせて嗅覚情報も付加している点だ。例えばお肉を焼く映像が流れると同時に肉の香りが流れる。ワインの映像が流れる際にはほのかなぶどうの香りが流れる。視覚情報だけではなく、においも同時に訴えるとより訴求したいプロダクトの認知が高まる。視覚よりも嗅覚に訴える広告も増えるかもしれない。スーパーマーケットでは特売製品をにおい・香りで宣伝するようになる未来も想像できるだろう。チョコレートの香りが漂う日はチョコレートやお菓子の特売日で、バナナの完熟した香りが漂う日はフルーツ特売日、など。

CESイノベーションアワードを受賞したシアトルに拠点を置くテクノロジー企業AltopaのOblendは、アロマオイルをブレンドすることができるメディカルデバイスで、注目が高まる自然療法を家庭内で行える。西洋医学の薬を飲むのではなく、香りで治療することを目的にしている。外部情報だけではなく、体内情報に対しても香りで対処するケースも増えて行くのだろう。

フランスのスタートアップAurasenseが展示したプロダクトはソファー全体がスピーカーになっていた。曲に合わせた振動をシミュレートするvibro-haptic composition(VHC)を導入し、楽譜と触感のシームレスな融合が体験できるものだ。私はクラシックを視聴したのだが、楽器に合わせて振動箇所が変わり今までに無い音楽体験、リラックス体験を得ることができた。彼らの言葉で言うと「視覚を使わず体全体を使うバーチャルリアリティ体験」を味わえた。

今年はARグラスも複数出ていたのだが、その中でもCESイノベーションアワードを受賞したVuzix Bladeが注目を浴びていた。理由はAmazon Alexaが搭載されたているので、メガネをかけながら必要な情報を音声コントロールで呼び出せるからである。少し皮肉かもしれないが、ARグラスをAlexaコントロールできるのであれば視覚情報は不要で、 声でコントロールし、耳で情報を得るだけでも良くなるかもしれない。

韓国のInnomdle研究所が紹介していたSgnlは指先を耳に当てるだけで通話ができるスマートウォッチバンドで、Body Conduction Unitが音声信号を振動に変換し、指先を通じて耳の中の密閉された空間を鳴らすことによって音を鳴らすそうだ。

我々は声で家電から車までをコントロールし、体全体の振動で音楽を聴き、嗅覚によって消費心を喚起され、指経由で情報を得る快感を得つつある。今までは一部の企業や研究所で起きていたものがスタートアップもプロダクトとして世の中に出しつつある。どのような五感活用プロダクトが覇者となるのか?文字通り体全体で検証して行きたい。

txt:西村真里子 編集部 / 構成:編集部


Extra.01 [CES2018] Vol.01