アメリカ・ジョージア州で毎年開催されているゴルフのメジャー大会「マスターズ・トーナメント」(以下、マスターズ)。日本でマスターズの独占放送をしているTBSテレビの中継で、キヤノンのリモートカメラ「CR-X300」が現地映像の1つとして導入された。現地でテクニカルディレクターとして放送に携ったTBSテレビ メディアテクノロジー局 制作技術統括部 高岡崇靖氏に、CR-X300の使い勝手やリモートカメラ運用でのメリットなどを伺った。
――高岡さんのTBSテレビでの業務について教えてください
高岡氏:
2006年にTBSテレビに入社し、7年間音声の部署でスタジオや中継での収録に携わりました。その後7年間はスポーツ中継のカメラやスイッチャーを担当しました。現在は制作技術統括部という部署でボクシング、野球、サッカー、ゴルフなどのスポーツ中継の費用を決めたり、カメラマン、音声、照明などの人員をどのように準備するか、といったコンテンツのクオリティを予算の中でどのように作り上げていくかという役割を担当しています。また、「マツコの知らない世界」「アイ・アム・冒険少年」「オオカミ少年」といったバラエティ番組も担当しています。
普段は上記のような費用管理、マネージメントをしていますが、ゴルフ中継においては音声の部署にいた頃から長年にわたって現場にいた経験があるため、マスターズでは現地でテクニカルディレクターとして参加しました。
――CR-X300はコースのどの辺りに設置されたのでしょうか
高岡氏:
選手が試合の前や試合後に次の日の試合に向けて練習を行う、ドライビングレンジという場所に設置しました。試合前、試合後の有名選手、特に日本人選手の動向を撮影するというコンセプトです。
カメラを左右に振ったり、ズームインするなどの操作は全て赤坂のTBSテレビにあるPサブに設置したリモートカメラコントローラで行いました。やはりメインは前回優勝した松山英樹選手で、今年もできるだけ長く松山選手の動向をお伝えしたいと考えました。
――中継機材の1つとしてCR-X300を導入した経緯を教えてください
高岡氏:
昨年(2021年)のマスターズでリモートカメラを導入することになり、まずはなるべくコストをかけずにトライアルしてみようということで、弊社が所有しているいわゆるお天気カメラの予備機材を使ってリモート撮影を行いました。今年と同じくドライビングレンジに設置しました。
その予備機材が少々古いこともあり、画質の面ではあまり良いものではなかったのですが、優勝した松山選手の試合前後の動向を撮影できたことは非常に価値のあることで、制作サイドにも満足してもらえました。
今年は昨年よりも画質を良くしたいと考えていたところ、丁度キヤノンから新しいリモートカメラとしてCR-X300が出るということで色々と相談させていただき、今回使わせていただく事にしました。
――CR-X300の画質はいかがでしたか?
高岡氏:
カメラから100m程離れたパットを練習する場所で松山選手を撮影することが多かったのですが、CR-X300のテレ端付近(35mm換算627mm)でちょうど松山選手全体が映るサイズでの撮影ができました。
画質については、テレ端からさらにデジタルズームで寄った状態でも昨年と比較してとても綺麗で、弊社の技術、制作の人間も非常に喜んでいました。回線としては20Mbpsをリモートカメラの映像とリモート操作用として確保しており、データとしてはH.265で12Mbps程度でした。現地のホスト局が使っているカメラの映像と比較しても全く遜色ないクオリティでした。
――CR-X300を実際に使ってみた印象はいかがでしょうか?
高岡氏:
昨年の機材ではゆっくり目のパン、ズームが難しく、どうしても動きがカクカクしていたのですが、CR-X300ではとてもゆっくりなパンも全く問題なく出来たので、晴れた空や綺麗なゴルフ場の景色といったビューティーショットの撮影にも活用できて非常に良かったです。
実は現地の中継車に、万が一の場合を想定して赤坂と同じリモートコントローラを設置していましたが、4日間の収録期間中、赤坂から操作ができないといったトラブルはありませんでした。信頼性の高さを実感しました。
また、カメラがIP65防塵防水性能を備えているのでカバーなどをかける必要がなかったですし、カメラにワイパーが装備されていてリモートで操作できます。実際、期間中にスコールがありましたが、ワイパーを使って事無きを得ました。カメラが設置されているのが現地の中継チームがいる場所から2kmほど離れた場所なので、レンズを拭くためにカメラまで往復する必要がなく、非常に助かりました。
――今後、どのような案件でCR-X300を使ってみたいですか?
高岡氏:
様々な可能性があると思います。例えばボクシングでは、テレビ放送のようにカット割やスローを挟むということをせず、配信という形でリング全体を写すアングルで試合をしっかり見せるという使い方があると思いますし、野球ではブルペン(投手が試合前に練習をする場所)に設置すれば現場の中継車からリモート操作をすることで人を配置せずにアングルを増やすことができます。もちろんゴルフの国内ツアーでも、今回のようなドライビングレンジや特定のホールに設置をして、通常のカメラと組み合わせて味付けとして使うと面白いと思います。
また、リモートカメラを使用することで大幅なコストダウンが可能です。例えば今回のマスターズでいうと、もし現地で人が撮影するとなると、アメリカ人のスタッフ、そして放送機材を問題なく使える日本人スタッフ2名が必要となるため、交通費、宿泊費など大会期間中のコストとしては100万円単位となります。CR-X300を赤坂から操作することでかなりのコストカットになりました。来年のマスターズも含め、今後とも様々な場面で活用していきたいと考えています。
――CR-X300の機能についてのリクエストはありますか?
高岡氏:
今回のマスターズではテレ端で選手全体が映るサイズになったのですが、できればバストショットや表情が捉えられるようなサイズで撮影できると良いなと思ったので、もう少し寄れるよう光学ズームをのばしてもらえると嬉しいです。
また、今回ネットワークの遅延もあり、選手を画角いっぱいに映した状態で選手の急な動きにアングルを合わせ続けるのが難しく、少し引いたアングルでの撮影が必要な場合がありました。アングル内での人物の動きを追尾してのオートフォーカスはできているので、人物の移動に合わせてカメラのアングルを自動で変えていく人物の自動追尾の機能があるととても便利ですね。