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Supreme Primeのルック、小型化、軽量を実現できた理由を明かす!
カールツァイスは5月24日、新しいハイエンドシネレンズシリーズ「Supreme Prime」(スプリームプライム)を発表。さっそくCine Gear Expoのカールツァイスブースでも展示され、大注目の存在となっていた。そこでカールツァイスの小倉新人氏にSupreme Primeの特長を聞いてみた。
カールツァイス株式会社 リージョナルセールスマネジャー 小倉新人氏
――1975年にSuper Speed Mk.I、1998年にUltra Prime、2005年にMaster Primeと発売してきて、今回の新製品で「Supreme Prime」と名付けた経緯を教えてください。
Supremeという言葉には、「最上の」という意味があります。昔、邦題で「至高の愛」というジョン・コルトレーンのアルバム「A Love Supreme」がありましたが、我々は現代のシネレンズ界に「最高のもの」を届けよう、ということでつけた名前です。
我々は、今までPLマウントの単焦点シネレンズに「Ultra」や「Master」などの名前を使ってきたのですが、今回は少し別の次元のレンズという意味が込めています。基本的には、従来の製品のMaster PrimeやUltra Primeの間を位置するレンズでありますが、Master PrimeやUltra Primeはスーパー35mmフォーマットですので、Supreme Primeは新時代のフルサイズセンサーに対応したMaster Primeクラスのレンズとして発売します。
カールツァイスブースの一部の様子。Supreme PrimeやCP.3などを展示
Cine Gearの会場を回ってもスーパー35mmフォーマットのカメラはたくさん展示されていますし、スーパー35mmフォーマットのレンズもまだまだ必要とされています。ですから、Supreme Primeが既存レンズをすぐに置き換えるということではなく、映像制作者達に新しいオプションを提供する、ということなのです。しかし今後5年や10年経ったときには、Supreme Primeが時代の主役を担っているかもしれません。そういうことで、弊社の次世代のメインストリームを担う戦略モデルでもあります。
弊社のシネレンズの特長として、長寿命製品であっても敢えて仕様を変えずに作り続けている、ということが挙げられます。例えばUltra Primeは発表以来18年間以上も生産継続しておりまして、その間に弊社としてはコーティング技術もレンズの設計製造技術もどんどん新しいものが社内に蓄積してきています。ところが弊社が提供するレンズセットは、いったん製造を開始したらずっと同じ仕様でずっと作り続けています。
というのは、例えば15年前にUltra Primeを導入した会社が、今年になってさらに1〜2本Ultra Primeを買い足したら新しいレンズだけルックが変わっていた、というようなことを避けるためです。なので、新しいコーティング技術やレンズの製造技術を持っているのだけれども、それを製造に反映できないというジレンマが弊社にはあるのです。
このようにして、過去何年もかけて蓄積してきた新しい技術、例えば、ガラス1枚あたりの屈折率を上げて構成枚数を減らしてレンズ全体を小型軽量化したり、あるいは小型鏡胴でありながらラージフォーマット・センサーをカバーする大きなイメージサークルを設計するなど、これまで温めてきた技術を詰め込んだのが今回のレンズなのです。
たとえば開放値T1.5で、十分なイメージサークルと周辺光量ならびに周辺解像度を確保して、焦点距離85mmや100mmでフロント枠径95Φを実現する、というのは結構驚異的なことです。現在の技術でUltra PrimeやMaster Primeを作り直せばもっと小さくできるかもしれませんが、先ほど述べた理由により途中で仕様変更は許されません。そういった意味で、Supreme Primeは新しい技術をまとって新たな立ち位置に収まる、という感じです。
特に今回のCine Gearでは、100mm T1.5を初お披露目しました。同業者からも驚かれたのですが、従来比で大幅な小型化を実現しています。
Cine Gearで初展示されたSupreme Prime 100mm T1.5。この焦点距離とT値でありながら非常にコンパクトだ
100mm T1.5を前から見ると前玉に大口径のガラスを採用しているのがわかる
16枚の絞り羽根で絞りの形はほぼ円形を実現している
――Supreme Primeのルックの特長を教えてください。
今までのMaster Primeは大変シャープなのですが、演者の肌荒れが全部写ってしまうと言われていました。そこで今回のSupreme Primeでは、合焦点はシャープだけれども、アウトフォーカスにいくに従ってボケが大きく、しかもそのボケが柔らかく繋がるようにしています。
これはボケやフレアだけを研究している専門の設計者に頼んで、過去2年間半ずっと研究を行ってきた成果です。こうした新しい技術を反映しているので、同じ焦点距離でもUltra、Master、Supremeの3本では全部写りが異なります。色のトーンは揃っているのでミックスをしても問題はありませんが、レンズを交換すると如実に画に現れてくるかなという感じはします。このあたりは使用カメラと作品意図によって使い分けて頂けると良いと思います。
――Supreme Primeと同様にフルフレームに対応するCP.3とでは、どのような違いがありますか。
CP.3は、5,000ドルから7,000ドル付近の価格帯で販売しており、中小のプロダクションや若手の映像作家が所有して、ソニーのPXW-FS7やキヤノンのEOS C100、EOS C200などを使っている制作現場に向いているレンズです。しかし、あの描写性能と大きさと価格帯とのバランスを実現するためには、開放値をT2.1以上に明るくすることは困難でした。
しかし、劇場公開映画や大予算コマーシャルなどを制作してらっしゃる方々にとっては値段やサイズはさておき、実際に使用頻度は高くはなくともT1.5のスピードがあること、高画素カメラに付けても充分な光学性能を有すること、などの要素がSupreme Primeを選ぶ動機につながります。昼でも夜でも使える絞り値の幅が広いということは非常にありがたいはずです。
実際の光量はNDフィルターで調整するにしても、開けたいときに開けられる保険や、被写界深度の描写はT1.5とT2.1とでは大きく違うので、そういったシビアなニーズがハイエンドの方々にあるはずです。そのため、Supreme Primeは高価でも明るくて高精細なレンズを必要としているという映像制作者と、その方々が利用するレンタル会社に向けたものです。そういう意味では、Master Primeを使ってらっしゃるお客様と同じ層になると思います。
ブースにはソニーのVENICEとSupreme Prime 85mmを組み合わせて展示されていた
――イメージサークルが 46.2mmになった理由は何ですか?
