txt・構成:編集部

映画業界の祭典〜Cine Gear 2018開催!

今年も映画撮影機材の専門展示会「Cine Gear Expo」が米ハリウッドの中心、パラマウントスタジオ内で6月1~2日の2日間にわたって開催された。今年で22年目を迎えるCine Gear Expoは、主に映画撮影現場で使用されるカメラ、特機、周辺機材などを一堂に集めた、完全に映画制作者向けの展示会である。

面白いのが、会場が展示会のためのホールではなく、映画の撮影所で行われることだろう。まさにハリウッド映画のロケ現場で、本場ハリウッドの楽しい雰囲気の中で開催される。

特機を中心にクレーンや特殊撮影用の走行車両など、どれも映画撮影機材に特化された撮影周辺機材が並ぶ世界屈指の映画撮影機材イベントだ。なかなか日本では見られないメーカや機材が目白押しなのである。

先々月に開催されたNAB Showや他の放送機材の展示会とは異なり、まさに映画に特化したイベントとなっている。恒例となったCine Gearのレポートを通して、映画業界で起こっている潮流を紹介していこう。

■特集:Digital Cinema Bülow VII Index

REDのDSMC2で動作する「DXL-M」を発表

PanavisionのDXL-M

Panavisionは、Cine Gear開催前にREDのDSMC2カメラで動作する新しいカメラアドオン「DXL-M」を発表。Panavisionはデジタルシネマカメラシステム「DXL」をラインナップしているが、「その小型版はないのか?」という要望が高かったという。そこで、‎REDの‎DMS2にセンサーはMONSTRO 8K VVのシステムの後ろにモジュールを搭載する構成で実現をしている。

DXL-Mの後部のユニット

モジュールには、DXLに近いような拡張機能を設けながら、DXLより小さくできる。DXL-Mの「M」はminiの略ではなくmoduleの「M」。中央のカメラのボディは、REDのDMS2専用で、DSMC1には対応しない。センサーはMONSTRO、HELIUM、GEMINIなど特に問わない。

今年2月にロンドンのBSC Expoで発表されたDLX2との違いは、DXL2はあくまでもDXLの筐体にMONSTROセンサーを搭載したもの。DXL-MはDMS2のボディにモジュールをつけた形でDXLっぽくするような感じのものとなる。

DXL-Mは、従来のPanavisionと同じレンタルオンリーでの利用を予定している。しかし、モジュールだけの販売も行うかもしれないとのこと。

今年2月に発表したDXL2

世界に1本しか存在しない大判対応のアナモフィックレンズ

PanavisionのUltra VISTA。2019年のQ1かそれ以降に発売を予定

Panavisionはフィルム時代からUltra Panavisionを使うことにより、スコープよりももう少し大きい2.76:1のワイドな画角を作ることができていた。DXLでもセンサーは1.9:1の画角で、アナモフィックに1.6xスクイーズを入れると超ワイドスクリーンの2.76:1のアスペクト比を提供できる。

新しく発表されたUltra VISTAでも、DXLの大判センサー用に1.6xのスクイーズを噛ませば2.76:1のワイドな画角を撮影可能という展示が行われていた。Ultra VISTAは世界に1本しか存在しない作りたてのレンズで、きれいなアナモの画が出るので需要が期待できそうとのことだ。

Ultra VISTAで撮影中のモニターの様子

T1.4を実現した大判対応のPanaSpeedシリーズ

Primoシリーズのレンズは人気だが、スーパー35しかカバーできない。そこで次世代版として登場したのがPanaSpeedで、大判フォーマット、フルフレームをカバーし、T値は1.4のスピードを実現。焦点距離はまだ未定だが、すべてT1.4でリリース予定。

PanavisionはすでにPrimo 70シリーズという高解像度を実現したレンズシリーズをリリースしているが、PanaSpeedは高解像度の面で70シリーズより1つ下がるものの少し暖かい色合いを出す昔のPrimoシリーズのレンズに似た質感を特長としている。

アナモフィックのフレアーが出る「アナモフィックフレアーアタッチメント」

アナモフィックのフレアーが出るアダプター「アナモフィックフレアーアタッチメント」を展示。通用のレンズに付けるだけでアナモフィックのフレアーを光学的に見せることができる。

アナモフィックはレンズが高価で数量も出ないが、アナモフィックの効果を求める人は多い。そういった人に最適なアダプターといえるだろう。

アナモフィックフレアーアタッチメントを装着して、レンズに向けてペンライトを点灯させて撮影をした様子

鏡胴からギアを排除したドローンやジンバル向けのシネマレンズ「Primo X」

「Primo X」は内部にモーターを完全に収納するドローンやジンバル向けのシネマレンズ。鏡胴の外面にギアがない。外部で動くパーツを排除しており、密閉したレンズが実現できる。ドローンでの撮影は防塵が重要で、ダストがレンズの中に入って故障の原因となっていた。また、外付けのモーターを搭載すると、バランスが崩れたり空気抵抗の問題も起こる。そんな問題に対応するために密閉したレンズを実現したという。

操作は、外部からコントロール可能。プライムレンズには24mmと14mmがリリースされており、Primo 70シリーズと同じ光学系を使用している。

露出を調整する新しいアプローチのバリアブルNDフィルター「LCND」

試作展示として注目を浴びていたのが「LCND」と呼ばれるバリアブルNDフィルター。液晶の技術を使ってNDフィルターを実現するというもので、ボーイング787の透過光量を5段階に電動で調整できる電動式のシェードをイメージしていただければわかりやすいと思う。関連会社となったLEE Filters社との共同開発だという。展示のデモ機ではボタンを押すごとに3、6、9、12、15、18ストップと6段階に変化する。また、高い精度で1ストップごとの2、3、4、5、6のように変化させることもできる。

夕方の撮影で露光が微妙に変化する際に、NDフィルターを入れ替えなければいけない場合があるが、カメラがクレーンの先についていると交換が困難となる。しかし、LCNDなら一発で露出を瞬時に変えられるといったシーンで発揮できる。

使いやすいワークフローをシネマ業界に提供していきたい

Panavisionはカメラ、レンズメーカーでありながらそのビジネスモデルはレンタルにある。日本ではあまり使用する機会は少なくはないが、やはりハリウッドの雄である。そのブランド力は相当なものだ。ブース裏には、Panavisonロゴの入ったグッズコーナーが設けられ、販売されていたが異常な人気を誇っていた。これもやはりPanavisionブランド力の強さを物語っているものといえよう。

最後に、Panavisionの貞廣春樹氏に今後の動向について聞いてみた。

PanavisionのR&D技術部 製品開発ディレクター 貞廣春樹氏

貞廣氏:日本では、Panavisionの機材は三和映材社様から借りることができます。弊社の代理店でもあります。日本でも、ぜひ使って欲しいと思います。

また、今年はDXLシリーズのカメラを出しましたが、ワークフローを積極的に拡張していく予定です。カメラ的には昔から孤立気味でしたが、もっとポストプロダクションに便利なカメラを作っていきたいと考えています。ポストに優しい、ポストで使いやすいカメラにしていきたい。そのため、ファームウェアのアップデートはポスト向けの機能が多くなっています。

それと同時に、大判フォーマットを機会に、便利なレンズ、きれいなレンズ、アーティスト的な凄い特長のあるレンズなどを積極的に出していきたい考えています。レンズとポストプロダクションを改善して、さらに使いやすいシステムを実現していく予定です。

txt・構成:編集部


[Digital Cinema Bülow VII] Vol.02