txt:江口靖二 構成:編集部

今年注目のキーワードは“8K+AI”

IBC2019での注目キーワードは「8K+AI」だ。そしてそれらのほとんどは中国企業によって先導されていることに我々は気がつく必要がある。

まず今回最も気になったのはHiSilicon社だ。同社はHuaweiの子会社で、主にSoCの開発製造会社である。同社のSoCである「Kirin」はアップルの「A」、Qualcommの「Snapdragon」などと同様の、世界最先端レベルのハイエンドスマートフォン向けのチップセットだ。

8K+AIといっても、HiSiliconは家電メーカーではないので、こういう8Kテレビを発売します、という意味では必ずしもない。あくまでもソリューション展示であるが、完全に製品レベルの内容である。

今回の展示は8K AVS3エンコーダー(AVS Audio Video Standardは主に中国で使用されている最大8Kの解像度をサポートする新世代のビデオコーデック)、同社の最新SoCであるHi3796CV300を搭載した8K AVS3デコーダー、および8Kディスプレイで構成されている。

さらにSoCに組み込まれたAI処理専用ユニットNPU(Neural Processing Unit)は、Big-CoreとTiny-Coreを組み合わせた「DaVinciアーキテクチャ」を採用している。蛇足ながらBMDのDaVinci Resolveとはもちろん何の関係もない。このNPU技術は、IBCの直前にベルリンで開催されたIFA2019において最新のSoC Kirin 990にも搭載され、かつ4Gと5Gの両方に対応したことが話題になったばかりだ。

Beyond Realityとタイトルされた展示。表示される映像の画質に関しては正直今ひとつだ

今回のデモ環境の内容

ではこれの何が凄いのか、次の図を元に説明しよう。Hi3796CV300を搭載したテレビまたはSTBが中心、いわばポームハブになり、図中に黄色く書かれているインタラクション(操作系)と伝送路系、そして表示系のバブになるというわけだ。この図には書かれていないが、高解像度防犯カメラを接続して異常を検知することも行うことができる。

テレビを軸にしたスマートホームの概念

AIトラッキング機能を内蔵した監視カメラに見立てたOBSBOT社の「OBSBOT Tail」にはHiSilicon社のチップが使われている

OBSBOT Tailの詳細仕様

AIベースでの高画質化と画像分析の考え方

AIカメラとAIベースのピクチャークオリティ

いままでもテレビを家庭のハブにしようという話は幾度となくあったのはご承知の通りだ。その延長線上の話ではあるが、8Kという超高解像度、強力なエッジAIエンジン、5Gも含めた複数の伝送路、8K120fpsという表示環境によって、これまで出来なかったことが実現する可能性がある。

さらにKirin 990はスマートフォン用のSoCだが、テレビのSoCともはや何ら変わることがない。つまり5Gスマートフォンで8Kを表示することが可能な世界に突入する。だからといってスマートフォンはせいぜい6インチ程度の画面サイズなのだろうから、そこに8Kを表示しても意味はない。確かに意味はないが、6インチくらいの8Kディスプレイ技術の実用化は必要だが、テレビとスマートフォンを分ける意味がまもなくなくなることを意味する。

分けるというのは開発リソースもアプリケーションも、すべてが8K+エッジAIで共通化されていく可能性を示唆しているのだ。そしてそれらをネットワーク化するのが5Gであり、近い将来にはKieinが8Kテレビに搭載されることになるのかもしれない。

これらは8K放送みたいな話ではなく、End to Endの8Kであり、8K映像入力、8Kデコード、および8K TVディスプレイをカバーし、ビデオが完全に8K時代に入ることを示している。日本のように、8Kディスプレイは高いとか大きいとか、8K放送は普及しない、などというレベルの議論のみに終止しているのとはあまりにも格差が大きい。

DaVinci Resolveアーキテクチャ上でのディープラーニングアルゴリズムは、ビットレートを大幅に削減し、ストレージコストを節約できる可能性ができたり、コンテンツ解析においては空間深度情報を取得し、今まで以上の高度な分析を可能にさせるものだ。

HiSiliconが8Kを主語にして展示を行ったのに対して、親会社のHuaweiは同じ内容を5Gを主語にした展示を行っていた。

Huaweiは5G+8K+Cloud VR

5GにとってエッジAIやクラウドコンピューティングで実現できること

こうした世界観をトータルで示している、実現できているのはHuaweiやHiSiliconに代表される中国勢(のみ)だ。そしてその2社だけではなく、IBCではCHNGHONGも同じ内容の展示と提案を行っていた。北京市も大きなパビリオンブースを構えてこれに続いている。少し前まで中国の企業は、世界の展示会で小さな1コマブースにどこにでもあるケーブルやケースを山のように並べてブース内で中華弁当を食べている、みたいなイメージが強かったが、今まは全くでそうではないのである。

CHANGHONGの8K+AIの展示

北京市のパビリオンブース。15社ほどが参加していた

txt:江口靖二 構成:編集部


Vol.02 [IBC2019] Vol.04