txt:石川幸宏・編集部 構成:編集部
今年のトレンドを探る
毎年9月にオランダ・アムステルダム市街地にある、RAI会場で開催される、欧州最大の業務用映像・音響の専門展示会「IBC(International Broadcasting Convention)2019」が、9月13日~17日の日程で、例年通り開催された。4月のNAB Show、11月のInterBEE等と同様に、この9月はIBCがヨーロッパ圏内の放送局に向けて、放送分野を中心とした最新映像・音響技術の展示会イベントとして長年親しまれている。
オランダの空
金曜日が初日で、翌週火曜が最終日という、土日を挟んだ5日間と比較的長い日程で開催される。今年は開催4日目の16日の朝だけが雨天だった以外は、オランダ独特の低い海洋性の雲が青空の間に浮かぶ晴れの日が続き、天候にも恵まれ初日から多くの来場者が押し寄せていた。
ホール14
RAI会場は非常に複雑な作りで、毎年新たな建物も増設改築されており、当然ながらIBC自体も増殖し続けている。今年は昨年と同じく15のホールが設置され、既存のRAIの全てのホール施設にプラスして、ホール13、14、15はIBCのための特設テント会場が増築されている。概ね例年通りの配置で展示されるが、毎年のトレンドに従って、少しずつの変貌があり、市場の動向がそこからも見えてくる。今年も数回に分けてIBC2019を振り返ってみようと思う。
- Vol.01 今年のIBCの印象と目立った新製品発表
- Vol.02 豊作の秋を感じる賑わう会場から~カメラ、レンズなど注目の新製品と動向
- Vol.03 今後の映像業界を牽引するのはGAFAではなく中国勢になる
- Vol.04 IP、リモートカメラが変える映像現場の未来
- Vol.05 メディアとエンタメにおけるブロックチェーン利用状況の進展が少ない訳とは?
- Vol.06 メディアやエンターテインメント領域のAIと機械学習
- Vol.07 SIGMA fp発売直前、一台のカメラに二つのカメラが共存す!?山木社長と若松氏に聞く
- Vol.08 聞こえてくる脱地上波への足音、OTTへのさらなる進展
映像文化のセンターフィールドはネットへ
筆者がここ数年、こうした海外や国内の映像技術や機材の展示会を訪れて個人的に痛感しているのは、もうすでにテレビや映画という現場に映像技術や機材の技術的軸足はなくなってきた、ということだ。
世界中を見渡してみても、このIBCはそれが年々最も顕著な形で現れている展示会だと思う。IBCも元々は放送技術に軸足がありながら、英国BBCに代表されるような先進的な放送局、つまりネットとの親和性、協調性を初期から模索してきたような、先駆的なヨーロッパのコンテンツホルダーの考え方に牽引されてきた経緯がある。その意味ではIP/ITの導入には最も早くから積極的な展示を行ってきたし、NetflixやAmazon primeなどのOTT(Over The Top)、VoIPやe-sportなど、現在、映像が最も先進的に活用される分野への技術展示やアプローチを選んできた。その意味では現状、最も進んだ映像技術の未来が読み取れる展示会に成長しているように思える。
毎年米ラスベガスで行われるNAB Showと比較してみると、あちらは北米という世界最大の映像市場に向けた展示会で、未だ世界最大規模という展示会規模を保ってはいるものの、全米放送協会が主催する展示会でもあるので、どうしてもテレビの世界から軸足は外せない内容が目立つ。IPやAI、またネット映像の最先端という意味では、カンファレンスや一部の展示はあるものの、どうしても放送の未来を語る切り口が大きく、他のフィールドの技術展示はあまり表立って見えてこない。しかし、例えばハリウッドで語られている映像制作の話は、もうすでにNetflixなどの話に終始しているのが現状なのだ。NAB Showも実際にここ数年の来場者数は明らかに下降線を辿っており、来年から開催日程の変更もあるようだ。
近年巨大化している北京のBIRTVも先進的なテクノロジーが見られる場所でもあるが、全てが国主導という特殊性も加味して、そのお国柄を反映した内容が目立つ。InterBEEは日本という、世界から見れば異端な映像業界を構築している国の展示会なので、世界市場に照らし合わせてもあまり意味をなさないが、多くの映像機器メーカーがある、最先端技術国の展示会として見るべきものも多い。
そんな中で参加国が欧州圏以外にも北南米、中東、アジア、アフリカ圏と参加も多く、1国のイニシアチブではない側面が均衡に見えてくるIBCは、今一番、世界市場に照準を合わせた展示会に見えてくるのは当然の結果だろう。