レンズ1本1本を見ていけば、さらに大きなイメージサークルを実現することも出来るのですが、シネプライムはやはりセットとしての総合性能が重要です。13焦点距離のすべての仕様を吟味して、どの焦点距離でも高い描写性能を担保しつつカバーできるイメージサークル、というところで割り出したのが46.2mmでした。
――Supreme PrimeはT1.5と明るいながら、95mm径と小型、軽量を実現しているのに驚きました。技術的なブレイクスルーなどありますか。
詳しくご説明できませんが、絞りを中心にしてレンズを前群と後群を分けて見た場合、後群のパワー配分を上げたという要因が大きいです。これは特に広角レンズで如実に現れています。なので15mmと18mmはT1.8で114Φ、21mm以上は100mmまですべてT1.5で95Φ通し、というのは他社に前例がありません。これはやはりここ5〜6年の技術革新と素材革新によるもので、過去には成立しなかった仕様ですね。
レンズはカメラに比べれば成長の速度というのは遅いですけれども、それでもこの3年から5年の間で色々な課題が克服できるようになりました。たとえば、鏡胴の素材に関しては、ARRI社の新製品レンズはシネレンズとしては世界で初めてマグネシウムを素材として採用しました。我々のUltra Primeは真鍮で、Master Primeの時は真鍮とアルミニウムの複合で、Supreme Primeはアルミの比率を更に上げています。そのため、全体的なバランスも向上し、さらに軽量化を実現しています。
――レンズマウントについて教えてください。標準はPLレンズマウントでLPLマウントやキヤノンEFマウントも変更できるということでしょうか。ARRIはPLマウントからLPLへ変更する「PL-LPLアダプター」を純正で用意しています。それなのになぜSupreme Primeではカールツァイス自身がLPLマウントを用意しているのですか。
アダプターは便利なのですが、これを使うことによりカメラとレンズとの間にひとつ可変ファクターが入ってしまい、これによってシム1枚〜2枚程度に相当するフォーカス誤差が発生しないとは言い切れません。Supreme Primeでは、レンズ側でマウントごと変える方式を採用しており、アダプターを使うことはありません。
Supreme PrimeのPL/LPLマウントは、丈夫なトルクスビス8本でがっちり固定された一体化構造を実現しており、僅かな遊びもなくARRI ALEXA LFカメラに装着することができます。こうした取り組みは生真面目だと思われるかも知れませんが、大判センサー、大画面観賞の環境においては必ずや使い手の安心・メリットとなります。
――最後に、スーパー35mmフォーマットのレンズは消滅の方向に進むのでしょうか。カールツァイスのシネレンズのアピールをお願いします。
冒頭でもご説明しましたが、スーパー35mmのレンズはすぐにはなくなりません。しかし、大きなイメージサークルを持つレンズを小さなセンサーのカメラに付けても問題なく使えるのは確かで、大は小を兼ねると言うことができます。
これまでのフルサイズ対応のレンズだと大きくなりすぎてしまう問題がありましたが、Supreme Primeではスーパー35mm用レンズとほぼ同じ外形を保ちながら、35mmフルフレームをカバーできますし、周辺光量と解像度もスーパー35mm用レンズのそれを上回ります。こうした新しい価値を提供することによって、スーパー35mm用レンズから置き換わることが予想されます。
Supreme Primeでは焦点距離を15mm超広角からラインナップしているのは、スーパー35mmフォーマットで見慣れている画角に対して違和感がなくレンズを選んで頂けるように、という配慮からです。ですので、今後は多くのユーザー様にスーパー35mm・35フルフレームの使用カメラを問わず、ぜひSupreme Primeをお試し頂き、その描写と解像力に触れて頂きたいと考えています。
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