txt:荒木泰晴 構成:編集部

現像されたフィルムを受け取る

最近、フィルムを試写する機会が少なくなった、というより、ほとんどない状況だ。

フィルムで撮影しても、現像が終わりカラーネガフィルムが仕上がると、直接カラーネガフィルムからデジタイズして、デジタル編集されるフローが定着してしまった。

編集が終わったデジタルデータは、最終的にグレーディングするわけだが、元のフィルムがどのように写っているかフィルムで上映して検証せずにグレーディングして、いわゆる「フィルムテイスト」が再現できるのだろうか。

筆者は、常々疑問に思っているので、今回はラッシュ(素焼きのポジプリント)を作成して、16mmフィルム映写機で試写することにした。

素材センターで、缶に入ったオリジナルカラーネガフィルムと紙箱に入ったラッシュプリントの2種類を受け取る。

受付をしていただいたIMAGICA Lab.の岡田さん(右)

受け取り表にサインして、IMAGICA Lab.のバッグを受け取る。

ネガとポジ

オリジナルネガティブフィルム(下、ネガ)。作業用ラッシュポジティブフィルム(上、ポジ)

現像が上がってきたオリジナルネガティブフィルム(以下:ネガ)。作業用ラッシュポジティブフィルムを比較してみよう。同じコマを並べてある。フレームにヒゲが無く、ネガに傷も無いことが判る。

通常、16mmフィルム撮影では、ネガを使う。これは、上映用のプリントフィルムを数本から数百本焼き増すためだ。撮影用のポジもあるが、焼き増しプリントを作成するためには、結局ネガを作らなければならないため、始めからネガを使うわけだ。

ネガから、明るさや色彩調整をしない、素顔のままの状態で、作業用のラッシュポジを作成する。ラッシュを試写して、露出や色彩のバラつきを確認することで、スタッフの実力が判断でき、どこを修正すればより良いフィルムが仕上がるかの目安になる。

ラッシュポジは作業用であり、デジタルでいう「オフライン」編集をする素材にあたる。

オリジナルネガは、撮影が終了し、完成したラッシュが仕上がるまで、絶対に触らない。完成ラッシュに基づいて、1コマも間違わないようにネガを切り、完成ネガを作成する。ネガを管理し、編集する作業は、専門のネガカッターが行う。

試写室

16mmフィルムの試写は第二試写室。第二試写室は、東京映像センター1号館に沿って進んだ3号館奥にある。

案内を頂いた岡田浩二さん(右)と永海彩弥野さん(右から2番目)

座席は70席あり、ちょっとした小劇場といった施設だが、座席の後ろに映写室と繋がった卓が設置してあり、プロ専用の雰囲気だ。

東京映像センターの第二試写室。座席数は70席

第二試写室は、「ドルビーシネマ」向けカラーグレーディング、DCPマスタリング、映写作業の対応が特徴

「こんな凄いところで見るんですか」と、両君。

映写機は整備が行き届き、画面の揺れはないし、スクリーン上で基準の明るさで上映できるよう光量が調整されている。

「試写室で見ないと、自分で撮影した色や露出の違いをチェックできない。ここで見て、初めて自分の実力が判る」

「へえー」

上映

映写が始まると、「うわー!!」と、両君から声が上がる。

「きれい」と、石原さん。

「彩度が低いですね」と、PRONEWSの和田さん。

「フィルムではこんなもん。露出は少し明るめにしてあるので、最終的に焼き込んでコントラストを上げるようにする。デジタルのRAWで撮ってるような感じ。桜の花の色はデジタルに比べて素直で、画質もなだらかでしょう。デジタルを見慣れていると、彩度が低いと感じるかも」

映写機室内の16mm映写機

総合的に、

ちょっとシアンが強い(筆者)

最後から2番目のカットは1絞りオーバー、これは反射露出計で測るべきだった。完成プリントを作る時に、カラータイマーと調整(筆者)

山門のティルトは絞りの送りが上手くいっている(石原)

手持ちの歩くカットは、もう少し上手くなる余地がある(石原)

桜の花びらが散る手持ちは、上手くいっている(荒木)

ファインダーから目を離したカット、ティルトの最初が揺れたカット、短すぎるカットは一目瞭然(全員)

映写が基準を満たしているからこそ、仕上がりの補正まで含めた感想が言えるのだ。全体を見ると、初めてにしては上々の出来で立派に合格点をクリア。

今回の試みを総合して

16mmフィルムをたった100フィート回しただけで、荒木君と石原さんの意識の中で何かが変わり、デジタルでは考えなかった「1カットの重み」が身に染みたようだ。撮影に至る段取りが作業の80%を占め、「一発でOKを出す感覚が重要」と、理解してもらえれば、今回の試みは大成功である。

この感覚でデジタルを撮影すれば、「本当のコストダウン」が可能になる。デジタル時代の諸君、「漫然とテイクを重ねることは、決してスキルの向上には繋がらない」と、言っておこう。荒木君はディレクターとして、石原さんはカメラパーソンとして、段取りと手順を記憶することができたのだろうか。

また、今後、継続してフィルム動画を撮影するのだろうか。

txt:荒木泰晴 構成:編集部


Vol.05 [Film Shooting Rhapsody] Vol.07