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歪みを抑えたファクトリーオートメーション用レンズをマイクロフォーサーズ用レンズで実現

興和光学がマイクロフォーサーズ対応レンズで30年ぶりにカメラ事業へ復活したのは2014年のこと。復活の話題は落ち着きつつあるが、GH5やGH5S、Blackmagic Pocket Cinema Camera 4Kなどの登場によってPROMINARへの注目度は衰えていない。

興和光学の角井氏にマイクロフォーサーズ用PROMINARの魅力を聞いてみた。

――興和光学はどのようなメーカーですか?

親会社が興和になりまして、かぜや鼻炎の「コルゲンコーワ」や胃腸薬の「キャベジン」でお馴染みの会社といえばわかりやすいと思います。

興和自体は2018年で創業124年の会社で、紡績業からスタートしました。その後、戦後に医薬品分野や光学分野へ進出して事業を拡大しました。興和光学は、興和から交換レンズや双眼鏡などの光学関係を完全に分社化した100%興和グループの子会社です。

興和光学の売り上げの主体は、ファクトリーオートメーション用レンズやセキュリティ用レンズです。工場にはいろいろな測定機械がありますが、そのレンズ部分を弊社が展開しています。コンシューマー向けでは、双眼鏡やスコープ、スチル写真用のレンズ群を展開しています。

興和光学 国内営業部コンシューマー課 角井渉氏

――御社のファクトリーオートメーション用レンズにはどのような特徴がありますか?

ファクトリーオートメーション用のレンズに一番求められるのは周辺まで歪みがないことです。例えば、レンズは広角になると円形に歪んできますが、ファクトリーオートメーション用レンズでは歪みは許されません。もし周辺が歪んでいたら何の測定もできなくなります。

そのため、光学性能自体で品質を上げています。それが実は映像用レンズと一緒で、映画も歪むわけにはいきません。そこで、すでに発売されているファクトリーオートメーション用レンズを応用して実現したのが3本のマイクロフォーサーズ用単焦点レンズです。ですので、弊社のマイクロフォーサーズ用レンズの一番の強みは周辺部の歪みの少なさになります。

映像業界からの強い要望でカメラ業界に再参入

――興和はかつてコーワシックスなどカメラやアナモルフィックレンズを手掛けていたことでも有名ですね。

光学分野に進出した当時は興和本体の中に事業部がありました。カメラメーカーとして、1954年より二眼レフカメラ「カロフレックス」の販売でスタートし、約25年間、製造、販売を行っていました。その中の一環として映像用レンズも作っていまして、シネマ用レンズが大変に好評でした。一時期はシェア90%を超えるほど興和のPROMINARが使われたと聞いております。

しかし、1978年に撤退しました。当時、カメラは海外輸出が主体でので、急激な円高で輸出が激減したこともありまして事業自体を一度閉鎖しました。その後、2014年9月に3本のマイクロフォーサーズ用マウント単焦点レンズを発売しまして、30年ぶりにカメラ事業への再参入を実現しました。

興和は数々の独創的でユニークなカメラを作り続けていた。その中でもコーワシックスは有名だ

――何がきっかけで再参入を決めたのでしょうか?

映像業界の方から描写力の高いレンズが作れないかと強い要望を頂きました。そこでいろいろと調べてみましたら、私共が先ほど申しましたファクトリーオートメーション用のレンズ設計と映像業界の考え方がそっくりでした。そこで映像業界向けのレンズとして実現したのがこちらのマイクロフォーサーズ用単焦点レンズになります。

発売前は、こじんまりと販売できればと考えていました。ところが、30年ぶりの再参入にも関わらずPROMINARの名前を多くの皆さん覚えていらっしゃったのには驚きました。おかげさまで、当初予定していた以上の販売本数を出荷することができました。

双眼鏡やスポッティングスコープの一部の上位モデルだけに採用されているPROMINARブランドを継承している

――復活にあたり、マイクロフォーサーズ用を選んだのはなぜでしょうか?

マイクロフォーサーズ用レンズは、ファクトリーオートメーション用の技術をそのまま応用しています。ですので、マイクロフォーサーズのイメージサークルまでしか対応できませんでした。正確にはAPS-Cサイズはカバーできるのですが、フルサイズのイメージサークルはカバーできません。また、ラインナップが単焦点レンズなのは、ファクトリーオートメーション用のレンズにズームレンズがラインナップされていないからです。

当社の強みは周辺部が歪まない広角レンズです。ですので、広角系のラインナップを充実させていくことにしました。マイクロフォーサーズは25mmの焦点距離が標準レンズですので、標準から広角の間の3本をラインナップすることにしました。

3本の中でも8.5mmがダントツの人気です。恐らく12mmと25mmは、他社さんでもラインナップされていて、8.5mmはほとんどランナップされていないからだと考えております。

動画撮影とスチル撮影の両方に対応したレンズを実現

――動画撮影向けとしてどのような搭載を搭載していますか?

