txt:荒木泰晴 構成:編集部
フィルムを編集する方法
(01)ラッシュポジフィルムを切り貼りする。
フィルムで撮影したのなら、ポジを編集機にかけて、切り貼りして仕上げるのが、筆者の世代には普通の方法だった。このために必要な機材の解説は、[Film Shooting Rhapsody]Vol.03 知っておきたいフィルムの知識の「編集のための機材」の項を参照願う。
スティーンベック電動編集機
(02)フィルムをデジタイズして、PC上で編集する。現在の世代には、こちらの方が普及している。オリジナルネガをダイレクトに10bit Logでスキャンするのが、IMAGICA Lab.のやり方だが、今回は、ラッシュフィルムを映写機改造型のスキャナを使って、簡便にデジタイズする方法を選んだ。
MUKカメラサービスでオリジナルスキャナ
マウントアダプターのパイオニアとして、業界では有名な企業である。とは言え「小菅宗信社長夫妻が守る小店舗」が正確だろう。
〒231-0011
神奈川県横浜市中区太田町1-20 三和ビル2階 2-A
ここに、筆者がホクシン製の16mm映写機を2台提供し、小菅社長が改造したスキャナが設置されている。
光源をLEDに換装。既存のDSLRを利用して、映写画面をダイレクトに撮影するのがコンセプト。ここまでは誰でも思いつく。
簡単にできそうだが、超クローズアップを撮影するレンズの選定、映写機のフリッカー対策、全体の揺れを抑制する免震対策など、独自のノウハウの塊で、誰にでもできる改造ではない。小菅社長も試行錯誤の連続で、実働を始めるまで6ヶ月以上かかっている。
この結果、毎秒24コマのリアルタイムスキャンが可能になり、音響もダイレクトに録音できるシステムが完成した。
ただし、
- ネガフィルムは、唯一のオリジナルで、傷を付けることはできないので、映写機には掛けない
- 映写機に掛けられないほど傷んでいるフィルムは適さない
- 褪色して色彩が変わってしまったフィルムや傷は、依頼者自身がPC上で修正する
など、スキャンコスト削減のために一定の条件がある。詳細は、MUKカメラサービスのホームページで確認願いたい。
今回のスキャン
今回スキャンするラッシュは100フィートで3分弱。IMAGICA Lab.で2回映写しただけの新鮮な状態で、傷は無い。露出オーバーが1カットあるので、ノーマル露出と、3分の2絞りアンダー露出のスキャンを2回行った。DSLRで撮影した画像は上下逆像なので、PCに取り込んで、DaVinci Resolveで正像に戻し、SDカードにコピーして、1時間足らずで終了。
フィルムが長くても短くても、セッティング、スキャン、PC作業に必要な手間は変わらない。4K24Pまでスキャンできるが、16mmフィルムはHDと同等な画質なので、無理に4Kスキャンする必要はない。
収録するメディアは、カードやHDDを持参すればコピーしてくれる。短いフィルムなら、待っている間に作業が完了するが、「30分まで10,000円の最低料金」なので、まとめてスキャンするのがお薦め。
アーカイブの現状
残念ながら、16mmフィルムを映写機でスクリーンに上映して、「何が写っているか」を確認するのは困難になりつつある。デジタルスキャンによって、「何が写っているか判る」状態にしないことには、フィルム画像を整理してアーカイブにしようがない。
本格的に1コマずつ傷や色を修正しながらデジタイズするには、1作品当たり膨大な費用を必要とするので、「どのフィルムを復元するか」を判断するためにも、安価で速く大量にスキャンできるシステムが必要だった。MUKカメラサービスのスキャンの画質がどのような需要に合致するか、動画を見て判断していただきたい。
既に「テレビ放映には問題ない画質」という評価もあるそうだ。
先頃の台風で、水没の被害に遭った「川崎市市民ミュージアム」のフィルム収蔵倉庫にも、数千本のフィルムが保存されていた。この内、数本は水没以前にテストスキャンされて、高評価を得ていたが、誠に残念な結果になった。
このような切実な実情と、経年変化で悪化するフィルムの状態を考えると、大量に16mmフィルムを保有、保存する施設や法人の悩みを解決できる一つの方法として、微力ながら貢献できれば、と小菅社長は願っている。
txt:荒木泰晴 構成:編集部