キヤノンPTZカメラ特集説明写真

2021年5月から6月にかけて発売を開始したキヤノン初の映像制作用リモートカメラシステム。キヤノンは、長年培ってきたイメージングとネットワーク技術、高画質の追求、撮影ワークフローの効率化を両立する映像制作用リモートカメラシステムを新たに立ち上げた。そこでPRONEWSでは、キヤノン初の4K PTZリモートカメラの魅力を今回から3回にわたり、紹介する。

第1回は、キヤノンリモートカメラ開発者インタビューをお届けしよう。商品の市場導入を担当したキヤノンの道喜秀人氏、CR-N500やCR-N300の開発プロジェクトチーフを担当したキヤノンの余西理氏、商品開発を担当したキヤノンの高見真二郎氏、国内マーケティング担当のキヤノンマーケティングジャパンの小野由起乃氏に集まっていただき、尾上泰夫氏(DreamCraft)が気になることを質問するオンライン対談の様子を紹介する。

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左から、リモートカメラの市場導入を担当した道喜秀人氏、開発プロジェクトチーフを担当した余西理氏、商品開発を担当した高見真二郎氏

キヤノンから待望のリモートカメラ登場

尾上氏:キヤノンさんからCR-N500とCR-N300の実機をお貸し出し頂き、試用させていただきました。CR-N500は、昔からある大型のPTZカメラを小型化してかわいくした印象を受けました。CR-N300はセキュリティに使われるネットワークカメラを一般的な映像制作で使えるように作り込んだ印象で、CR-N500とCR-N300を上手に作り分けをされているなと感じました。
また、いずれもレンズの光学性能が良く、流石、レンズメーカーであるキヤノンさんが得意としているところだなと思いました。色の再現性や出力された画の安定感にとても好感を持てました。
気になったのはキヤノンのPTZカメラは、競合他社に比べて後発であるところでした。映像業界では放送用ロボットカメラシステムでこれまで長く実績を積まれているのに、なぜこのタイミングでPTZカメラを新たに立ち上げられたのでしょうか?

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屋内用リモートカメラの「CR-N500」と「CR-N300」

道喜氏:

弊社は映像制作現場で使っていただく業務用ビデオカメラをかなり早くから手掛けております。それと同時に以前からネットワーク技術を使用した監視カメラの開発も行っています。今回弊社が参入したリモートカメラはPTZを使って映像制作に使えるカメラを目指して企画いたしました。
弊社のリモートカメラが後発であることは、弊社自身もそのように認識しております。しかし、後発がゆえに複数のプロトコルへの対応を押さえつつ、自社独自のプロトコルであるXCプロトコルを搭載するとともに、業務用ビデオカメラで培った4K高画質とオートフォーカス制御といった映像技術も盛り込んだのが今回の映像制作用リモートカメラシステムです。

尾上氏:なるほど。ポイントをしっかりと押さえていらっしゃいますね。
今回、私はTriCaster Mini 4KにいくつかのメーカーのPTZカメラを取り込んで、すべてのコントロールをスイッチャーの中で行うテストをしました。ジョイスティックとマウスを使って微細な調整が可能でありながら、一方、プリセットした撮影ポイントに切り替える時のスピードには驚きました。そのメリハリの利いた動きが素晴らしく感動を覚えました。
PTZのマニュアル操作では人が三脚で操作した時と近い動きを期待したいところですし、監視カメラの様なキビキビと動き、撮影したいポイントに正確に瞬時に飛んでいく様な動きも必要です。その両方を両立させてきた印象を受けました。そういう意味では大変キヤノンさんらしいPTZカメラが登場してきたなと感じました。そのあたりの開発のこだわりがあれば教えていただけますか?

余西氏:

プリセットの高速な動きに関しては、監視カメラの方でも従来から実装しておりまして、そのあたりのノウハウを活かしながら到達地点に早く着くことが可能です。
ただ早く着くだけが必ずしも今回のリモートカメラシステムの長所ではなく、非常に精度高く制御できることが特徴です。また、PTZカメラは何回も繰り返し動作していると、機種によってわずかなズレが生じたり、同じ動作ができなくなることがあります。CR-N500ではそこを重要視して、何回同じ動きを繰り返してもほぼズレのない正確な位置の制御を可能としています。
さらに、高速と低速の両立を実現しており、特に低速の動きにこだわっています。映像制作として重要なゆっくりとリッチな映像を撮影する際も揺れやブレが極力起きないよう工夫しています。

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キヤノン株式会社イメージソリューション事業本部の余西氏

小野氏:

実は尾上さんにお貸し出し後に、ファームウェアアップデートを公開いたしました。新ファームウェアではプリセットの呼び出しのときに時間指定や速度レベル指定が可能になりました。また、プリセットの移動中の停止も、停止ボタンで操作が可能になるなど、便利さを常々追求しています。さらに、パン・チルト・ズームがすべて同時にたどり着くような仕組みも実装されています。

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CR-N300(左)とCR-N500(右)

尾上氏:現行バージョンでも十分だと感じましたが、確かにパン・チルト・ズームのタイミングがすべて一致する動きは欲しい機能でした。パンだけ高速でズームは低速だと映像的にその移動区間は使えなくなりますが、今回のPTZカメラはスムーズかつ自然の動きで寄ることができました。それは、天気予報のオンエアで使える屋外型ロボットカメラシステムの旋回の綺麗さや、どこに寄ってもスムーズな動きは長年蓄積されている技術の現れだと感じました。
放送局からも絶大な信頼のあるキヤノンさんですので、PTZカメラの通信プロトコルの選択肢はいくつかあったと思います。なぜNDIを対応プロトコルの一つとして採用されたのでしょうか?