IBC2019トピックス:01
そんな中で、開催された今年のIBC2019。初日の朝から開催された、ソニーのプレスカンファレンスでは、今年新しい価値創造に取り組んでいくという意味を込めたテーマ「Go Make Tomorrow」とともに、当日2機種の新型カメラとレンズが発表された。
PXW-Z750は、4K 2/3型イメージセンサーを搭載した、新開発の3板式カメラシステムを採用したショルダータイプのXDCAMカムコーダーのフラッグシップモデル。グローバルシャッター機能を搭載したことで、フラッシュバンドや動体歪みが発生しない機構となっている。コーデックも高効率圧縮かつ低ビットレートを実現したXAVC-L422 QFHD200に対応。10bit 4:2:2サンプリングにより4K HDR/HDSDRの同時収録にも対応している。HD収録時では最大120fps撮影に対応。その他12G-SDI出力対応。
もう一つの目玉は、FS7 IIの次世代機とも言える、新開発の6Kフルサイズの裏面反射型イメージセンサーExmor R(有効画素数 約1,900万画素)を搭載した4Kシネマカメラ「FX9(PXW-FX9)」を発表。シネマカメラのフラッグシップ、VENICEの弟分となるフルサイズセンサーカメラで、αシリーズから受け継がれた、位相差検出AFとコントラストAFを併用したファストハイブリッドAFシステムも搭載している。
ダイナミックレンジも15ストップ+を実現。またソニー独自の内蔵型の電子式可変NDフィルターも新たにフルサイズセンサー用に開発するなど、あくまでFS7スタイルのワンマンオペレーションを意識したモデルになっている。(FS7 IIは併売)。FX9は2019年12月10日発売予定で、希望小売価格はオープン、市場想定価格はFX9ボディのみで税別120万円前後。
これと合わせて、ソニーのFEレンズシリーズの新たなシネマレンズラインナップ第一弾として、大口径広角ズームレンズ「FE C 16-35mm T3.1 G」を発表。Eマウントのシネマレンズシリーズとして、EFX9やαシリーズと組み合わせた使用を想定した設計がなされている。超高度非球面レンズ(XA-extreme aspherical)を2枚、非球面レンズ3枚を効果的に配置し、ED(特殊低分散)ガラスを2枚採用、ナノARコーティングを施すことで、ズーム・フォーカス全領域で高い解像性能を実現している。2019年12月10日発売予定で、希望小売価格は税別70万円。
パナソニックは、PTZカメラ10周年を記念するロゴが各所に目立つ、リモートカメラを中心としたソリューションを中心に展示。初日のプレスブリーフィングでは、OBS(Olympic Broadcasting Services)の技術トップである、Isidoro Moreno氏が登壇。これまでの同社が関わってきたオリンピックでの放送技術の歴史に加えて、来年の東京五輪開催に向けて、パナソニックが挑戦する新たな放送技術や開催への抱負などが語られた。
初日すぐに大きな話題をさらったのは、ブラックマジックデザインから発表されたライブ配信用のHDミニスイッチャー「ATEM Mini」。YouTube LiveやFacebook Live、Skypeなどの様々なライブ配信用プラットフォームで、誰でも簡単に使える4つのHDMIカメラ入力を持つライブプロダクションスイッチャー。HDMI OUTの他にUSB-Cのウェブカムアウトのコネクターも搭載。またフェード、ディップ、ワイプ、DVEなど多彩なトランジションなどビデオエフェクトも装備。無償のATEM Software Controlパネルも同梱されて、税別35,980円。
併せて発表された、ミニモニター/レコーダーの新製品「Blackmagic Video Assist 12G HDR」。5インチと7インチの2モデルが同時発表となり。HD、Ultra HD、2K、4K DCIフォーマットによるモニタリングと収録が可能。HDR用に今まで以上に明るい高輝度2500nitsのスクリーンと、タリーインジケーター、4つの内蔵スコープ、改善されたフォーカスアシスト機能、3D LUT、Blackmagic RAWをサポートしているカメラでのネイティブ収録が可能。
ブラックマジックデザインはいつもの7ホールのメインブースに加えて、今年はDaVinci Resolveの専用トレーニングコーナーを5ホールに設け、FusionやFairlightなどを含むソフトウェア別に連日トレーニングを開催していた。
txt:石川幸宏 構成:編集部