txt:江夏由洋 構成:編集部

年々盛り上がりを見せるCine Gear Expo

お祭りイメージで機材が展示されていてる感じが、とてもいい。距離が近い!

映像機器の展示会といえばラスベガスで毎年4月に開かれるNABが有名で、その規模も世界最大といっていい。放送機器展という枠から発展し、数多くのカメラ、オーディオ機材、編集ワークフローなどが一気に集結する。その会場の広さだけでなく、参加企業の多さや、ブースの大きさ、そして来場する人の数は圧倒的だ。ところが最近、そのNABの2ヶ月後に開かれるCine Gear Expoにも参加する人たちが増えている。そして私も遅まきながら初参戦することになった。

Cine Gear Expoは毎年6月にハリウッドで開かれる。場所は様々な映画やドラマなどの撮影舞台になったパラマウントスタジオ。NABとの違いは、あくまでも「映画撮影」に特化した機材展示がコンセプトになっているところだ。ただ昨今、映画とテレビ、あるいは広告撮影などの機材やワークフローはかなり融合しているため、ミリオンスケールの制作だけにとらわれず、大小さまざまなプロダクションに合わせた機材などもCine Gear Expoでは多く展示されている。ミラーレスカメラだけでなく、三脚やモニターなど、誰もが所有できるようなものも沢山見ることができるのだ。

また実際の撮影スタジオを使って開かれるので、各ブースの大きさは広くもなく、会場規模もNABに比べ小さいのだが、なんといっても本場ハリウッドのパラマウントスタジオを使って開かれるとなれば、展示する企業と参加する人たちの距離感が圧倒的に近い印象だ。外のブースはみんなテントだし、通路も狭い、運営もちょっと雑、みんなビール片手にワイワイやっているという展示会といえる。

新製品発表も多いCine Gear Expo。カールツアイスのSupreme Primeも初お披露目

ただ最近、NABではなくCine Gear Expoに重点を置く企業が増えている。例えばRED Digital CinemaなどはNABからの撤退を3年前に決定し、展示会はこのCine Gearだけに絞っているし、SonyもこのCine GearにあわせてハイエンドデジタルシネマカメラVENICEの新機能をここで発表。カールツァイスの新製品も今年はこのCine Gear Expoで初お披露目となった。今年始めて訪れたため、その盛り上がりを過去と比較することはできないが、とにかく人が多い!というのと明らかに年々注目度を上げている展示会と言っていいだろう。

トレンドは「大判」。各社ラインアップも充実

映画アバターの続編もVENICEで撮影。展示のメインに

実際に使われた特別仕様のVENICE。センサー部と記録部がケーブルで繋がれている

今年のデジタルシネマのトレンドはズバリ「大判」である。Sonyは去年発表したVENICEを更にバージョンアップさせ、ハイスピード撮影などの機能も含めて新しい発表を行った。ブースでは映画「アバター」の続編でVENICEが使われていることを展示のメインに掲げ、実際のアバターで投入された特別仕様のVENICEを展示。VENICEが捉える美しい映像や、16bitシーンリニアが繋ぐ効率的なワークフローが各所で実戦投入されていることを発表していた。いよいよソニーのフルサイズのデジタルシネマがハリウッドで本格起動することになる。

ALEXA LF。ARRIもいよいよラージフォーマットへ

C700のフルサイズバージョンも

またARRIはALEXA LFで、REDはVV Monstroでラージフォーマットのカメラをラインナップにあげ、CanonもC700のフルサイズバージョンを発表し、カールツァイスはフルサイズ対応のプライムレンズセット「Supreme Primeシリーズ」のリリースを発表。デジタルシネマはS35mmの枠を飛び越えて、フルサイズ規格の世界へ本格的に進むことになった。これによって、あらゆる角度から、フイルムが描き続けたアナログの世界は完全にデジタルによって置き換えられることになる。

新製品GEMINIの低照度比較。2ストップDレンジを動かすことができる

個人的にはREDのブースも印象的だった。しばらくNABでも見ていなかったのもあるが、非常にシンプルな展示スタイルわかりやすかった。新発売となるカメラGEMINIの低照度による比較撮影を中心に、最高スペックを誇るVV Monstroを展示。PanavisonではREDとの共同開発で完成したカメラMillennium DXL2の実機にふれることができた。R3Dが持つさらなる未来にはいつもワクワクさせられる。

Millennium DXL2。デザインも秀逸

ミラーレスも注目。照明や三脚、モニターも

MKXもいよいよ6月リリース予定。X-H1との組み合わせでミラーレス動画の歴史を変える

一方でミラーレスのソリューションも市場は活性化している。富士フイルムは6月中旬には出荷を予定しているシネマレンズのMKXをメインに掲げ、今年の頭に発売となったX-H1とのシネマワークフローを展示。ハリウッドのズームレンズを支えてきたFUJINONの技術がいよいよ自社のカメラで開花することになる。Sonyのαシリーズも人気で、会場では多くの人がカメラを手にとって新しい可能性を探っていた。

Cine Gear Expoでは照明機材が豊富に展示されているのも特徴だ。光源がLEDメインとなる中で、色温度やRGBによるコントロールがより自由度を増し、価格を抑えたシリーズが数多くのブースで展開されていた。三脚やモニターの展示も様々で、オールドニューヨークのセットの中を歩きながら各テントを回るのは実に楽しい。あっという間に2日間が過ぎてしまった。

ハリウッドを支える日本の技術力

またレンズやカメラに込められた日本の技術力の高さを実感。本場ハリウッドを日本の様々なブランドが支えていることを見られたのも少し誇らしかった。一方でハリウッドの映画産業はとても開放的だ。こういった機会を通じて全ての人に次世代の可能性を提案する姿勢は素晴らしいと思った。是非ともまた来年訪れたいと感じる。

txt:江夏由洋 構成:編集部


Vol.05 [Digital Cinema Bülow VII] Vol.07