余西氏:

リモートカメラの商品化決定の頃からリサーチをはじめ、NDIがリモートカメラ業界において広がりつつあることを捉えていました。そこでNewTek社とコンタクトをとりながらNDI対応に至りました。

気になるCR-N500とCR-N300の棲み分け

尾上氏:なるほど。CR-N500とCR-N300のそれぞれ想定されるユーザーはどのように考えられていますか?

道喜氏:

CR-N500は上位機種で、放送局やスタジオ、コンサートホール、スポーツ施設、大型スタジアムも含めて、よりハイエンドのお客様に使っていただける商品として企画いたしました。
CR-N300は、動画配信などリモート需要が高まっている中、教育関係のオンラインセミナーやYouTubeだけでなく、一般企業様や中小規模のプロダクション様にも導入して頂きやすいようにまとめた商品になっております。

尾上氏:とてもCR-N300はお買い得な感じがします。相当売れるのではないでしょうか?

小野氏:

私が国内マーケティング担当として感じることは、先ほど道喜が申し上げたことはもちろんですが、昨今、放送局様と撮影・配信を目的としたユーザー様の入れ替わりも感じております。例えば放送局様でもネット配信などを行う場面が増えていて、CR-N300クラスの小型モデルが有用性を見出されている場合もあります。
その一方で、一般のお客様が映像配信をされている場合にCR-N300よりも、さらに高画質高性能で、より鮮明に映像配信をされることを目的にCR-N500を選定されることも増えています。
プロとアマの垣根がなくなってきているような気がしており、どちらのお客様にもご満足いただける商品ではないかと私は感じております。

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リモートカメラの国内マーケティングを担当する小野氏

カメラで築いたAFをキーテクノロジーとして搭載

尾上氏:他社製リモートカメラとの違いはどこにあると考えていますか?

道喜氏:

まずリモートカメラのラインアップが全て4Kであることが弊社の特徴です。また、カメラで培ったオートフォーカス技術をキーテクノロジーとして商品を企画いたしました。 そして、その中のコンポーネントには、CINEMA EOS SYSTEMや業務用ビデオカメラのXFやXAシリーズなどに搭載している技術を取り入れております。例えば、上位機種のCR-N500は1型CMOSセンサーやDIGIC DV6と呼ばれる弊社の映像処理プラットフォームを搭載し、デュアルピクセルCMOS AFと呼ばれるキヤノン独自のオートフォーカス技術を採用しています。
CR-N300に関しては、業務用ビデオカメラに搭載してきたハイブリッドAF方式を採用しております。シーンに合わせて最適なフォーカススピードに調整されるため安心してお使い頂けるかと思います。

余西氏:

今回はデュアルピクセルCMOS AFを搭載していますので、フォーカスのスピードは確実に高速です。それと同時にゆっくり動かせばフォーカスが合ったままの状態でパン・チルト・ズーム操作をすることが可能です。
そこはユーザー様にも実際に使って、感じて頂ければと思っています。

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リモートカメラコントローラー「RC-IP100」

尾上氏:今後のPTZカメラシリーズの開発の方向性を教えてください。

高見氏:

2021年7月に公開されましたNDI 5は、インターネットを想定した新通信プロトコル「Reliable UDP」へ対応されていますし、NDI TOOLSもNDI Bridgeと呼ばれるPTZリモートカメラの映像ソースが遠隔地から共有される機能が搭載されています。
このことからもインターネット上での映像のやりとりが今後より主流になっていく可能性が高いことがうかがえます。弊社も今後リモートでの映像制作業界において価値ある製品を世に送り出せるように業界の動向を注視していきたいと思っています。

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商品開発を担当した高見真二郎氏

余西氏:

キヤノンのリモートカメラはNDI|HXを搭載しております。TriCasterとの親和性も高く、ユーザー様に使っていただける環境は整っていると思います。

尾上氏:最後、新開発のIP「XCプロトコル」について教えてください。

道喜氏:

弊社のカメラならではの特徴を出すために、リモートのマルチカメラ運用において柔軟な画作りができる画質調整機能を搭載したXCプロトコルを新規開発しました。XCプロトコルはユーザーが満足できる画質の高さを目指し、色味やダイナミックレンジ、黒レベルの調整が可能です。

尾上氏:映像制作現場で普及しているNDIのほか、カメラの画質調整や設定変更などの制御ができ、PTZカメラだけでなくCinema EOSシリーズの機器も制御できる「XCプロトコル」のこれからの展開に期待したいところです。今日はありがとうございました。
おのりん(こと 尾上泰夫)|プロフィール 映像に関わり47年。テレビの報道取材がフィルムからビデオに替わった初期のテレビで、報道、スポーツニュースをカメラマンとして過ごす。その後、制作に興味を持ち旅番組の演出を担当。さらにモータースポーツの中継番組からメーカーのプロモーション映像、大型展示映像などを手がける。インターネットでのIP動画配信でカジュアルな映像機器がもたらす動画の可能性を感じて、より小型でシンプルなシステムを啓蒙してコンテンツホルダー向けのコンサルティングや、発信する組織、個人に向けた動画の学校を主宰している。

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[PTZ Camera SCENES] Vol.02