3本のPROMINARは、最初から映像業界向けに開発をしています。映像業界も進歩していて、ハードウェアの小型化が進んでいます。例えば最近は、食べ物をレポートする食レポのような撮影は、一眼デジカメを使った撮影が増えています。

動画撮影のデジタル一眼カメラはカメラはマイクロフォーサーズが中心で、撮影の需要が増えてきています。同時に、マイクロフォーサーズのしっかりと性能をもった交換レンズが必要とされていました。

ただし、映像向けに限定た交換レンズにしてしまうと、非常にマーケットが限られてしまいます。そこで、スチルカメラ用としても兼用できるレンズを目指しました。

動画撮影用レンズとしてもっとも特徴的な機能が、デュアルリンクアイリスボタンの搭載です。通常の絞りリングは回すとカチカチカチと音がするのですが、デュアルリンクアイリスボタンをセットしていただくことで絞りリング操作を無音にできます。

3本のレンズで映像を撮影された際に色味が一切が変わらないのにもこだわりました。8.5mmで撮影をした後に12mmにレンズを変えたら色味が変わってしまったのでは使い物にはなりません。PROMINARは、どのレンズを使っても色味が変わることはありません。

動画撮影向けなので鏡胴にはF値とT値の両方が表記されている。また、絞りリングを回してもクリック音がしないモードも備えている

リングをギア式にしたシネマ向けマイクロフォーサーズマウント専用単焦点レンズも発売

――鏡胴にはどんな材質を使っていますか?

鏡胴はアルミベースで、マウントは真鍮の全て削り出しです。ですから、それなりの重量感あります。近年の交換レンズはオートフォーカスレンズがほとんどですが、あえてマニュアルフォーカスレンズで発売するところにもこだわりました。

実は重量感もこだわっています。最近のカメラ業界には、オートフォーカス対応で鏡胴は軽量で使いやすいプラスチック製が増えています。弊社の交換レンズは、買って頂いたお客様に喜びをぜひ味わっていただきたいと思い、アルミベースである程度の重量感をわざと出しています。文字もレーザー彫刻しています。

デザインにもこだわりがありまして、オーソドックスでクラシカルな外見を実現しました。

鏡胴には一切プラスチック部品は使っていない。アルミ合金をベースに削り出したもので文字もレーザー彫刻で刻印している。フォーカスリングは心地よいトルク感を実現している

――交換レンズの外装に3色ものバリエーションを用意しているのには驚きました。

黒とシルバーは当たり前のカラーバリエーションですが、さらに興和のコーポレートカラーであるグリーンバージョンを用意しました。興和製品はグリーンで統一していますので、一目で興和の製品とすぐわかると思います。

実はグリーンは売れないと想定していましたが、意外と売れました。一番人気はどんなカメラでもマッチします黒です。次にグリーン、シルバーの順番です。

展示会とかで持っていらっしゃるお客様にグリーンを選んだ理由を聞くと、せっかく興和の交換レンズ買ったのでグリーンにしたという人が多数でした。

グリーン、シルバー、ブラックの3色のカラーバリエーションをリリース

――PROMINARのシネマ向けのモデルも発売されていますが、何が変更されていますか?

シネマ向けモデルは、2016年7月に発売をしました。映像関係の方からギア対応してほしいというご要望ありまして、対応したのがこちらのモデルになります。フォーカス部分とアイリス部分をギア式にしたことで、シネマ撮影シーンで使いやすくしています。

また、金色と黒のカラーバリエーションを用意しました。しかし、売れたのは黒ばかりで、金色はほとんど売れませんでした。実は、塗装代の関係で金色の定価は高くなりました。金色は現在販売しておりません。シネマ向けモデルは映像専門店のみでオーダーすることができます。

フォーカス部分とアイリス部分をギア式に変更している

カラーバリエーションに金も用意されていたが、現在は販売されていない

――気になるのがラインナップの拡充です。最後に今後の新製品などを聞かせてください。

もちろん新製品は常に検討してます。現在は、マイクロフォーサーズだけを展開していますけど、今後はマイクロフォーサーズの中でも焦点距離の機種を増やしたり、キヤノンやニコンに対応するモデルも企画できたらと考えています。

txt・構成:編集部


Vol.05 [新世紀シネマレンズ漂流:もの作りの現場から] Vol.07(近日公開)▶