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ニコニコ動画やニコニコ生放送などで多くの動画を配信している株式会社ドワンゴが、2021年に続き今年も東大寺で行われている修二会(しゅにえ)の生中継を行った。2週間におよぶその中継で今年新たに採用したキヤノンのリモートカメラ「CR-X300の使い勝手」などについてお話を伺った。
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ニコニコ事業本部
メディア事業部 ニュース第二セクション
宇賀神隆志氏
ニコニコ事業本部
メディア事業部 ニュース第二セクション
堀貴人氏
――宇賀神さんと堀さんの普段の業務について教えて下さい
宇賀神氏:
我々2人は、普段はニコニコニュースという記者会見の中継といったニュースがメインの部署に所属していると同時に、文化的なコンテンツ、例えば東京交響楽団のコンサートや美術館での展示会の紹介といった番組も担当しています。修二会を中継させていただいている東大寺も、大仏の定点中継などで以前からお世話になっています。
――修二会の中継を始めたきっかけを教えて下さい
宇賀神氏:
ニコ生(ニコニコ生放送)には定点観察というカテゴリのようなものが以前からあります。ニコ生では視聴しているユーザーが書き込むコメントが画面に流れるのでユーザー同士のコミュニケーションが活発に行われていて、イベントの開始前から映像を配信して視聴しているユーザー同士でコミュニケーションしながら開始を待つこと自体がイベントになっています。
修二会は2週間にわたって行われる行事なので、それを余すところなくユーザー同士のコミュニケーションも交えて全てを視聴者にお届けしたいと考えた弊社プロデューサーから東大寺に提案させていただき、2021年から中継を開始しました。
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――修二会の中継にCR-X300を採用した経緯を教えて下さい
宇賀神氏:
昨年は準備期間が短かったこともあり、屋内用のリモートカメラをアクリルボックスの中に入れて中継を行いました。アクリル1枚を通しての映像となるので、どうしてもボケてしまう場合がありました。
今年も中継できることが決まった際に全天候型のリモートカメラを購入しようとなりました。私ではなく別の技術担当者が、仏教にテクノロジーを掛け合わせた「テクノ法要」という企画でキヤノンの最新4Kプロジェクターを使っており、その繋がりでキヤノンに良いリモートカメラはないかお伺いしたところ、「リモートカメラの最新機種がまもなく発売される」とお返事をいただいたので、色々と調整をしていただいて修二会の1週間前に納品していただき、その3日後には現場に設置しました。
設置した次の日には現場を訪れたニコ生のユーザーによってリモートカメラの型番まで特定されてしまいまして(笑)。カメラの性能などについて調べたユーザー同士で情報共有したり、「東大寺に観音(キヤノン)カメラが」といったコメントもあるなど、中継を盛り上げるのに一役買ってくれました。
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――中継はどのような体制で行われたのでしょうか
宇賀神氏:
東大寺の事務所の一画をお借りしてPCを設置し、CR-X300からPCまで100m程のLANケーブルを繋ぎNDI®で映像とカメラの制御を行って、そのPCで中継を行いました。実際の操作は東京からそのPCをGoogleリモートデスクトップで繋いで、事務所のPC上のソフトを使って私と堀で交代しながらカメラの操作を行いました。
音声については、二月堂の御堂で読経や五体投地(ごたいとうち)などの修行をされている際の音もお届けしたいと考え、カメラから15m程御堂に近い場所に別途マイク設置をしました。
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※画像をクリックして拡大
――CR-X300の使い勝手はいかがだったでしょうか
宇賀神氏:
昨年はカメラが止まってしまった場合を考えてハンディカムを現場に設置して映像をスイッチングすることで対応できるようにしており、実際少しの時間カメラが止まってしまったことがありました。
今年はキヤノン製品という信頼性もあり予備カメラは設置しませんでした。結果として中継全工程を通してCR-X300は全くトラブルなく稼働しました。改めてキヤノン製品の信頼性の高さを実感しましたし、とても安心感がありました。
堀氏:
私は今年初めて修二会の中継に参加をしまして、リモートカメラの操作も初めてでした。カメラを操作するソフトのインターフェースが映像の専門家ではない人間でもわかりやすく作られているので問題なく操作できました。また、CR-X300の画質がとても綺麗だったのにも驚きました。
宇賀神氏:
今後は映像の専門知識がない人がカメラの操作をしなければならないシチュエーションがどんどん増えていくと思うので、いわゆるコンシューマー向けのインターフェースというのはとても重要だと思います。
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――CR-X300の良かった機能を教えて下さい
リモートで操作可能なワイパー
宇賀神氏:
昨年はアクリルボックスの中にカメラを設置したので雨が降った際はそのしぶきを誰かがカメラの設置場所まで行って拭き取らなければなりませんでした。
CR-X300にはワイパーが搭載されていて、リモートで操作できたのは非常に助かりました。視聴しているユーザーからも「ワイパーきた~」といったコメントも書き込まれました(笑)。
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映像の明るさを自動調整するローライトモード
宇賀神氏:
「お水取り」など夜に行われる行事が多く、夜にはその暗さに合わせて映像の明るさを設定するわけですが、そのままの状態で朝になると設定が明るすぎてしまい映像が真っ白になってしまいます。
昨年のカメラは手動で明るさを調整する必要があったので大変でしたが、CR-X300には環境に合わせていくつかのモードがあり、今回は暗い環境になると自動で映像が明るくなるようにシャッタースピード、アイリス、ゲインを調整するローライトモードを使いました。このモードだと暗くなると自動で映像を明るくして、朝になると自動で明るさを元に戻してくれるので結局中継中はずっとローライトモードにしていました。
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数多く登録できるプリセット
堀氏:
カメラのパン、ティルト、ズームの設定を事前にプリセットとして登録し、それを呼び出すだけで目的のアングルにカメラが動いてくれるのですが、そのプリセットを沢山(最大100個)作っておけるのが良かったです。とりあえず事前にいくつか作成し、中継中により良いアングルが見つかった場合は微調整するといったことをやっていました。
宇賀神氏:
プリセットからプリセットへ動く際の秒数も自由に指定できるのが良かったですね。20秒といった長めの秒数を指定することで、ゆっくりと景色を見せることもできました。
また、昨年のカメラは動きが一定速度だったのでどうしてもガクガクしてしまったのですが、CR-X300には動き始め、動き終わりの速度をゆっくりにする設定があるので、目的のアングルに近づいて最後にすっと止まるといった動きができました。見ていたユーザーからも「カメラマンさんグッジョブ」といったコメントがありました(笑)。
――CR-X300への要望はあるでしょうか
宇賀神氏:
ワイパーは非常に助かる機能なのですが、カメラが上に向いた状態で撮影をしているとレンズに雨が当たり続けてしまって綺麗にするのが難しくなってしまうので、カバーのようなパーツが純正であると助かると思います。
また、屋外に設置するのでどうしても風の音を拾ってしまうため、CR-X300の内蔵マイクにウィンドカットの機能があると良いと思います。
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――今後CR-X300はどのようなシチュエーションで使えそうでしょうか
宇賀神氏:
IP65の防塵、防水機能がついて比較的小型で三脚などにも載せやすいので、屋外で何かが起こった場所やこれから起こることが予想される場所に事前に設置して無人で観察を続け、その映像を見ながら次の動きとして必要に応じて人を現場に送るというような使い方が良いと思います。ニュースの様々な場面で活用できるのではと思います。
※ NDI®はNewTek, Inc.の登録商標です。