txt:江口靖二 構成:編集部
可能性未知数のブロックチェーン
IBC2019では、ブロックチェーンに関するセミナーが3本開催された。2018年は6本だったので、数で見ると半減している。数だけで判断するのは適切ではないがあまり活況という状況ではない。
IBCの中で常に新しい領域を中心に取り上げるFuture Zoneの基調講演として、Tech Mahindra社のBlockchain Practice LeaderのRajesh Dhuddu氏が登壇した。同社はインドのコングロマリットであるMahindraグループの情報、通信、テクノロジー分野におけるデジタルソリューションのサービス会社で、年間売上高71億ドルのグローバルな複合企業体である。日本からはなかなか見えにくいが、グローバルで見た場合の事業スケールと影響力は極めて大きいといえる。
Tech Mahindra社のBlockchain Practice LeaderのRajesh Dhuddu氏
基調講演のタイトルは「Blockchain Incubating M&E Future」(M&EはMedia & Entertainment)である。
基調講演は最初に、「ググるというのは必ずしもグーグルで検索をするということではないのと同じように、ビットコインだけがブロックチェーンというわけではない」という、未だに誤解されやすい部分の指摘から始まった。さらに、ブロックチェーンのフェーズは三段階あって、最初がビットコイン、次がそれ以外も含めた仮想通貨で、それらは比較的大げさに語られたが、今後はエンタープライズブロックチェーンが主流になるとした。エンタープライズ領域とは、マイクロ課金が可能な分散型CDN、コンテンツトラッキング、そして契約の管理を示す。
「ビットコインだけがブロックチェーンではない」
メディアとエンターテインメント領域におけるブロックチェーンでは、コンテンツ保護とロイヤリティの支払い、P2Pによるコンテンツのセキュアな配布と収益化、クラウドファンディング、コンテンツのキュレーションといった、制作から配信までの各フェーズにおいて様々な使われ方ができることを示した。
ブロックチェーンの進化
非常に活発に実装されていく領域
メディアとエンターテインメントにおけるブロックチェーンとは何か
しかしながら様々な課題や、誤解も同時に存在している。これらを解決するたためには、自らがブロックチェーンを活用する、利用することであると指摘した。
自らブロックチェーンを実装すること
ブロックチェーンが実装可能な領域1
ブロックチェーンが実装可能な領域2
ブロックチェーンによって複数の複雑な既存システムを統合する必要はなくなる
基調講演でのこうした指摘は、概念としては理解できるのだが、具体的なメリットや、ブロックチェーンを利用することによってはじめて実現できる、あるいは効率的に実現できるわかりやすいサービス、といういうものが見えてきていない。トークンに代表されるような機能によって、制作から利用までのフェーズでメリットが享受される構造といものが、フェーズ単位で分断されている状況では、大きくブレイクはしにくいような印象がある。
例え話だが、Netflixが全面的にブロックチェーンを利用するようなことでも起きればわかりやすいのだが、そもそもそういうことではないし、仮にそういう意味合いのことが起きたとしても、それでは中央集権型のビジネスになるので、本来の各フェーズにいるプレイヤーやユーザーにとってはブロックチェーンがもたらす価値観や世界観とは矛盾する話になってしまう。
たとえばソニーミュージックが「soundomain」で目指していることは、アーチスト側、あるいはユーザー側それぞれの個人にデータが紐付くことで、音楽の権利情報を細分化して管理して、クリエイターとユーザーの間で合理的な価値の分配が可能になることが期待されている。この場合もやはりいままで「中央」にいたソニーミュージックの役割そのものが問われる事になり、場合によっては自己否定になるので話はそう単純ではない。
IBC2018から2019までの1年間で、メディアとエンターテインメントにおけるブロックチェーンは、じわじわとしたゆっくりとした動きだったと言えよう。ブロックチェーンが業界構造や社会構造を変えることができるだけの原動力や推進力がこれから持てるかどうか、可能性はあるがそこはまだまだ未知数のままである。
txt:江口靖二 構成:編集部